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第92話:神秘に遭遇したよ

 騒動が収まって、私とクックさんはこってりと怒られた。

 罰として、朝早くクックさんと一緒に畑に実った野菜を荷台に積み込んだよ。

 罰でもなんでもないって? ステータス1の私には重労働だよ!

 

 そして私は、この1週間の間に「目を離すと何をしでかすか分からない危ない子」として、皆にしっかりと認識されちゃったよ。


 1つ言わせて! そんなつもりじゃなかったんです!


 豊穣の祝福で死にかけた土地を救って、輸送隊の荷車の中は、あの村で獲れた野菜が満載なった。

 不本意な称号みたいなのを付けられちゃったけど、うん。結果としては満足かな。あの村も、出発する前に王都に伝書鳩を飛ばして、兵士さんに管理を頼んだから安心だね。

 



 そんなこんなで、やっとトンネルを抜けてフェルド王国に入った。

 トンネルから続く山道を下りて行けば、すぐ城砦都市だ。

 

「クックック。街に着いて落ち着いたら、サクヤ様はとりあえず魔法の基礎を勉強しましょう」

「え~」

「お姉様。無知で魔法を使えば、ご自身も周りもすごく危ないのですから、基礎はしっかりと学んでおくべきですわよ」


 胸の前で両手を組んだイザベラちゃんの目が、ギンギンに輝いてる。マンツーマンで教えてくれる気満々だけど、できれば、イザベラちゃんと2人だけの状況は作りたくないよ。

 多分、理性を失ったイザベラちゃんに襲われちゃう。


「そうだ! ギュオールに帰ったらまた学園に行くよ! そこで勉強するよ!」

「クックック。まあ、それがいいかもですね」

「そうですか。残念ですわ」


 何に対して残念なのか、怖くて聞けなかったよ。


 


 城砦都市に到着すると、すぐさま問題が発覚した。

 私達が助けた避難民の人がここに来たんだけど、人数が多すぎて、この街の食料庫にあった食料が無くなって、その人達はギュオールに向かったらしい。

 この街の人達も3日間は全力で支援してくれてたみたいだけど、さすがに食料が無くなると、どうにも出来なかったみたい。


「ギュオールに行くにしても、一旦は街道に向かうはずだ」


 ラグルさんが羊皮紙で出来た地図を広げて、今居る地点から1番近い街道に指を移動させながら言った。

 

「どうして街道に出るの? ギュオールにそのまま向かったほうが早いよ?」

「平原や森を通れば、魔物や魔獣が出るからな。100人近い集団だと、襲ってくれって言ってるようなものだ。護衛に冒険者が3人付いてるんだ。そんな無茶はしない」

「クックック。護衛が3人だけだと、たとえ街道を通ったとしても危険ですね。数は少ないですが、魔物は確実に出てきますよ」

「だから急いで対策を考えてるんだ」


 大変だよ! せっかく、あの復活した村に戻ってもらえると思ったら、その人達が居ると思ってた場所に居なくて、しかも全滅の危機だよ!


「私が助けに行くよ!」

「「「絶対にダメだ! 地形が変わっちまう!」」」


 あっれぇぇぇ。


「行くのは俺達冒険者と、……ロイさん達は乗馬出来るか?」

「元ロシキアの兵士ですぜ。当たり前でさ」

「よし! ジスケル殿! 馬を15頭貸してほしい!」

「うむ! 荷車から馬を外せ! 手綱と鞍も用意せよ! 準備出来たものからそこに整列!」


 見事な連携で準備があっという間に終わっていく。

 私は今回は大人しく見送りかな。


「徒歩の集団だ! 馬ならばすぐに追いつける! 合流したらそのままギュオールまで護衛していくぞ!」

「「「おう!」」」

「馬さんも皆も頑張って!」


 さりげなくエールだけはしておく。ここまで移動してきた疲れは取れたはずだよ。


 ラグルさん達が出発していって、残った私達は城砦都市に入った。

 ここでも問題発生。

 偽者サクヤ事件で魔族のあんまんに宿屋が破壊されて、ジスケルさんの輸送部隊の人達が宿泊できる所が無い。

 この街の指揮官さんとの話し合いで、王族のジスケルさんとイザベラちゃんは指揮官さんの屋敷の空き部屋に、私はその屋敷の中にある客室に、部隊の人達は兵士詰所の空き部屋にそれぞれ泊まることになった。

 クックさん達の魔族組みは、別に寝なくても大丈夫と言って、外で魔物と遊ぶことにしたらしい。

 ラグルさんから解放されたのを喜んでるみたいだよ。いろいろ我慢してたからね。

 クックさん達と門のところで別れた後、屋敷に行って客室のドアを開けた。


「お姉様!」


 既にイザベラちゃんが中に侵入してることを確認して、入らずにそっとドアを閉めた。

 今日はクックさん達と野宿をしよう! そうしよう!


