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最後のオラシオン  作者: 河野まひ
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プロローグ

 大丈夫…

 君はそう言って、何度もその力を使った。

 自分の体を傷つけ、自分の心を削り、誰か為にその力を使った。自分の命を犠牲にしていると知っていながらも、君は誰かの為に戦った。

 あのときも、あのときも、あのときも。いつだって君は、そうだった。

 そして今日も。

 君はその命を、自分自身の全てを犠牲にして誰かを守った。


 折れた大樹の根本まで行き、そこから見える都市を見回した。

 大樹の先は崖になっていて、この国の都市を一望できる。

 北を海に、南を山に挟まれたこの都市は愛や夢、優しさや希望、様々なものに彩られている。君と私はその景色や、そこに住む人々の表情が好きだった。

 しかし、今そこから見える都市は恐怖や悲しみ、残酷さと誰も望むはずのないものに彩られていた。

 舞い上がる炎は川のようにその領域を広げ、崩れた建物は土砂のように退路を阻み、人は死に、絶望が煙のようにこの国に、この世界に蔓延していた。

 君と私が好きだったその都市は、消えた。

 これは私が招いた結果。みんなの反対を押しきってインディアードを行ってしまった。だからこの世界は終わりに近づいた。

 君がその命を犠牲にして守ったこの世界はきっと私を恨むはず。それが恐い。恐くてしかたがない。後悔してもしきれない。

 恐怖と後悔が私を支配し続けている。それはこれから先もずっと、ずっと続いていくのだろう。

 全部を投げ出してしまえば、責任も後悔も、何もかも捨ててしまえば楽になれる。


 でも……それでも私は……


 絶望に背を向け、君のもとへと歩いていく。

 まだ迷っている。迷って迷って、正しい道を探している。

 折れた大樹の根本に横たわる体。ここにはいない君に触れた。奇跡が起こることを期待したが、その体は冷たいまま。


 本当に、死んでしまったんだね……


 よみがえる思いでは、君の笑顔ばかり。

 今触れている君。死んでいるとは思えないほど幸せそうな表情をしている。そんな君を見たら、もう、迷えない。


 やらなくちゃいけないよね。


 正しいか正しくないかなんて分からない。それでも、この国の王として前に進まなければならない。

 そっと唇を重ねた。今だからできること。今しかできないこと。


 父のいないこれから。

 君のいないこれから。

 この国の、この世界のこれから。

 私の、これから。


 もう一度、絶望に目を向けた。

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