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第95話:あんまんさんって……。

 魔族が3体。しかも、目の前にいるあんまんよりも強い魔族が2体。

 ハッキリ言って大ピンチだよ!

 とりあえず、距離を取らないと……。


 素早く地を蹴って後方に……、1体がそれより速く移動して回り込んできた。

 完全に挟まれた形にされちゃった。

 後ろを向くと隙が出来ちゃうし、あんまんは絶対にその隙を見逃してくれないよね?

 それは前方の魔族も同じかな?


 背後から凄い殺気を感じると同時に、目の前のあんまんも右手の剣を振り上げて斬りかかってきたけど、何故か左手を水平にして、下方向に小さくクイクイと動かしてる。


 屈め?


 そう理解して屈むと、頭の上でガキーン! と音がして、あんまんさんの剣で弾かれた魔族が吹き飛んでいった。

 その一連の出来事が終わる前に、前方の魔族が炎の玉を放っていた。


「我の剣を避けるとは小癪な。ウォーターショット!」


 振り向きざまに放った水の弾丸は、狙ったように私の頭の上を通り過ぎて、迫ってきてた火の玉に当って両方の魔法を打ち消した。


 多分、あれ? と思ったのは私だけじゃないね。その証拠に、火の玉を消された魔族が驚いて隙が出来てた。


(ボス!)

「光の疾風!」


 光の牙と魔族が張った魔力防壁と激突したけど、防壁は簡単に砕け散って、牙が魔族の胴体を捕らえて弾き飛ばした。

 吹き飛んだ魔族が突き出てた岩を砕いて地面にめり込んだ。


 すでに屈んだ状態だったから、そのまま犬のように駆けだしたら最初に使ったものよりもスピードと威力が上がってた。

 狼だから、2足走行よりも、4足走行のほうが自然なのかな?


「がはは! 共闘に慣れてないせいか、うまく連携が取れんな」


 わざわざ私の近くまで来てそんなことを言ってくる。

 それで確信しちゃったよ。


「あんまんさんって……馬鹿なの?」

「……」


 あ、しょぼ~んってしちゃった。


 と、そんなことしてる場合じゃないよ。魔族への攻撃は、防壁に阻まれて手応えがいまいちだったんだよね。

 その予想が当って、魔族が起き上がって剣を構えて突っ込んできた。


「がはは! 馬鹿ではないわ!」


 そのタイミングであんまんさんも剣を振り上げて突っ込んできた。

 魔族の進路と交差するように……。

 当然、あんまんさんと魔族はぶつかって、魔族のほうが吹き飛んだ。


「おっと! ぶつかった衝撃で魔法が暴発したではないか!」


 また私の頭の上を炎の槍みたいなのが飛んでいって、後ろで爆発する音が聞こえた。

 多分、後方に居た魔族に当ったね。


(ボス。見えましたか? ぶつかるときに、あんまんが魔族の腹にわざと肘撃ちをしてたのを)

「よく分かんなかったけど、やっぱり馬鹿なんだね」

(……まあ、そういうことにしておきましょう)


 そんな会話をしていたら、あんまんさんが砦の方向に視線を向けた。


「む? ようやく来たか」


 来た? 誰が?


 その言葉に私も砦のほうを見ると、ボロボロになった魔族が飛びながら向かってきていた。その後ろから、クックさんとリリーが追いかけてる状況。

 その魔族は私達の手前で力尽きて墜落した。


「サクヤ様! 無事ですか! 砦が魔族の襲撃に合い、応戦していて駆けつけるのが遅くなりました!」


 骸骨の仮面の魔族は3体居たってことだね。

 リリーのサポートがあったから、苦戦はしなかったようだけど……ていうか楽勝?

 クックさんは素早く私とあんまんさんの間に入って、リリーは後方の魔族を警戒してくれてる。

 

「がはは! こちらのダメージは大きい。我が食い止めてる間に逃げるのが懸命だぞ」


 魔族にダメージを与えたのは、言ってる本人だけど……。

 魔族はそれぞれ後方に空間の歪みを発生させて、その中に消えていった。


「さて、数ではさすがに勝てん。我も引かせてもら――」


 ガコ~ン! と鈍い音がして、両腕を組んでカッコよく言ってたあんまんさんの頭が真横を向いた。

 後ろから、上半身が裸で筋肉マッチョの男に大剣で殴られたから。

 見覚えのある人……ラディフィアさんだよ!


