第3話:恐怖と温もりと
「バカヤロ! 前を塞ぐな! どけ~!」
帰って行ったゴブリンさん達に邪魔されてるのかな? 大渋滞だろな~。
海賊のボスかな? が、なかなかこっちに来れないでいると、船と船が徐々に離れていって、架かっていた足場の板が全部海に落ちていった。
「助かったのかな?」
とりあえず、目の前のピンチは上手く脱したけど、完全に助かったわけじゃなかった。
沈みそうな船。それにまた海賊船に接舷されたら間違いなく終わりそう。そもそも5隻の海賊船相手に1人で立ち向かうなんて無理。
冷静に考えたら、今になってすごく怖くなってきた。
「誰でもいいから助けて!!」
叫びは虚しく響いて、シ~ンと静まった後、一番遠くの海賊船から煙が見えて轟音が聞こえた。
目の前に迫る大砲の弾。もうダメなんだ……って、思った瞬間にそれはおきた。
バシャャャン! て海面が盛り上がって水飛沫を上げながら、5メートルくらいもあるタコの足みたいなものが現れて、弾を簡単に弾き飛ばした。
「うわっ!」
ビックリして尻餅をついちゃう。
そのまま海賊船を見たら5隻全部にタコさんの足が絡みついてた。
そして私の乗っている今にも沈みそうな船は、何故かザザザーと白波を立てながら、海賊船から離れるようにすごいスピードで進んでいた。
半分沈んじゃってるのにどうして進んでるんだろう? 助かったの? そんなことを思ってると、緊張がとけたからかわからないけど、急に意識が遠くなってきた。
――薄れゆく意識の中で、優しく、心が安らいでいくような声を聞いた。
『安心して。私たちがあなたを安全な陸まで運んであげる。私たちの主になるべき人……。今はまだあなたの力は小さい。力をつけて……また会うときまで……』
☆☆
「ん……」
ゆっくりと目を開ける。
部屋の中なのか、天井が見える。板を棒でつっかえさせているだけの半開きの窓からは、優しい光が注いでいた。
「暖かい……」
ベッドに寝かされているのがすぐに分かった。
「ここは? ――!」
体を起こそうとしたした時、部屋の隅からガサっっと音がして、すばやく上半身だけ起こして防御体勢を取った。
部屋の隅……そこの一帯は窓からの光が届いてなくて、暗くてよく見えないけど人の気配があった。
近づいてくる!
体が無意識にガタガタと小刻みに震える。怖い――! 目をぎゅっと閉じた。
「あ~大丈夫! 大丈夫だからね。もう大丈夫……。よく頑張ったね……」
優しい女の人の声が聞こえた。そして震えている私にそっと抱きつき、頭を優しく撫でてくれた。
それは、もう2度と会えないとわかっているお母さんみたいに温かく……。
「う……わぁぁっひぐっあぁぁぁあん!」
女の人にしがみついて泣いた。涙が出なくなるまで泣いた……。