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第8話:初クエスト! 強敵現る――(嘘は言ってないです)

 まずは装備を整えよう。と、いうことで、私はラグルさんと一緒にお店に向かっている。

 購入資金は、冒険者登録のお祝いとして、50銀貨を貰っちゃった。私とヴェリラさんが泊まってる宿が、ツインルームで1泊20銅貨だから多いのかな?




「このカードにな、倒した魔物の名前と数が表示されて、ギルドの受付でそれに応じた報酬が貰えるんだ」

「そんな仕組みになってるんですね~」


 向かう途中で、冒険者っていうのをいろいろ教えてもらっています。


「ギルドの掲示板に貼りだされてるクエストを受けてクリアしても報酬が貰えるぞ。ま~、まだ討伐クエストは難しいだろうけどな」

「ランク別で受けられるクエストが制限されてるんですか?」

「お、よく知ってるな。エライぞ~」


 私が知ってるのが嬉しかったのか、満面の笑みで頭を撫でてくる。ゲームや小説で得た知識だなんて、その笑顔を見たらとても言えない。



 ギルドを出て西側の区画が商業区になっている。その中にある、盾の絵が描かれている看板のお店に入る。

 店の左右の棚には兜や仮面が、床には数多くの盾が並べられて、店の中央には立派な鎧が飾られていた。

 カウンターの椅子に座って、本を読んでた短髪で強面のこの店の主人が、私達に気付いて顔を向ける。


「いらっしゃい! ラグルの旦那、今日は防具の修理で?」

「いや、この子の防具を買いにな」

「あの、お願いします!」


 何故か店の主人が、マジか? みたいな驚きの顔で私とラグルさんを交互に見てくる。

 この後のセリフは、もうすでに半分わかってます。


「子供がいたなんて聞いてね~ぞ! 隠し子か!」

「違うわ!」


 ……。



「とりあえず、この鉄の腕甲をつけてみるか」

「はい」


 止め具のはめ方を教えてもらいながら、なんとか装備完了。でも……。


「重くて腕が上がらない~」

「あ~、やっぱりステータス1じゃ無理か」

「む~~~!」


 私のステータスがオール1なのは、ギルドカードの説明のときに教えてもらった。経験を積んでレベルが上がったらステータスの数字も上がっていくみたいだけど……。



 結局、防具は何1つ買うことができずに、代わりに買った物……養成学校の白い練習着と水色のホットパンツ。

 練習着は生地が厚めで丈夫にできていて、今まで着てた学校の制服よりも防御力はマシかな。ホットパンツは、スカートのままだと、激しい動きのときに、ほら、いろいろとね……。


 武器も予想通り、何も持てなくて、手に持っているのは道で拾った唯の木の棒。長さは一応40センチくらいあって、振るとピュンピュン! と、いい音がする。


「果物ナイフですら武器と認識したら装備できないなんてな。ま、木の棒でもないよりはマシだろ」

「そうなのかな~?」


 木の棒を腰に巻いたウエストポーチ付きのベルトと練習着の間に差し込む。

 普段着と木の棒を装備した冒険者……。いいのかなこれで~~~。



 初めてのクエストを受けるため、掲示板を覗き込んだ。そこには、いろいろな依頼内容が書かれてる紙が貼られてる。

 う~ん、と、離れてみたり、近づいてみたりしたけど、この世界の文字が読めるようにはならなかった。

 そんな私を後ろで笑って見ていたラグルさんが、1枚の張り紙をピっと剥がす。


「畑を荒らすスライムの撃退。ま~最初はこれくらいか」

「簡単なんですか?」

「ははは。スライムなんて子供でも倒せちまうからな」

「それにします!」


 でも、そんなの冒険者に依頼しなくてもいいんじゃないのかな~? と、不思議に思いつつもカウンターに紙を持っていく。


「テオールさん、これ受けます」

「はい。じゃ~ギルドカードと依頼書をこの魔法陣に置いてね。依頼書を下にして、カードはその上に」

「こうですか?」

 

 説明してくれた手順で、紙とカードを置くと、魔法陣が輝いて、紙が光の粒になってカードに吸い込まれていく。そしてカードに文字が浮かび上がった。


「はい。これでFランク見習い練習クエスト、登録完了です」

「練習……」

「いきなり本格的なクエストは危ないからね。Fランクはまだまだ見習いなの。この練習クエストを5回クリアすると、初級のEランクにアップよ」


 簡単だと思ったのはこういうことなんだ~。

 ウエストポーチにカードを入れながら、5回クリアしてやるぞ~! と、気合を入れる。


「じゃ~、俺はこの依頼だな。ヴェリラさんの帰り道の護衛」

「あ、そっか……、ヴェリラさん村に帰っちゃうのか……」

「ま~、俺は1週間後くらいには戻ってくるから、その間は1人で頑張るんだぞ?」

 

 その言葉に、コクンと、小さく頷いてみせた。

 この街に着いてから、今までラグルさんかヴェリラさんが隣に居てくれた。それが1週間の間だけでも1人になっちゃうのか……。

 ダメダメ! 1週間後に成長した私を見てもらうの! と、胸の前で両手を固く握って、萎えかけてた気合を呼び覚ました。




 もう……ダメ。視界が霞んで見える。ドクン! ドクン! と、心臓が張り裂けそうなくらい脈打ってる。たまらず、その場でペタン! と、女の子座りで座り込む。

 何事かと、周りの人たちが心配したような視線を向けてくる。


 見上げると、開け放たれた門が見えて、その門の向こうには、草原と、まばらに立ち並ぶ木々が、その間を通るように街道が見えてる。そう、私は……。

『緊張して門から出れないよ~。怖いよ~~~!』状態に陥ってます!


