第58話:作戦発令!
えっと……で、どうしようかな?
元闘技場だった廃墟を見回して、考え込む。
初めて王都に来た人は、ここに立派な闘技場があったなんて信じられないだろうね。
「クックック。しかしモフモフさんもやりますね~。強かったですよ」
『ふん! 狭い闘技場だったからな。広い平原ならば勝っていた』
「言いますね~。しかし、私はまだ10%の力も出してなかったのですよ?」
『はっはっは! 俺もここは狭くてな。5%しか出してないわ!』
「クックック! 実は私は3回変身できるのですよ!」
『俺もだ! あれがフェンリルの完全体だと思うなよ!』
この2人、言い合ってる内容が子供だよ!
「ねぇ、2人ともいい加減にしないと本気で怒るよ?」
「はい!」
『キャイィィィン!』
2人が直立不動で固まっちゃった。
ていうか、なんの力もない私をどうしてこうも怖がるのかな?
別に私が本気で怒っても、能力で絶対的に負けてるから怖くないと思うんだけど。
「ねぇ? 私ってそんなに怖いの?」
隣に立ってるリリーに聞くと、苦笑いを浮かべて顔を背けちゃった。
「えっとね、サクヤっちのその真紅の瞳を光らせて見詰められるとね、魂が恐怖するっていうか~」
「ふ~ん……」
どいうことだろ? 私が鏡で自分を見ると、この赤い瞳が可愛いって思うくらいなんだけど。
あ、本人だから恐怖も何もないかな。
「ジスケルさん」
「ん?」
今ではこうだけど、喧嘩腰で今まで突っかかってきたことの腹いせしてやるよ……。
魔王の瞳に恐怖しなさい!
「じ~……」
「……」
見詰めると、ジスケルさんの顔が赤くなっていくのが分かった。
効果あったのかな?
「どお?」
「いや……どおって聞かれても……すごくドキドキして……これはあれだ」
「あれって?」
「惚れちまったらしい……」
「……」
あ、あれれ~? 予想してたのとちが~~~う!
「ジスケルお兄様、お姉様は私のものですのよ」
「は? 女同士だろ? 俺のほうがサクヤさんに相応しいね!」
「女同士とかは関係ありませんわ!」
「関係大有りだと思うよ!?」
この2人も何を言い合っちゃってるの!
「クックック。2人共、サクヤ様を射止めたいなら、まずは保護者である私を倒してからにしてくださいよ?」
「すみませんでした! 調子に乗ってました!」
「無理ですわ! でもいずれは……」
いずれはって……。でも、イザベラちゃんは12歳。それでこの強さなんだから、成長したら可能性はあるかも……。
「クックック。それはそうと、帰りましょうか」
「うん。そうだね」
私達はクックさんの言葉で一斉に出口に向かって……。
「ちょっと待て~~~い!」
ボコォォォン! って、崩れた瓦礫の中から血で真っ赤に染まったビスケールさんが飛び出してきた!
「おや? どうして国王が血だらけでそんなところから? クックック」
『遊んでたんじゃね~の?』
遊びで血だらけになるわけ無いよ。ていうか、やっぱり2人はビスケールさんのこと眼中になかったんだね。
「闘技場を壊しちゃってごめんなさい!」
怒られる前に素直に謝っちゃおう作戦。
これで一件落着。
「さ、帰ろうか」
私達はにっこりとビスケールさんに笑顔を向けて、回れ右して出口に……。
「何をさりげなく帰ろうとしてるのじゃ?」
「だよね~~~!」
弁償っていくらになるんだろう?
「いや、闘技場を壊したことを怒ろうとしている訳じゃないのだ。本気で訓練をした結果じゃろ?」
「えっと……」
クックさんとモフモフさんが、本気で? 喧嘩して暴れまわった結果です……って言えないよ!
「クックック。では、どうして国王がここに来て、私達を呼び止めたのですかな?」
「それじゃ! 実はな、ベラジュール王国の前線である街の防衛戦が負けて、今はベラジュール王都に篭城しておるらしいのじゃ」
「え? 負けたの?」
「うむ。王都も包囲されて、食料やら残った戦力的にも、耐えられてあと2週間といったところかの」
「ギュオールから救援に行ったラグルさん達はどうなったんですか!?」
ビスケールさんに駆け寄って聞いてみた。
「そのラグルの指揮で大した損害もなく、王都に撤退できたとのことじゃが……このままでは全滅は免れないじゃろうの」
「――! みんな! 今すぐベラジュールに行くよ!」
「仰せのままに!」
「待て! 待つのじゃ!」
踵を返して駆け出そうとした私の肩を、ビスケールさんが掴んで止めてきた。
「どうして止めるの! ラグルさんが危ないんだよ!」
「何も準備しないで走り出していっても、足元の小石に躓いて大怪我するだけじゃ! フェルド王国も今準備を急がせておる! 今は落ち着き、明朝まで待ってもらえぬか?」
「クックック。準備とは?」
「それぞれの領主に援軍を申請し、この王都でも回復薬や食料の手配を行っておる。回復薬と食料に関しては明朝には準備出来るじゃろうて」
「ふむ……」
ビスケールさんの言葉に、クックさんが顎に手を当てて考え込む。
「クックさん……」
声をかけると、優しく微笑んで頭を撫でてきた。
不思議だけど、それだけで私の中にあった焦りと不安が消えていった。
「2週間は確実に耐えれるのですね?」
「うむ! それは信じてもらっていいぞ」
「では、モフモフさんの速さでしたら、荷台を引いても7日で到着できるでしょうし、明朝に出発いたしましょう。今1番必要なのは回復薬でしょうから、こちらで運びますよ」
クックさんの提案にビスケールさんが深く頷いた。
それを見てたジスケルさんが勢い良く手を上げてきた。
「父上! 食料の輸送は俺に任せてくれ! 俺の近衛騎士団で輸送して、そのまま援軍として加わる!」
「……うむ! 救援作戦の大筋は後に詰めるとして、今は回復薬と食料の輸送を優先事項として作戦を発令する! 出立は明朝、出陣式を執り行ったあととする!」
「はい!」
「『おお!』」
ラグルさん達……それにベラジュールのみんな。
みんなを助けるために、私達とフェルド王国が力を合わせて向かうからね! 待っててね!