第60話:苦労しないで手に入れたお金は身につかないって本当のことなんだね。
「ぜ~……ぜ~……ハァ……ハァ」
私の目の前で、イザベラちゃんとリリーが息を切らせて座り込んでる。
そして私は。
「いたたた……」
リンクの副作用の全身の痛みに耐えかねて座り込んでる……。
ま~ね。追いかけっこで走り回ったらこうなるよね。
「な~にをやってるんですかね、このお子様達は? クックック」
クックさんの言葉にも怒る気力が残ってないよ……。
「さぁ、次は装備を整えに行きますよ」
「お待ちになってくださいまし。もう少し体力の回復を……」
「クック先輩! 私も疲れたぁ」
「クックさん……副作用で全身が痛くて動けないよ……」
私達の訴えかけに、クックさんは額に右手を当てて深い溜息を吐いた。
まあ~ね。溜息の意味はいろいろ分かるよ。
子供でごめんなさいね!
私達の回復を待ってから、装備を整えられる店を探した。
王都だけあって、防具屋さんとかはいっぱいあったんだけど、その中でも、一際大きな店を見つけた。
武器いろいろ、鎧、服、靴。ほしいものがこのお店で全部揃ってる。
店の中に入ると、接客中だった人が私達を見て駆け寄ってきた。
「おやおやおや! あなた様方はあのときの!」
「……え? あのとき?」
「覚えていないですか? 王都の手前で助けていただいた商人でございます!」
「あ! あのときの弱い護衛さん達と一緒に殺されかけてた人!」
「さ~くや様スト~ップ! 弱いなりにもあの護衛たちは頑張っていたんですから! 声を大にして弱いなんて失礼ですよ! クックック」
弱いって2回も言ったクックさんのほうが酷いと思うけど……。
「あの、ごめんなさい!」
一応、謝ったんだけど、商人さんは何故か私を見て、白目をむいて口から泡を吹いて気絶寸前だった。
自分で雇った護衛さん達を弱いって言われて、そんなにショックだったのかな?
「ま……まお……う」
ガクガク震えながら、ヨロヨロと近づいてくる。
ゾンビみたいな動き方でちょっと怖い。
「魔王様のご来店だ! しゃっほぉぉい!」
突然正気に戻って……全然正気じゃないけど! その場で飛び跳ねながらすごく喜び始めたよ!
その歓喜の声を聞き付けて、忙しなく動いてた店員さん達が私を囲むように駆け寄ってきた。
「噂以上に可愛い!」
「でも見かけによらず強いって話よ!」
噂には背びれ尾びれが付くものだよね……。
「お前達! 騒いでばかりいないで、魔王様に1番いいお召し物を用意さしあげなさい!」
「かしこまりました!」
商人さん……この店の主人かな? の一声で、みんなが四方に散っていった。
で、瞬く間にみんな戻ってきて……。
「こちらの更衣室でご試着を!」
手を引かれて強制連行されたよ!
数分後。
クックさん達の前に、水色のワンピースドレスを着た私が居た。
ウエストの蝶々結びの黄色い腰帯がアクセントになっているらしいよ?
て、これ絶対に旅向きの服装じゃないよね? ましてこれで戦闘なんて出来ないよね?
「きゃ~~~! お姉様すごく可愛いですわ! 襟元から覗く可愛い鎖骨がまたナイスですわね!」
「え? 鎖骨って……ストライクゾーンそこなの!?」
「クックック。頭のティアラは魔装具か何かですかな?」
「いえいえ! なんのことはない、金貨30枚の値を持つ宝石を多数あつらえた只のアクセサリーですよ。これでサクヤ様も社交界デビューはバッチリですな!」
「30……社交界……て、ちょっと待って~!」
慌てて頭から外して主人に手渡したよ!
イザベラちゃんも暴走寸前だし、この流れを止めなくちゃ!
「パーティーに出るんじゃなくって、私達は旅と戦闘に向けた新しい装備を買いに来たの!」
「そうでしたか! 武器から軽鎧、重鎧まで当店では扱っております!」
「それじゃ~、早速、私の武器と防具をお願いします」
「……は?」
「え?」
手を揉み揉みさせてゴマを擦ってた動きを止めて、驚きの顔で凝視してきた。
「申し訳ありません! お子様用の防具は置いていないのです! サクヤ様の小さな身長の防具ですと、軽鎧でもオーダーメイドになってしまいます!」
ショックな言葉が飛び出してきたよ!
詳しく聞くと、15歳で冒険者デビューする女の子でも、身長が平均160はあって、小さくても155からのサイズしかないみたい。
結局、私の新しい防具は子供用の旅のマントと靴だけだったよ。
あ、でもマントはピンク色で可愛いからいいかな。
それに、ミスリル銀の糸が編み込まれてて、防御力と魔法耐性がある程度は上がったよ。
イザベラちゃん達の防具だけど、イザベラちゃんは既に用意してあるらしい。さすが貴族だねって感じ。
クックさんとリリーに至っては、そもそも人間の防具なんて意味がないらしい。
魔族は固有の姿見っていうのがあって、クックさんの常に着ている白銀の鎧が、クックさんの魔力で構成されてるとかなんとか……。
魔族の難しい話は分かんないね。
次は武器コーナーに来たよ。
私もレベルが上がって、ショートソードまでは装備出来るようになったんだよね。
「ショートソードですか……」
それを説明したら、またまた困った顔で凝視されちゃった。
「何度も言葉にして申し訳ないのですが、サクヤ様の背丈ですと、ショートソードが普通のミドルソードのサイズになってしまいますね……」
「ぷっ――ふぅぅ! クゥゥクックック! ショートソードがミドル! サクヤ様、笑わせないでください!」
「別に笑わせてないよ!」
クックさんにはいつか痛い目に合わせてやるよ!
まあ、気を取り直して……。
ショートソードは、やっぱり長くて取り回しに苦労しそうということで、棚に置いてあった短剣を手にとってみる。
今まで使ってた短剣はジスケルさんにあげちゃったしね。
で、持った短剣を鞘のまま素振りしてみた……。
――ガッチャーン! ガラガラ! バタン! バタン! バタン! ドッガッシャ~ン!
後ろに振り上げた瞬間、手からすっぽ抜けて、真後ろに飛んでいって、飾られた重鎧に当ってそれが倒れて、すぐ近くの棚に倒れた鎧が当って、等間隔で並べられてた棚をドミノ倒しで次々に倒していって……。
うん、大惨事発生だね!
「あう……(半泣き)」
「クックック……主人、ざっと見たところの被害額は?」
「……あれは……銀貨200で……これは金貨5……。合計で少なくとも金貨40枚でしょうか……」
クックさんがそれを聞いて、スッと懐から金貨50枚が入った麻袋を主人に手渡した。
「短剣は買わせていただきます。これは被害の補填に使ってください。クックック……」
私は、クックさんによしよしと頭を撫でられて慰めてもらいながら、店を出ました……。




