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第62話:出陣式! そして舞い上がれ!

 観客席に囲まれた闘技場に、軽装の騎士さん達と、盾と槍を手に持った兵士さん達が整列して……ないね。

 だって、地面は穴だらけで、深い地割れもあって、とてもじゃないけど整列なんて出来る状態じゃないし。

 観客席も半分以上吹き飛んでるし、クックさんとモフモフさんの戦闘力を物語ってるね。


 で、隣のジスケルさんを見ると、ジスケルさんも他の兵士さんと同じく軽装の鎧だった。

 胸の部分だけ鉄で、あとは皮で出来た鎧。まあ、立派なマントだけは羽織ってるけど。


「脳筋装備じゃないんだね」

「あ……あ、当たり前じゃないですきゃ! 輸送任務で、はやちゃが大事ですきゃね!」

「うわ! めっちゃ緊張してる!」


 立食パーティーとかだと、大勢の前でもあんなに堂々と威張り散らしてたのにね。


「戦場に行くのは、輸送任務といえども、初陣ですから……その……」

「う~ん……」


 顎に手を当てて考え込む。

 少しでも緊張してるのは私も一緒だったけど、ジスケルさんはそれ以上だったから、私の緊張なんて吹き飛んじゃったよ。

 ていうか、大将のジスケルさんがこんなんじゃ、士気が下がっちゃうよ。

 なんとかしないと……。


「私は堂々としてるジスケルさんが好きだな。もっと自信持って威張ってるほうがいいよ」


 何の自信かは言った私も分かんないけど。だって、ジスケルさんって筋肉だけで弱いし……。

 こうでも言って緊張を解いてあげないと、出陣式がなかなか始まらないしね。


「ふっふっふ……。好きなんて、俺の好意に応えてくれたということですね!」

「違うから! そんな意味で言ったんじゃないから!!」

「クックック。勘違い野郎はこの場で殺しますよ……」

「……」


 微妙な空気が漂う中、出陣式が始まりました。




 立ち直ったジスケルさんが、右手でバッっとマントを翻して、前に出た。

 格好だけはいいんだけどね。


「皆! これから俺達は戦場で戦っている友の為、前線に赴く!」

「「「おう!」」」


 うわ……かっこいい! 鳥肌がたっちゃったよ!


「君達の中には、何度も戦場に行き、生き残ってここに立っている者も居るだろう!」

「「「おう!」」」

「俺は今回が初陣である! 皆の実力と経験には到底及ばないだろう!」


 辺りを静寂が包んだ。

 大将が実力ないなんて言っちゃって大丈夫なのかな?


「だが! 心配することはない! この闘技場を見てくれ!」


 皆と一緒に私も闘技場を見回した。

 この半壊した闘技場が、ジスケルさんの自信に何か関係あるのかな?


「先日の戦闘訓練で、俺が不甲斐無いばっかりに、勇者サクヤ様の逆鱗に触れ、怒り狂い、闘技場がこんなになってしまった! だが、私はこの中で生き残った!」

「「「おおおぉぉぉ!」」」

「ちょっと待って! 闘技場壊したのは私じゃないよ!」


 それに、生き残ったって言ったけど、ジスケルさんは気絶してただけじゃん!


「サクヤ様、ここは皆の士気を上げる為です。言いたいことがあるでしょうが、我慢を。クックック」

「え~……」


 壊した本人がそれ言うのか~。理解はしたけど納得いかな~い!


「俺達は何のために戦う!」

「「「おう!」」」

「友のため!」

「「「おう!」」」

「家族のため!」

「「「おう!」」」

「愛するもののため!」

「「「おう!」」」


 ジスケルさんが一言発すると、兵士さんが槍を天に掲げて掛け声をするのカッコイイね。


「俺とサクヤ様との愛の成就のため!」

「「「お……おう?」」」


 すごく個人的なことをさり気なく言ったよ!

 みんなも、何言ってんだ? みたいな顔になっちゃってるよ!

 ジスケルさんのこと、少しは見直してたけど、絶対に有り得ないから!


「「「王子だからってふざけんなよ!」」」


 野次まで飛んでくる始末……。

 最高潮に達しつつあった士気がダダ下がりだよ!


「えっと……あの……では、勇者サクヤ様。締めの一言を皆に」

「え? ここで私に振るの!?」


 このタイミングで一言って、自分の失敗を丸投げ!?

 仕方ないから、とりあえず、私もジスケルさんみたいにマントを翻して……。


「えっと……。私はサクヤです!」

「「「うん。みんな知ってる!」」」


 ですよね~! 自己紹介してどうするの私!

 きっと今の私の顔は恥ずかしさで真っ赤だよ!


「えっと……えっと……。頑張ってみんなが集めてくれた回復薬を絶対に届けます! そして、戦場で戦っている人達と一緒にまたここに帰ってきましょう!」

「「「おおおぉぉぉ!!」」」


 まさに、地響きという表現にぴったりな雄叫びが、王都に響き渡ったよ。


「クックック。立派でしたよ」

「お姉様! 素敵な演説でしたわ!」

「サクヤっち、すご~い。みんなで戻ってこようね」

「うん!」

「クックック……ところでジスケルさん。あなたとは少し話があるのですがね……」


 クックさんが指をポキポキ鳴らしながら近寄る。


「俺はみんなの指揮があるので、これにて!」


 ジスケルさんが逃げ出した!

 まあ、私達も早く出発したいからいいけど。


 最後はすごくグダグダだったけど、とりあえず、出陣式は大成功したのかな?




 闘技場の外で待機してたモフモフさんに荷車を装着させて、大通りを西にゆっくり進んだ。

 西門までの道には、市民のみんなが並んでて、パレードみたいだった。

 それほどに、今回の任務は期待されてるし、失敗できないってことだね。


「それにしても、この荷車はいいね。今までのは、ガタガタ揺れてお尻が痛くなったけど、全然揺れないよ」

「でしょでしょ! スプリングっていうのには、『最大まで強化魔法を』かけたからね!」


 と、リリーが自慢げに言った直後、ちょっとした段差で車輪が落ちて、魔改造されたスプリングが衝撃を吸収するために沈み込んで、一気に跳ねた。

 跳ねただけ? 違うよ! 魔改造されたそのバネの反動でモフモフさんごと空高く舞い上がったんだよ!


「「「キャァァァ!」」」

『キャイ~ン!』


 空高く舞い上がった荷車は、そのまま街の防壁を飛び越えて……。

 前の座席に座ってたクックさんは、さらに高く投げ出されて、高所恐怖症でそのまま気絶! どこかに落っこちていったよ……。


 ……私達の出陣は、前途多難な予感しかしないです!


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