第7話:勇者(仮)になりました! ……どうして(仮)なのかな?
ギルド3階の一角にある会議室。日は高く昇り、真昼であることを示すように窓からは暖かな日差しがその部屋を照らしている。
にも関わらず、長方形のテーブルを囲むように座った4人の表情は、外が豪雨であるかのように暗い。
この場に集まっているのは、受付のお姉さんテオール、冒険者ラグル、ギルド支部長レオドナド、学園長ビィスコ。
レオドナドは白髪がところどころ混じっている、まだ40後半の元冒険者だ。
5年前にベラルージュ王国からの応援要請に、20名の冒険者と共に魔王軍との戦いに赴き、都市1つの防衛戦において自身の片腕を失った。
先任の支部長が高齢だったこともあり、帰国後に冒険者を引退して支部長に就任した。
学園長ビィスコは、70歳になる女魔導師だ。髪は美しい水色をしていて、魔力の力なのか歳を感じさせず瑞々しい。だが体はふくよかな小太りで、腰がわずかに曲がっている。
一昔前まで、鬼のビィスコと恐れられるほどの実力者だったが、今では仏のビィスコとして、この街にある冒険者育成学園の学長をしている。
「さて、テオールよ。夕刻に報告があったそのギルドカードに間違いはないのか?」
「……はい」
レオドナドの言葉に、昨日サクヤに見せていた笑顔もなく、真剣な、どこか苦痛ともとれる表情でカードをテーブルに置く。
この会議の結果次第で、あの子の将来が、いえ……生死すら決定してしまうかもしれない。
だが、報告せざるを得なかった。ギルド史上、いや、この王国が出来て初めてのことだから。
「職業―魔王……」
レオドナドとビィスコが、カードを見て同時につぶやく。
「神が記す嘘偽り無い真実……か」
「15歳と聞いてるが、ラグルよ、お前さんこの街へ来るまでずっと一緒だったんだろ?」
ラグルがその問いに、腕組みしたまま小さく頷く。
「兆候はなかったのかい? 不思議な力を使ったとか」
「いや……ないな。いたって普通の女の子だ」
光る体で狼に抱きつき懐かれた……そんなこともあったが、ラグルは言わないでおいた。
「我々だけで、どうにか出来る問題じゃないな。王国側にも報告しないとな」
「ちょっ! 待て!」
ラグルが椅子を後ろに吹き飛ばしつつ、勢いよく立ち上がり、バン! と両手をテーブルに叩きつける。テオールはそれに体をビクッっとさせて、体を縮こませた。
「王国なんぞに報告してみろ! 魔王が誕生したなんて知れたら1個騎士団が討伐にやって来るぞ!」
「相手は魔王だろ? 20年前から討伐対象のはずだが?」
「それは向こうの大陸の自称魔王だろ! こっちは本物の……あぁ! クソったれ! 俺は何が言いたいんだ!」
ラグルは両手で頭を掻き毟った。『自称と本物。なにがどう違うんだ? 確かに自称とはいえ、魔族と魔物を使い侵攻している。それが力なのだろう。だったら本物は狼に懐かれるのが力か?』と、さらに混乱していく。
それを助けたのは、ラグルとレオドナドの議論に参加しないで、カードを見ていたビィスコだった。
「お前さん方、少し落ち着きなさい。そしてこのカードをよく見てみなさい」
そう言われ、議論は置いておいて皆でカードを覗き込む。
「魔王。これはもう、どうしようもない事実さね。でもその下を見てごらん。魔王というのが衝撃的すぎて、ワシたちが見落としていた、そのステータスを」
「む……」
ラグルが、『不思議だ』と、首を傾げ。
「なんと……」
レオドナドが、『本当か?』と、カードに見入り。
「全部、1……ですね。戦闘においての能力が。力、俊敏、魔力、耐性。見事に1です」
テオールがその答えを口にする。
「それだけじゃないな。全ての武器適正1。て、ことはだ、およそ武器と認識できるものは、全て装備出来ないってことか?」
「ラグル、俺の知識が確かなら、一般人……15歳の少女でも平均能力10はいくぞ?」
「だな。その知識は俺のと一致してるよ。それに魔王なのに魔力が1って……」
先程まで言い争っていた力が抜けていく。
「ラグルよ、ワシとレオドナドはまだ、その少女を直に見てないが、どんな子なんだい?」
「あ~。そうだな、街の喧騒に大はしゃぎして、男共の視線に怯えて俺に抱きついてくる、それでもって笑顔が可愛いただの女の子ですよ」
「そうです、そうです! 小さくて赤い瞳が可愛くて、明日のカード受け取りをすごく楽しみにしてて、そんなサクヤちゃんが、あの自称魔王と同じなんて思えません! 天才と馬鹿も紙一重っていうじゃないですか! だとしたら魔王と勇者も紙一重です! 言ってること私もよくわかりませんがそういうことなんです! それにそれに……」
ビィスコは、ヒートアップしてまだ言い足りなさそうなテオールを「わかったわかった」と、笑顔で制した。
