第5話:モフモフしたかったんです……
国名少し修正しました。
村を案内されながら、この世界のことを教えてもらった。
私が今いる村はフェルド王国内にある、小さな漁村みたい。フェルド王国は大陸の南を領土としていて、北には大国の聖王国ベルブナンド、西にはロシキア王国とベラルージュ王国がある。
大陸の中央には、大陸を縦断するように高い山脈があって、その山脈の向こう側、東の大陸の全てをバロニシア帝国っていうのが支配してるんだって。
帝国――ゲームとか小説の中のイメージだと悪のイメージだよね……。
そんなことを考えてると、さらに驚きの事実が明かされちゃった。
「20年前、西の海を隔てた大陸にある1つの国が突然、魔王国を名乗り、魔族と魔物による侵攻を開始して、その大陸にあった4つの国を3年の間に全て滅ぼしたんだよ。それから魔王軍は海を渡ってこの大陸にも侵攻してきてね。上陸されたベラジュール王国は1年の間に半分占領されて、大慌てで5カ国連合を結成してそれに対抗。今はベラジュールの半分を失ったまま均衡状態って訳さ」
ラグルさんが地面に地図を書いて、魔王軍に占領されたところを塗りつぶしていく。この世界の文字は読めなかったけど、大体の状況はわかった。
ベラジュール王国を取られちゃったら、全部の国が魔王軍に侵攻されるってことかな?
いろいろと話を聞きながら村の入り口に辿りついた。村の入り口には門があって、その門から村を囲むように木で出来た柵がある。
ラグルさんは、門の近くに居た2人の見張りの兵士さんのところに走っていった。ラグルさんと2人の兵士さんは話し込んでいるみたい。ときどき、私に視線を向けてくる。
私のことを説明しているのかな。
私も隣にいるヴェリラさんに不思議に思ったことを聞いてみる。
「どうしてこんなに厳重な柵があるんですか?」
「魔物に襲撃されないためだよ。魔法や剣術で撃退できればいいんだろうけどね。そんなもの使える者なんて、こんな小さな村にいるわけないしね」
「魔物と魔法か~」
ファンタジー小説とか読んだことのある私は、少しだけワクワクしちゃってる。実際にそんなのが存在してる世界に来ちゃった!
「魔法に興味があるのかい? それなら明日になったら、北にある都市ギュレールに一緒にいくかい? 獲った魚をそこまで卸しに行くから、ちょうどいいしね」
「行きたい!」
――翌日、辺りが夕闇に包まれようとしている中で、私とヴェリラさんは荷台の中に隠れてます。
何故かというと。
ガッキィィン! ギャリィィ! 広い草原の街道沿いに、鉄と鉄が打ち合う音が響いている。
ラグルさんと他の3人の冒険者さん達の4人が、襲ってきた10匹のゴブリンを相手に戦っているから。
ラグルさんの言ってた任務って、ギュレールの街まで行くヴェリラさんを護衛するっていうので、仲間の冒険者さんと村に来てたみたい。
「ギャー!」
ゴブリンが地を蹴って高く飛び上がって、そのまま落下速度を利用して剣を振り抜く。ラグルさんはそれを盾で受け止めると、バランスを崩して地面に転がったゴブリンに仲間の冒険者さんが剣を胸に突き刺す。
「ふ~」
「全部片付いたな」
周囲を見渡して警戒しながら剣を振り、血を払ってから鞘に収めた。……カッコいい。おじさんじゃなかったらな~……。
「それにしても、街までの2日間の道中も危険になってきたね」
「魔王の勢力が広まっているからか、魔物が活発になってきてるからな」
ヴェリラさんとラグルさんが、ゴブリンの死体を見て溜息をつく。
ラグルさんの話では、冒険者さん達が国中で討伐とかやってるけど、魔物は次から次に湧いてきて数をなかなか減らせないらしい。それが4国が3年で滅んだ理由。魔族の圧倒的な力と、魔物の物量。
このフェルド王国は、魔王の勢力圏から離れてるから強い魔物が出なくて、比較的にまだ安全らしいけど……。
再び出発しようとして、ヴェリラさんが馬の手綱を持ったとき、私の心にザワっとした感覚が走った。
「円陣! 全方位警戒!」
「ゴブリン達の血に寄ってきたか!」
馬車を中心に、前後左右にラグルさん達が素早く配置についた。
現れたのは、5匹のシベリアンハスキーみたいな……犬? 毛は黒くて目は金色で、ハスキーよりも一回り大きい感じ。
「ウォーウルフがこんなとこまで来てるのか……」
犬じゃなくて狼だったみたい。ゴブリンのときと違ってラグルさん達はすごく緊張感があった。強さはゴブリンの比じゃないってことかな。
4匹は私たちを囲むように、周囲をぐるぐる回っている。隙を探しているみたい。
そして、正面で仁王立ちしてる一際大きな犬……じゃなくて狼さん。ボスらしく、1匹だけ首周りに立派な白いフワフワしてる毛がある。
いつの間にか私は荷台から降りてた。無意識だったのか自分でも覚えてない。ラグルさん達が、危ない! とか、戻ってきなさい! と、叫んでいる。
私も危ないとは分かっているけど、それよりも心の中に膨れ上がる衝動が強すぎた。それによって勝手に体が動いていく……。
――モフモフしたい!! あの白い毛に顔をスリスリしたら気持ちいいだろな~!
「ワウ!?」
ボス狼さんから悲鳴に似た驚きの声が上がる。
私は一瞬で5メートル以上離れてたボス狼さんに抱きついて、羽交い絞めにしてた。狼さんは振りほどこうと脚を踏ん張って後ろに体重をかけてるけど、逃がさない!!
私の体がなんか光ってるような気がするけど、今はそんなことより。
「モフモフ~~♪」
右手で毛を撫でながら、顔を狼さんの首筋に埋めてスリスリ……。ふわっふわの毛で予想したとおり気持ちいい!
しばらくそうしてると、狼さんから抵抗する力が抜けていって、尻尾が横にすごい速さで振られている。
「気持ち良いでしょ?」
耳の後ろ、頭、背中。あっちこっちを撫で撫で。狼さんも「ク~~ン」と鳴いて、体を摺り寄せてくる。幸せ~~~~。
「サクヤちゃん!」
ラグルさんの叫びと同時に、背中から抱き上げられて、狼さんと引き離される。
狼さんはその場で、名残惜しそうにまだ尻尾を振ってた。
「ばいば~い♪」
「グルォォォン!」
ボス狼さんが一鳴きすると、他の4匹の狼さんが集合して、そのまま何処かへ走り去って行っちゃった。
「ばいばいじゃないでしょ! 何してるんだいこの子は!」
「危険なことはしないでくれ! わかったね?」
――すごく、怒られました!