 だってだって! 仕方ないじゃない? 今まで読んだ小説の中の主人公みたいに、最初からすごい装備を持っている訳じゃないし? 最初からすごい能力を持っているチート能力者じゃないし? こんな世界に転生させられて、魔物が出るような場所にいきなり飛び込んでいける人達は、きっとそういう人達! 私はそんな能力もない、逆にステータスオール1なの! ……私は誰に向かってこんなこと言ってるんだろう……。


「ねえ、あのお姉ちゃん大丈夫?」

「ほっとけほっとけ! それよりも今日は丘の向こうまでいこうぜ!」


 5~6歳くらいの男の子達が、歩いて門を出ていく。

 私は、バ! と、素早く立ち上がり。


「待って~! 一緒に行こう~~~!(私も連れてって~)」

「うわ! 追いかけてきた!」

「逃げろ~~~!」



 ……。

「ゼ~、ゼ~、ハ~ハ~……ケホ! ケホ!」

「お姉ちゃん足遅いし体力ないな~(笑)」

「大丈夫?」


 ガキ大将みたいな少し大柄な子が指差して笑い、優しそうな子が、四つん這いになっている私の背中を優しく撫でてくれる。


 これは、あれね。男の子達は地元の子。そう、私は身体能力で負けたんじゃなくて、地の利っていうのに負けたの! 



「僕達はこっちだから」

「この小道を真っ直ぐ行ったら畑に着くよ」

「ありがとう。ばいば~い」


 あの後、仲良くなった2人に途中まで案内してもらった。この辺りは強い魔物が出なくて、子供達の遊び場になっているらしい。

 緊張して怖がってた私って……。


 あの子達が教えてくれた小道は、林の中にあり、その林を抜けると小川があった。橋を渡って少し行くと、柵に囲まれた少し小さい畑が見えてきた。

 畑は柵で区分けされていて、小川の横に建てられている水車から水を汲み上げて、それぞれの畑に水路で水を流している。


 10個くらいある畑を1つ1つ見て回る。


「分けられてる畑で植えられてる物が違うんだ……」


 そんなことを口にしながら探索を続けていると、畑の中に、水色のプニプニとしたゼリーみたいなのが動いてた。その数1。大きさはバスケットボールくらいかな。

 

 あれかな? そうだよね? 



「たあぁぁぁ!」


 腰から抜いた木の棒で、上から下に真っ直ぐ叩きつけた。

 結果は……。プニッ――ポヨヨ~ン。と、少し凹んだだけで、すぐに元通りになった。しかもすごい弾力があって、その勢いで木の棒は弾かれて、3歩後ろによろけたあと尻餅をついちゃった。


 どうしよう? と、考えながら、お尻に付いた泥を払いながら立ち上がる。


 今度は、その場から助走をつけて、少しジャンプして叩きつけてみる。


 ――スカ! 痛恨の空振り! そして左足を前にしてたから、右上から左下に振り下ろされた木の棒が、そのままの勢いで左脛に直撃!


「痛ァァァ! あううううぅぅぅ!」


 脛を押さえながら転げ回る。

 スライムは何もしてないのに、全身泥だらけ。HPはもう残り1です。瀕死です……。


 木の棒を杖代わりになんとか立ち上がると、スライムは柵を抜けて畑を出ていってしまっていた。

 『俺もう腹いっぱいだから帰るわ。またの!』って、聞こえた気がした……。




 痛む足でスライムを追いかけることも出来なくて、木の棒を杖の代わりにギルドに帰ってきた。

 真っ赤に腫れ上がった左脛、泥だらけの体。恥ずかしいな……。


 ギルドに入ると、夕方ともあって、夕食を食べる冒険者さん達で賑わっていた。

 クエストから帰ってきたのか、今まで見たこともない20代の若い女魔導師さんとか女の神官さんみたいな人もいた。

 みんな私に気付いたのか、一斉に振り向いて、驚いた顔を見せてくる。


「サクヤちゃん! どうしたんだ!」

「泥だらけじゃないか!」

「左足怪我したのか?」


 と、男の人達が駆け寄ってきた。大きな体が壁のように押し寄せて来たみたいに見えて、少し驚いて、ビクッっと体を竦ませちゃう。

 でも、冒険者さん達はみんな優しくて、頭を撫でてくれて、その優しさに力が抜けて涙が頬を伝っていった。


 そんな私を女魔導師さんが抱きしめてくれた。


「強い魔物に遭遇しちゃったのね」

「違うの。スライム……クエスト失敗しちゃったの……うわぁぁぁぁん」


 恥ずかしさと悔しさで、座り込んで大泣き。

 男の人達はオロオロしてた。


 泣きやんでから、神官さんに『ヒール』っていう治癒魔法で脛の傷を治してもらった。あっという間に腫れも痛みもなくなってビックリだった。



「あら、サクヤちゃん」


 治療が終わったタイミングで、出かけていたらしいテオールさんがギルドに帰ってきた。

 駆け寄ってきたテオールさんが、私と同じ視線まで屈んで優しく微笑んだ。


「失敗しちゃった……」

「でも一生懸命頑張ったんでしょ?」

「うん……」

「だったら明日リベンジね!」

「はい!」

「おう! 明日は俺も付いていってやるぞ!」

「その前に、疲れを取らなくちゃな! 俺と一緒に風呂に行こう!」

「馬鹿野郎! サクヤちゃんは俺と一緒に風呂に入るんだよ!」


 一緒に行かないし、入りません!


「「「男共! そこに整列!」」」

「「「イエス! マム!」」」


 この日、夜遅くまで男の人達の悲鳴が聞こえたらしいです。




 初めてのクエストは失敗しちゃったけど、私はこの1日だけでギルドみんなの人気者? になりました。

ステータス1だとこんなに苦戦するんだな~って感じで書いてみました。

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