第96話:予想の斜め上。皆、脳筋だから……。
騒ぎが収束した後、私達は王都に向かって出発した。
ただ、馬をほとんどラグルさんに達に貸しちゃったから、徒歩の移動になって到着はかなり遅れることになりそう。
野菜が満載だった荷車も、このままだったら運べないということでラディさんに寄贈した。
凄く喜んでたな~。
王都に着いたらやりたいこと……ずばり魔王レベルを上げることだね。
別に魔王としてのレベルじゃなくて、魔力の容量を増やしたいってことかな。
ゲームとかだと手っ取り早いのがレベル上げだよね?
経験値っていうのかな? どうやってそれを稼いだらいいのかな?
馬車に乗って楽してたらダメでしょ!
てことで、今からでも出来ること! 私も歩いて移動することにしたよ!
したよ……。あ、みんな歩くの早い! みんなと歩幅が全然違うよ! 待って! 置いてかないで!
ぜ~は~、ぜ~は~。5分歩いただけでこれだよ! ……うん。無理。馬車の中で大人しくしてます……。
「クックック。何をしていたのですか?」
「歩いてちょっとでも能力上げようかな~って……」
「お姉様……途中から小走りになってたように見えましたわ」
「あはは。サクヤっちが歩いたら到着が5日は遅くなるよね」
『ボスは歩く速度もですが、体力も無いですからね』
反論できないよ! 私の歩く速度に合わせてって言えないしね……。しょぼん。
何回か野生の魔物と遭遇して、それをジスケルさん達が倒して、リリーとプニプニさんが負傷者を回復して、途中の村で休息を取りながら進んで数日後、やっと王都に到着した。
で、正門前の街道脇には、初めて来たときのようにテントが張られていて……。
「クックック。見覚えのある風景ですな」
「何故か何日間も風雨に晒されたような、ボロボロになったテントもありますわね」
「予想は出来ちゃうよね」
そんなことを言いながらテントに近づいていくと、痩せ細って今にも餓死しそうな兵士さん達が居たよ!
前回よりも酷い状況だよ。予想の斜め上って感じ……。
「この隊旗は、お父様の楽士隊の皆様ですわね。どうしてこのような状態になっていますの?」
イザベラちゃんが一番手前で倒れてた楽士さんを助け起こした。
どうしてこんな状況なのか本当に聞きたいよね。
「お嬢様方が……出発……して……1週間後……到着……」
……。
て、意識を失っちゃったよ!
「ジスケル兄様! 残っている食材で食事の用意をしてくださいませ! お父様はどこですの!?」
イザベラちゃんの掛け声で皆が一斉に動き出して、倒れてる楽士さんがテント郡の奥、正門前の一際大きなテントを指差した。
私とイザベラちゃんがそこに駆け寄ると、テントの入り口の前に設置された椅子に座ったまま力尽きてグッタリしてるカスケールさんを発見した。
その横には護衛の兵士さんが2人居た。こっちの人も痩せ細ってるけど……。
まだ大丈夫そうな兵士さんに話を聞いてみる。
「サクヤ様達が出発なされてから1週間後に我々は到着し、カスケール様の指示で、ご帰還されるサクヤ様達の出迎えの準備をその場で……」
「1週間って早すぎでしょ!」
「そうですわね。でも、どうしてそれであなた達はこんな状態になってますの?」
「準備していた兵糧は到着時にはそれほど残っておらず……カスケール様は、残り少ない兵糧をご自身は少なく、部下には多めに与えてくださって……」
食糧管理がザルだな~。日程管理もかな。行ってすぐに帰ってこれる訳ないよね~?
「お父様! なんともご立派な行いでございましょう! 私もお父様を見習いますわ!」
いやぁ……見習っちゃダメな部分のほうが多い気がするけどね~。
やってることはともかくとして、部下を大事にするいい主なのかな?
「それでも、節約していた兵糧は2週間前に底を尽き、今の惨事に……」
なるほど~。それで皆、餓死寸前だったんだね。私達もいろいろあって、帰りは遅くなっちゃったしね……って、2週間前ってことは最初からほとんど無かったってことでしょ!? よくその場で待機なんて選択肢を選べたよね!?
あ……非戦闘員の楽士さん達も脳筋なのかな……。
イザベラちゃんは、そんな楽士さんの手を取って、よく今まで頑張りましたわね、って、泣きながら言ってるけど。
でもね~。根本的にこの人達はいろいろ間違ってると思うんだよ。
だって、私の目の前には……。
「ね~ね~。1つ言っていい?」
「お姉様? なんですの?」
「王都がすぐそこにあるよね~? 王都に入って食料を買えば良かったんじゃない?」
……。
「「「……ぐぅふ!」」」
トドメ刺しちゃった!
でもでも、普通だったら気付くよね? ていうか常識じゃないの? 私の常識はこっちの世界では非常識ってことなの?
「しょ……職務を……」
楽士さんが地に伏した状態で、最後の力を振り絞ってラッパを口に……。
ぷ~~……ぴ~~。
「無理しなくても休んでていいから! ジスケルさん! ご飯まだ~!?」