第67話:似てないよね?
砦の街に入って、宿で休むことにしたんだけど、ここで問題が発生した。
もともと砦だった街には宿が1つしかなくて、その宿の入り口は2人の兵士さんによって閉鎖されてた。
理由を聞いてみたら。
「勇者サクヤ様一行が貸切でお泊りになっている。警護も兼ねて、この宿は一般の冒険者や旅人は入れない」
だって。
あれれ~? だよね。だって、私はここに居るんだよ?
クックさんとリリーを見ると、お手上げっていう感じで両手のひらを上げる動作をしてた。
皆でどうしようって考えてると、1人の青年騎士が宿のドアを開けて顔を覗かせて、見張りをしていた兵士さんに耳打ちで何か話しかた。
気になる……よね?
「兵士さん、さっきの人は?」
「あ~。あれが噂のクック様だ。これから街で1番の料理店に食事に行くらしい。ここで待ってればサクヤ様のお姿も見れるぞ」
「へ~……」
姿だったら毎日のように、鏡で見てるけど。
「あれ、クックさんだって。噂って何の噂だろね?」
「クックック。噂になるようなことは何もやってませんがねぇ」
「「「……」」」
イザベラちゃんもリリーも、私と同じこと思ってるだろね。
(どの口が言ってるの?)って。
しばらく待ってると、クック(偽)を先頭にして、サクヤ(偽)が出てきた。
そのサクヤ(偽)……ややこしいな! サ……でいいや。そのサは、煌びやかな鎧を着て、腰には剣を差していた。
そして、背はすらっと高くて、胸がボイ~ンだった。
見た目は、大人びた15歳……に見えなくもないかな?
「クックック。サクヤ様とは大違いですね」
「うん。あんな立派な鎧なんて装備出来ないしね」
「いえ、そこではなく」
と、クックさんは自分の頭のてっぺんで手の平をかざして、次に私の頭で同じことをした。
「「ぷっ!」」
イザベラちゃんとリリーが笑いをかみ殺してたよ……。
これは……クックさんの流れに乗せられたら危険だよ!
「でも、あの人、大人すぎて15歳に見えないよね!」
「140そこそこしかない、15歳に見えないお子ちゃまの、どの口がそんなこと言ってるんですかね~」
「「プププ!」」
墓穴掘ったよ!
いつか仕返ししてやるからね!
そんなこんなで、宿に泊まれないから街外れにある広場にテントを張って、街の中なのに野営することになったよ。
そいえば、モフモフさんは、リリーのミラージュっていう魔法で、グループ以外の人達には見えなくなってるんだよ。
そのまま街に入っちゃうと、ただでさえ厳戒態勢なのに、大騒ぎになるだろうからね……。
そんなモフモフさんのお腹の毛に顔を埋めて、マントで身を包めて寝る。
柔らかな毛がモフモフで気持ちいいよ。それに、お日様のようないい匂いがするんだよね。
モフモフさんの気持ちよさにいい気分で寝入った頃、突然、モフモフさんが飛び起きた。
その反動で私は宙に浮き、同じように飛び起きたクックさんの胸で抱きとめられた。
お姫様抱っこ……。ちょっと恥ずかしい体勢だね。
なんて思ってる場合じゃないよ!
「どうしたの?」
2人が飛び起きるなんて、よほどの危険が無い限りはないことなんだよね。
『ボス。魔族の気配が……』
「え?」
私は、未だに枕に頭を埋めて寝ているリリーを咄嗟に見ちゃった。
「いえ……こんなお馬鹿な魔族ではなくですね……クックック」
お馬鹿って言われちゃってるよ、リリー……。
魔族が来たってことは、寝込みを狙った襲撃かなって思って、急いで短剣を手に持ったんだけど、その直後に全然違う場所で爆発が起きた。
ド~~~ン! って、私達が居る場所まで音が響いてきた。
その方向は、あの偽者が泊まってる宿だね。
急いで駆けつけると、吹き飛んで瓦礫になった宿と、その前で、鎧を着けてない普段着の偽サクヤが座り込んでるのが見えた。
サの正面には、身体が赤い、右腕を直接剣に変えた魔族が立ってた。
剣は、恐怖でガタガタ震えてるサの喉元に突きつけられてる。
「待って! 本物の私が相手だよ!」
うん。何も考えないで、2人の間に割って入っちゃったよ。
「偽者か……」
と、魔族が低い声で言ったあと、鈍く黄色く光る目で私を見る。
「こんな子供に庇われる者など、殺す価値も無い。本物のサクヤは既に先に進んだのか」
「違うよ! ここに――って、うわ!」
クックさんに抱きかかえられて、魔族から引き離されちゃった。
「何やってるんですか! このお子ちゃまは!」
「だって!」
「だってじゃありません! 相手の戦力は私より上なんですよ?」
「……ごめん」
相手の能力も分からないまま飛び出しちゃったことに、反省だね。
魔族は、私が離されたのを見た後、翼を広げて飛び立っていった。
その場に居た兵士さん達は、座り込んでる女性が偽者だと分かって混乱してた。
しばらくして、混乱が収まって、偽クックが崩れた宿から助けられた。
この後、偽者に尋問が始まった。
兵士さんが偽者に問いかける。
「さて……どうやって騙してたのですか?」
偽者が、すっとギルドカードを出した。
そのカードは、職業と名前のところに紙が貼られて、紙には勇者サクヤって書かれてた。
その紙を剥がすと、職業は剣士、名前はフローレスってなってたよ。
職業のところに紙を貼ってるのは、私と同じだけど……。
今度は、1人の兵士さんが私の所へ来た。
「あの……さっき本物って言ってなかったですか?」
あ~……。そういえば言っちゃってたね。
仕方ないかな?
「本物を見せてあげるよ」
私のカードを見せたあと、勇者と書かれてる紙を剥がした。
で、出てきた文字は、『魔王』。
私の場合は、魔王というのを隠すために、勇者という紙を貼ってるんだよね。
疑問に思ってる兵士さん達に、イザベラちゃんが家の紋章が書かれてる書面を見せて、私達が6人パーティーということを説明した。
これが本物の人数。間違っても、2人だけということはないよね。
まぁ、イザベラちゃんの家名の威力は凄くて、皆はすぐに納得してた。
そして、偽者2人の取調べは、夜も遅いということになって、明日行われることになった。
そういえば、クックさんの言葉……。クックさんより強い魔族が敵にいるみたいだよ……。




