第71話:(やりすぎちゃった?)みんなを笑顔に作戦!
トンネルを抜けて、ベラジュール王国の領地に入った。
ベラジュール側の山は、森林の山というよりは、岩肌のほうが多い印象かな。
トンネルも、垂直に切り立った岩の壁から掘られてた。
トンネルから続く道を進んで山の中腹まで来ると、麓の平野に並んでいるいくつものテントが見えた。
兵士さん達の野営陣地かなって思ったけど、なんかそれとは様子が違った。
「兵士さん達じゃないのかな?」
「ここからでは分かりませんね。山を降りて近づいてみましょう」
「そうだね」
モフモフさんがペースを上げて、山を駆け下りた。
テントの側に到着して、そこに居たのは、疲れ果てて、生気を失いかけてる一般の人達だった。
お年寄りから、大人も子供も沢山いた。
「クックック。避難民でしょうかね?」
「ですわね。見た限り、ざっと100人はいそうですわね」
私達がテントの周りを見回してると、近くに居た青年が真っ青な顔になって、尻餅をついて指差してきた。
「モンスターだ! ま…魔物の襲来だぁぁぁ!」
青年が指差した方向、私達の後ろを見てみても、魔物の姿はなかったよ。
「ま~たサクヤ様は魔王の威厳を発動して。クックック」
「え? 私なの?」
『ボスは静かに立っていてもオーラは隠せないですからね』
私からオーラなんて、これっぽっちも出てる気がしないよ。
「狼の魔物だ~!」
『俺か!?』
「「「だよね~」」」
うん。最初から分かってたよ。
私からオーラが出ているとしたら、『誰か私を守って』オーラだね。
なんて自己分析してると、3人の冒険者さん達が走り寄ってきた。
その3人の中に、ギュオールからラグルさんと一緒に出発したAランクの冒険者さんが混じってた。
名前は……えっと……。
「ギンタさんお久しぶり~」
「サクヤちゃん! 俺の名前はデカールだ!」
「おしい!」
「おしくないから! 一文字も合ってないからね!」
て、私達の漫才? を見て、怖がってた人達は警戒心を解いて、デカールさんがそのタイミングで紹介してくれたよ。
それでも、この避難してきた人達の顔は暗いまま。
「クックック。デカールさんは何故この人達の中に?」
「ああ。俺は護衛として別行動してるんだ。フェルド王国まで避難する予定だったが、ここまで来て皆の体力と気力が尽きてしまってな。1番の問題は食料不足による空腹かな」
「食料は、あと何日もちそうなので?」
「1日……今晩の食で底を着く」
「ふむ……山越えは無理そうですね……」
クックさんが考え込んじゃった。
でも、そんなに考えるようなことかな? だって、山を越える必要ないよね?
「ね~ね~」
「はいはい。何ですか? サクヤ様」
「トンネル使ったら、1日でフェルドに行けるんじゃない? 抜けたらすぐ近くにあの砦の街があるし、ここにずっと居るよりは安全だよ?」
「それがありましたね!」
さすがサクヤ様ですって、クックさんは笑顔で頭を撫でてくれたけど、何故かデカールさんは難しい顔で首を横に振った。
「あのトンネルは1度見てきたが、暗い上に魔物がひしめき合ってて、とてもじゃないが通り抜けるのは無理だ」
「ク~クックック! ク~! クックックゥゥゥ!」
あ、クックさんが壊れた。
「大丈夫ですよ。そのトンネルの中にはすでに魔物は存在してません。それに暗いどころか、今はサクヤ様の失敗まほ……素晴らしい魔法で中は昼間の様に明るいですよ」
失敗はしてないと思うけどな~! ちょっと間違っただけだよ?
「それは本当か!?」
「うん。私達が全部倒して来ちゃったからね」
「おお! よし! 皆に伝えてくれ! 食事をしてから出発だ!」
デカールさんと2人の冒険者さん達は慌ただしく駆け出して行った。
今から食事か~。
あ、そうだ! 私が作って皆を元気付けてあげよう!
と、いうことで。砦の街から貰った余ってる食材を私達の荷物からも寄付して、料理スタート!
皆の視線を集める中で、目の前にある白菜のようなものをまな板の上に乗せて、包丁を振り下ろす!
ボコン! って音がして、半分にしてやったよ! そして同じようにして野菜を細かく切っていった。
「「「おいおい! その切り方あぶね~だろ!」」」
「え~」
ま~、周りの声は気にしないことにして、鍋の中にそのまま肉の塊を……。
「「「待て待て! なぜ切らずにそのまま!?」」」
「100人分だから?」
「「「いやいや! なおさら100人分に均等に切ろうよ!」」」
「むむ~……」
そうだ、材料を入れようとすると止められちゃうから、先に鍋の中に調味料を入れちゃおう。
まずは、塩が入った壷を取り出して、スプーンで掬って……量は……。
100人分だから壷に入った塩全部くらい?
蓋を取った壷を鍋の上に移動させて、そのまま傾けて……。
「「「だからどうしてそうなる!?」」」
全力で止められた!
そして、やれやれって感じで子供達が集まってきた。
「私達もお手伝いするわ」
「僕のほうがお母さんの手伝いしてたからマシだよ」
「もう見てるだけなんて出来そうに無いわ」
「……ありがと」
あれ? 私の料理で皆を元気付けるはずだったのにな~。
それから、暗い顔しかしてなかった子供たちは、笑顔になって料理を進めていった。
タンタンタンと、いいリズムで野菜を切っていって、肉もちょうどいい大きさに切り揃えられていって、鍋の中でいい具合に煮立てられて……。
見ている大人の人達も、料理してる子供達も笑い声が聞こえるようになっていった。
「クックック。あえて料理べたの振りをして皆に笑顔を取り戻させる作戦! このクックさん、改めてサクヤ様に感服いたしましたよ!」
「サクヤっちって意外と策士だね」
「お姉様! 素敵ですわ!」
「うん! 作戦通り!」
ということにしてよっと……。
そして料理は出来上がり、最後におまじないをする。
美味しくなって、お腹いっぱいにさせて皆を元気にしてあげてね!
エール発動! 鍋ごと光り輝いて……。
スープを一口飲んだ人達は。
「ふぉ~! 一口で満腹感がすげ~~~!」
「なんじゃこりゃ! ワシの曲がってた腰が真っ直ぐになったぞい!」
「疲れが全て抜けて体が軽いわ!」
「どこまでも走っていけるくらい力が湧いてくる~~~!」
……エール、やりすぎちゃった!