第86話:ゲームでも、逃げるって選択肢あるよね?
「なあ? どうして俺が謁見の間に保護者として迎えに行くことになったんだろうな?」
お城の中の一室、他国の客人のための豪勢な部屋の中に、ラグルさんの重く震える怒りの篭った声が響く。
椅子に座って組まれた足から頭の天辺まで、怒りのオーラが滲み出ている。
胸の前で組まれた両腕の筋肉が、血管を浮き出させて脈打ってる。
「忠誠を受けてほしいって言ったから……」
私達はラグルさんの前に正座させられながら説明を……。
「どうしてそれで国王が倒れてるんだ!」
ラグルさんの怒声で、部屋の隅に飾られてた壷がガタガタと揺れた。
ビリビリと伝わってくる怒気に、さすがにクックさんも大人しく正座させられているしかないみたい。
「クックック。ラグル殿。せめて私から説明しますので、最後まで聞いてください」
「……言ってみろ」
「では……」
説明下手な私に代わってクックさんが説明してくれるみたいだよ。どういう経緯でああなったのか、これでラグルさんも納得して許してくれるかな?
「サクヤ様がご自身の剣で一撃を加えた後、うちとりました、と、宣言したのですよ」
「ちょっとぉぉぉぉ!」
説明になってない! っていうか、それだとそのまま私が倒しちゃったみたいじゃない!
「うちとりましたって言えばいいって言ったのはクックさんでしょ!」
「王が倒れて剣を突きつけられている態勢ですよ? それ以外の言葉なんて思いつきませんよ」
「思いつきで言わせないでよ!」
ドン! ミシミシ……。
言い合いを遮るように響く音に、体がビクッと跳ね上がる。
ラグルさんの左拳で打ち据えられたテーブルが、その衝撃に耐え切れずに足が一本折れて斜めになった。
怒りのゲージが振り切れちゃってるよ!
ラグルさんが私とクックさんを睨みつけた後、イザベラちゃんとリリーにゆっくりと視線を向けた。
私とクックさんのだと話を聞くのがムリだと思われたみたいだ。
その通りだけど。
「説明はもういい。その時2人は何してたんだ?」
「お姉様の神々しい行いをこの目に焼き付けてましたわ!」
「面白くなりそうだから黙って見てた~」
イザベラちゃんの美化フィルターが全開だったみたいだよ! あの展開を神々しい行いに変換するって凄いね!
リリーは……まぁ、リリーだしね。
「……お前ら」
ラグルさんがゆっくりと椅子から立ち上がった。
それと同時に、部屋の入り口が開いて兵士さんが顔を覗かせた。
「すみません。至急大ホールに」
「大事な話をしてるんだ! 後にしろ!」
怒鳴られた兵士さんが「ヒッ」と声を出して、後ろによろけながら尻餅をついた。
その様子を見たラグルさんが苛立ったように頭をガシガシと掻いた。
「お前はそれでも国を守る兵士か! この程度で怯んでどうする!」
「も……申し訳ございません!」
兵士さんがバッと立ち上がる。
この程度っていうのがどの程度なのか分かんないけど、オーガの咆哮よりも威力があるのは確実だよね。
とにかく、ラグルさんの怒りが兵士さんに向かってくれて助かったよ。
兵士さんは完全なトバッチリだけどね。
ラグルさんに促されて用件を言った兵士さんの話だと、大ホールでロシキア国の騎士団長と盗賊さん達がなにやら揉めているらしい。
で、盗賊さん達はフェルド国の関係者らしいってことで、私達を呼びに来たんだって。
その話を聞いたラグルさん達が急いで部屋を出ていく。
私は一番最後に部屋を出るときに、怒りの矛先を変えてくれた兵士さんに感謝の印に勲章をあげることにした。
ウエストポーチをガサガサと漁って、その中に入っていた物を1つ兵士さんの手に握らせた。
このお城の庭で拾った可愛い形をした石。ギュレールに帰ったら部屋に飾っておこうと思ったんだけど。
兵士さんがその石と私を交互に見て、「え? え?」って、不思議そうにしてる。
「勲章だよ。あげるね」
と言ったら、周りの人達から、おぉぉぉ! と声が上がって「家宝にします!」って、敬礼されちゃったよ。
……今更そこの庭で拾った石だなんて言えないよ。
大ホールに入ると、騎士達に包囲された盗賊さん達が居た。
急いでラグルさんのところに駆け寄った。
「何があったんですか?」
「サクヤちゃんが盗賊って言ってる兵士たちは、ロシキア王国に所属する者達だったみたいだな」
「え? そんなの全然知らなかったですけど、どうして今包囲されてるの?」
私の声が聞こえたのか、女性の騎士団長がこちらに顔を向けた。そして私の前に来て跪いた。
「わたくしはロシキアの指揮官を任せられている、クラーネスと申します。先ほどの疑問の回答ですが、この者たちは、2年前のこの地の防衛遠征の際、脱走したのでございます。我が国では、脱走、敵前逃亡などは死罪になっております」
え? 脱走してフェルド王国で盗賊してたってこと? 2年前だから盗賊活動してたのは短い期間だったようだけど。
でも、逃げ出しただけで死罪になるって……。
「ラグルさん……」
「ロシキアは武の国だからな。指揮官が撤退命令を出さない限りは逃げ出すことも許さないんだろう。しかも、戦闘が始まる前の部隊丸々の脱走兵だからな」
その言葉に盗賊さん達を見たら、盗賊さん達は兵士らしい敬礼をしてきた。
「嬢ちゃん。俺達はここに戻ってきたときに死を覚悟してきた。死罪でもなんでも受けてやるさ」
「でもでも! 盗賊さん達は私を助けてくれたんだよ! 盗賊さん達が来てくれなかったら、私が死んでたかもしれないんだよ!」
私の訴えに、周りが静まり返った。ていうか、みんなが私から距離を取るように後ずさっていった。
「クックック。サクヤ様、お怒りで真紅の瞳が光っております。魔族の私にはよく分かりませんが、国の決まりごとに威圧をかけて取り下げさせることは、正しいことですか?」
「あ……」
私は深呼吸して、怒りを静めるように努力した。
恐怖を与えて私の思い通りにすっていうのは、魔王のすることと変わらないよね。私は勇者だもん!
でもでも、法律っていうのかな? それを加えて盗賊さん達を助けるためには、どうしたらいいんだろう?
しばらく考えてもなにも思いつかなくて、私は恐怖で引きつった皆の顔を見回すことしか出来なかった。