「どうしてドアをお閉めになりますの! 何も致しませんわ!」


 ……既に侵入ということを致してるからですわ!

 と、反論する間もなく、私はイザベラちゃんに手を引かれて中に入れられた。

 そして、部屋の中央に置かれたテーブルの上から、ハサミを1本持ってきて手渡してきた。

 このハサミの意味は?


「……お姉様と2人きりの部屋……幸せの絶頂の中で……」


 聞く前にいきなりバーサクモードだよ!? え? 何? このハサミはバーサクモードになるほどに意味があるってこと?


「髪を切ってくださいませ」

「……へ?」

「長旅で髪を整える時間も無かったでございましょう? ですから、お姉様に切ってほしいのですわ」

「ああ……うん」


 テーブルの横には、既に大きめの布が敷かれて、真ん中に椅子が置かれてた。

 興奮しながら準備するイザベラちゃんの姿が浮かんできたよ。


 さて、イザベラちゃんの髪型を説明すると、5本の縦型にクルクルと巻かれた縦ロールだ。今は腰の辺りまでの長さだけど……。前髪は普通なんだけど、サイドは少しウェーブが入ってるかな。

 椅子に座ったイザベラちゃんの縦ロールを手に取る。

 そして困った。

 縦ロールって、どこから切ればいいのかな? ていうか、私は他人の髪の毛を切るのも初めてなんだけど。

 とりあえず、1番左端の縦ロールを、背中の中央の少し下の位置からハサミで切った。

 布の上に落ちた縦ロールが、そのままの形でポヨ~ンと跳ねて、コロコロと転がる。

 そして、巻き始めの位置が上部に移動して、予想よりも短めになってた。

 

 ……これあれだ! 重力の作用! 髪の重さで上のほうの部分が引っ張られてストレートに見えてただけだ! 神秘に遭遇した気分だよ!


「イザベラちゃんの髪の毛って凄いね……」

「そうでございましょう? 少々癖毛なのですわ」


 少々!? あ……うん。黙っておこうね。


 気を取り直して、今度は引っ張ってから切ってみる。グッと引っ張って、真っ直ぐ伸びた腰の辺りから切る。

 手を離した瞬間、シュパ~ン! と、勢い良く縦ロールの形に戻って、最初に切ったものよりも更に短くなった。肩よりも少し下くらい。

 元に戻ったときの長さを計算に入れてなかったよ。

 ……仕方ないね。1番短くなったものに長さを揃えるしかないよね?


 試行錯誤を繰り返して、真ん中を残すのみとなった。

 

「切りづらいでございましょう? 私の専属の美容師も、大変気を使うと申しましてたから」

「うん……そうだね」


 イザベラちゃんは最後の真ん中の縦ロールが残ってることで、他の4本が既に肩くらいの長さになってることに気付いていないみたい。

 専属でも気を使うことを、私にやらせたイザベラちゃんが悪いんだよ?


「鏡を見るのが楽しみですわ」


 ――はう!


 私は素早くイザベラちゃんの正面に回って確認する。

 ……あれだね。音楽室に飾られてる大昔の作曲家さん達の肖像画? バッ○とか、ベートーベ○とか。

 両手の親指と人差し指で、額縁をイメージしてイザベラちゃんを覗き込んでみる。

 ……並んで飾られてても、違和感全然なし! ショートの縦ロールってすご~い。


「お姉様が凄く会心の笑顔ですわ! 完璧に仕上げてくれましたのね!」


 ごめんなさい! 笑顔じゃなくて、ただ笑っちゃっただけです!


「し……仕上げちゃうね」

「はい!」


 さてさて……どうしよう?

 残るは真ん中の1本……本当に残ってるのは1本だけ……。

 ここは、奥の手しかないよね。

 布の上に落ちた縦ロール4本を集めて……。

 ちょうどいい長さの縦ロールをイメージする。


「……クリエイト」

「ちょっとお姉様! 今クリエイトって囁きませんでした!?」

「大丈夫だよ」


 ちゃんとくっついたから。


「激しい運動はしないほうがいいよ」

「え……ええ。私は魔導師ですし、戦闘ではあまり動かないですけど」

「本当にダメだよ」


 ――取れちゃうかもしれないから。


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