ラグルとレオドナドは、普段は大人しい彼女が何事だ? と、1歩後ろに後ずさっている。
ビィスコは、テオールが落ち着いたことを確認して、再びカードを見る。
「このスキルの『ファミリー』と『エール』というのが、聞いたことも見たこともない物だけど」
『この先は反論は許さないよ』と、皆に視線を投げかける。
「魔王というのはこの場にいる4人だけの秘密とする! そしてサクヤという少女は、ワシたちが保護して真っ直ぐ導いてあげるよ!」
「おう!」「はい!」
このときの4人の誓い。それはこのギュレールという街全体を巻き込んでいくのですが、それはまだ後のお話。
☆☆☆
なんか……昨日からラグルさんの様子がおかしいです。数倍、優しくなったというかなんというか……。
今日なんて、ギルドに向かう途中で食べ物の屋台の前を通るとき必ず「何か食べるか? 買ってやるぞ!」って、宿屋さんで朝食を食べたばっかりでそんなに食べれません。
『買ってやるぞ!』断って『買ってやるぞ!』断って……。そんな可笑しなことしてる間に、ギルドに到着~~~♪
カウンターに駆け寄って、用意してくれてた木の箱に飛び乗る。
どうしてカウンターがこんなに高いんだろう? 宿屋さんのカウンターは110センチくらい、このギルドのカウンターだけ140センチある。
その謎はすぐにわかっちゃった。
「あら、サクヤちゃんいらっしゃい♪」
「おはようございます♪ お姉さん。ギルドカー……」
そこまで言ったとき、後ろの食堂になっている広場で喧嘩が始まった。
「サクヤちゃん! 早くカウンターの中へ!」
「え? え?」
お姉さんが私の手を引いて、カウンターの中に素早く移動する。
「屈んでてね!」
直後、カウンターに何か当たって砕ける音が。それがその後、何回も……。
「カウンター高くてごめんね。でも低いと物が飛び越えて入ってきちゃうのよ。この高いカウンターは結界って訳。冒険者って血の気が多い人達ばっかりで、喧嘩が日常茶飯事なの。」
私は、コクコクと頷いて、なるほどな~って納得しちゃった。
「まったく! あの馬鹿共は!」
辺りが静まった後、ラグルさんが右手の拳をさすりながら私たちのところへ来た。右拳で殴ったのかな?
カウンターの中から顔だけ出して覗いて見ると、広場に大男5人が大の字で転がってた。転がってる人達の上に天使が舞い降りてきてるのが見えたけど、きっと気のせい!
それにしても、あの強そうな人達をラグルさんが全員倒しちゃったの? すご~~~い!
「も~! ラグルさんは元王国騎士でAクラス冒険者なんだから、Dクラスの冒険者相手に喧嘩したら死人が出ちゃいますよ!」
「そう言われてもな~。あいつら……」
私の頭をポンポンと優しく叩きながら、何故か苦笑いをしてる。
私が喧嘩の原因なの?
「木の台に飛び乗るの禁止な。ほら……スカートがな」
「うわ!」
咄嗟にスカートでお尻を隠すように両手で押さえる。いまさら遅いけど……。
カウンターの前に散らかった椅子の破片とかを、倒れてた人たちがお姉さんに怒られながら片付けてる。
天使さん達のお迎えは待ったがかかったみたいでよかった~。
そして片付けが終わり。
「これがサクヤちゃんのギルドカードよ」
「ありがとうございます!」
受け取って、カードを見る。書かれてる文字は読めないけど、1つ違和感が……。
「あの、ここ、何て書いてあるんですか? それに、ここだけどうして紙が貼られて、上から字が書かれてるんですか?」
「そこは職業ね。そして書かれてるのは勇者よ!」
「……はい?」
「うおぉぉぉい!」
ビックリした~~~! 2日前にラグルさんもカード見てるのにどうしてそんなに驚いてるんだろ?
「テオール、ちょっとこっち来い!」
「あうぅ~」
ラグルさんの太い腕に首根っこを掴まれて、情けない声でテオールさんという名のお姉さんは、奥の部屋に連れて行かれちゃった。
「おま……どうして……者なんて……になる……もっと……戦士……とか……だな」
「だって……王と勇……かみひと……ていうじゃ……ですか……たら……者でもいいじゃ……」
なんか揉めてるけど、距離が遠すぎてあまり聞き取れない。
しばらくすると、笑顔のテオールさんと、右手で目頭を押さえて首を振り、どこか疲れたようなラグルさんが戻ってきた。
「ごめんなさいね。特別な職業だから手続きに2日もかかっちゃって。でもこれからサクヤちゃんも立派な冒険者……勇者よ!」
「はい!」
「この世界の平和を取り戻すために、一緒に頑張りましょう!」
「頑張ります!」
大興奮! だって、小説とかに出てくる勇者がまさか私だなんて! 確かに転生した人は勇者とか、すごい能力を持って生まれ変わるけど! これはそう……必然な展開って訳なのね! よ~し、世界を救っちゃうぞ~~~!
まだまだ書くのは下手ですけど楽しんでもらえたらいいな~。