「痛いって! ちょ! おま!」


 その後も追撃を受けるあんまんさん。大剣を受けても痛がるだけでダメージをあまり受けてないのは凄いけど……。


「ちょ! とめて! 誰かこいつを止めて!」


 瞳が怪しく光って、口から怪しい湯気を吐きながら、コ~、ハ~、と言いながら躍動する筋肉で大剣を自在に振り回すラディフィアさんに、さすがのあんまんさんも助けを求めてきた。

 

「ね~ね~。ラディフィアさんどうしちゃったの?」

「クックック。彼は服を脱ぐと凄いんですよ。まさに狂戦士……バーサーカーですね」

「私の補助魔法もあったけど、砦に攻めてきた魔族も1人で追い払っちゃったし~。1対1ならラグルっちと同等か少し下くらいかな~」


 服を脱ぐと凄い……筋肉マッチョ……元カスケール騎士団所属……服を着ていると貴族……脱ぐと脳筋。あ~納得。

 で、あまりにもあんまんさんが可哀想だったから、そこら辺の草を材料にして、クリエイトで草の服を作って着せてみると、電池が切れたみたいに大人しくなったよ。


「予想外の酷い目に合ったわ! あ、言っておくが、我がここに来たのは強い波動を感じての調査で、間違っても、小さい魔王は居るかな~とか、一目見て癒されたいな~とか思ったわけじゃないぞ!」

「あ……うん。あんまんさんもいろいろ大変なんだね」

「……ふん! さらばだ!」


 と、あんまんさんは空間の狭間に消えていったけど、最後はキラキラした笑顔だったな~。どうしてだろ?




 ☆☆☆


 我は狭間の空間を抜け、屋敷に戻り自室へと向かったのである。

 その途中で、屋敷を掃除していた下級魔族のメイドが、我を見て驚いた顔になりおった。


「あんまん様、スキップをするほどやけにご機嫌ですが、何かあったのですか?」

「面と向かってさん付けで呼ばれたのだ! 嬉しいではないか! がはは!」


 『クックさん』とは、そのものが名であり、さん付けで呼ぶと『クックさんさん』となる。

 つまりだ、小さき魔王は『クックさん』と呼び捨てであり、『あんまんさん』と呼ばれた我の……勝ちである!


「……は?」

「いや……それくらいで浮かれすぎは良くないの」

「まあ、そうですね。意味が分からないですが」


 共感はしてもらえぬか……まあ、いいがな。


「我は急ぎ、キハナ村に行く」

「はい。お帰りをお待ち致しております」




 ということで、キハナ村に到着。

 この村は魔王軍によって占領された人族の村であるが、我が一帯の領主的なものになって、野生の魔物に襲われないように結界を張っている。もちろん、結界内で野生の魔物が発生することもない。

 まあ、保護区……みたいなものだな。

 今日はこの村に住んでいる裁縫が得意な村民、マーニャに会いにきたのだ。


「あら、あんまん様、ごきげんよう」

「うむ。来て早々なのだが、頼んだ物は出来ておるか?」

「はい。少々お待ちを」


 マーニャは、箱から2体のぬいぐるみを取り出して持ってきた。

 大きさは30センチほどで、頭は大きく、胴が少し小さい……デフォルメというらしい。

 金髪のポニーテールにパッチリとした目、赤い瞳。白い服に、水色ホットパンツ。うむ! 


「このホットパンツは脱が……」


 睨まれてしまった。うむ、それは無しということだな。しっかりと縫い付けられてるしな。


「見せてもらった映像で作ってみましたが」

「……自らが光っているような金髪はさすがに再現できぬか」

「はい……あんまん様から頂いた素材にそのような布地は無くて」

「よいよい。ここまで可愛く作ってもらえたのだ。あ、そうだ! この観賞用の1体だが、獣耳と尻尾を付けることはできるか? 実際の映像を見せよう」

「あら! 可愛いですね。これなら1時間もかからず出来ますわ」

「すぐに頼む!」




 自室に戻ってきたのである!

 我の両手には、ノーマルのサクヤぬいぐるみとケモミミサクヤぬいぐるみが持たれている。

 どこに飾ろうかの~?


 ガチャ。


「あんまん様? いつお戻りになったので……」


 パタン。


「おい! そんな哀れむような面白いものを見たような器用な顔をして去っていくのではない! 言い触らす気だな! ちょっと待て! あやつ! 足が速いではないか!」


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