第90話:無理なものは無理なんです。
「まあまあ! どうされましたのお姉様! 泥だらけではありませんか!」
手を繋いで帰ったら、私の惨状に驚いてイザベラちゃんが大声を上げた。
その声に皆が集まってくる。
手を繋いでるのが恥ずかしくなってきて、私は手を離そうとしたんだけど、クックさんがしっかりと私の手を握ってた。
恥ずかしいけど、まあ……いいかな。
「森に行って魔物と戦ったんだけどね(クックさんが)、食べられるものがどれか分かんなかったよ」
「なんだ? 嬢ちゃんも森に来てたのか? しかし、おかしいな? 俺達の誰とも会わなかったみたいだが……。嬢ちゃんはどこの森に行ったんだ?」
「え? あっちだよ?」
すでに日が当らなくなって、真っ暗になった森を指差した。
「あ~。逆方向の森に行ったのか。いいか嬢ちゃん。食料になる草を探すときは、嬢ちゃんが行った森よりも、俺達が行った森のほうへ行くべきだ」
「どうして? 森に違いでもあるの?」
「ここらの地形は山と山の間にある狭い平野だ。そういう地形だと、太陽の光を受ける時間が、場所によっては長くなったり短くなったりするんだ。食料になる草だったり木の実なんかは、日照時間の長いところじゃないと育たない。特に山の麓にある森なんかだと、その日照時間の影響は大きいな」
「ロイさんは凄く物知りだね」
「クックック。よく覚えておいてくださいね、サクヤ様」
「私じゃなくて、クックさんが覚えたらいいよ」
「私では無理ですね……。難しいことを覚えても、3秒リセット機能がありますから」
「それって、覚える気がないってことだよね!?」
皆と大笑いして、笑って出てきた涙を手の甲で拭いていたら、クックさんが頭を優しく撫でてきた。
完全にそのクックさんの行動は不意打ちだった。
心臓の動きが速くなって騒ぎ出す。
このドキドキは吊り橋効果~! 収まれ~!
『ボス』
「うひゃ!」
ドキドキを抑えようと集中してるところに、後ろから声をかけられてビックリしちゃったよ。
「な……何?」
『これはどこに置いときましょう? 早速、捌いて食べますか?』
問いかけてきたモフモフさんの足元を見たら、長さが5メートルくらい、太さが50センチくらいの縞々模様のロープみたいなのが転がってた。
何だろ、これ?
「お、トショクビッグスネークじゃね~か」
スネーク……へ……蛇!?
「あう……」
て、こんなことで気を失っちゃダメ! 貴重な食料なんだし、これからも冒険者として旅をするなら、何度も見ることになるかもだし!
力が抜けて倒れそうになるのを気力を振り絞って踏みとどまる。
私は勇者! 皆に強いところを見せなくちゃ!
「す……凄い蛇を取ってきたんだね。このお腹の辺りが膨らんでるのは何なのかな?」
『こいつが食べたウサギかネズミが、半分溶けて入って――』
「……はふぅ……」
変な声を出して意識を失いました。
皆に強いところを見せる? ごめん。無理だったよ。
余計なことを聞くんじゃなかったよ……。
「う……うん?」
目が覚めて辺りを見回すと、いつも見慣れた馬車の室内だった。
どうやら気を失って、馬車の中にある椅子に寝かせれていたらしい。
「お姉様! お目覚めになられたのですね!」
イザベラちゃんが勢い良く抱きついてきて、ポヨヨンと柔らかくも弾力のある胸を顔に押し付けてくる。
……イザベラちゃん成長してるなぁ。13歳でこれだから、もっと大きくなるんだろな~。お姉さんはちょっと悲しくなってきちゃったよ……。
「ささ。お姉様。泥で汚れたお召し物を着替えましょう」
「う……うん」
私が返事したと同時に、イザベラちゃんの手によって服とホットパンツが脱がされていく。
あ……あれ? 強制お手伝いから抜け出せない流れかな?
気絶から目覚めたばかりで力が入らないから、有り難いんだけどね。
「お姉様って体系がお変わりませんのね。半年前に買った服がぴったりですもの。私なんて、お姉様と一緒に買った魔導師ローブがもう小さくなって、そろそろ大きめの物に買い換えないといけないですわ」
お姉様って体系が変わらない……私なんて大きめの物に買い換えないといけないですわ~ですわ~……ですわ~。
――断崖絶壁から絶望の谷底へ叩き落されました!
着替えが終わって馬車から外に出ると、既に日が沈んで暗くなっている広場に篝火が灯されていて、その明るく照らされた所に皆が集まって人の輪が出来て、何やら明るい声が聞こえてきた。
「なになに? 皆楽しそうだね?」
「お、サクヤちゃん目が覚めたか」
ラグルさんに手招きされて、トコトコと歩いていって、背が高いラグルさんの脇腹のところから顔を覗かせた。
「モフモフさんが野生の豚を数匹狩ってきたんでな。これから解体するところなんだ」
「へ~。モフモフさん凄いね」
皆の輪の中心にそれが見えた。
モフモフさんに喉を噛み千切られて、目玉が飛び出ている豚がね……。
「……はほぅ……」
本日2度目の気絶です。無理です。ごめんなさい。
……いいんだもん! 違うところで役に立ってみせるから!




