第20話:知らない間に許可していない組織ができていたよ!
「う……ん。朝?」
「クックック。朝ですよ。サクヤ様」
「て、うわ!」
ベッドの上で目を覚ますと、覗き込んでいたクックさんが居てビックリしちゃった。
「いつから居たの?」
「サクヤ様が寝付いてからずっとですが。それはもう一晩中、可愛い寝顔を拝見させていただきましたよ。クックック」
ストーカーが身近にいたよ!
個室である私の部屋は、今まで心が休まる聖域だったのに、それがなくなったよ……。
あれだね、クックさんの部屋も用意してもらわないと。
「クックック。さあ、これに着替えて。下着も寝汗で汚れているでしょう。用意してますよ」
左腕に服とホットパンツを抱えて、右手に持った下着をヒラヒラ振っていた。
何してるのこの人!
「お手伝いしますよ」
「いいから! 1人で着替えるから!」
170センチはあるクックさんの背中を押して、部屋から追い出す。
クックさんのおかげで一気に目が覚めちゃった。
朝食を食べるために食堂に向かっていると、イザベラちゃんが駆け寄ってきた。
「おはようございますですわ。お姉様」
「おはよ~」
「クックさんもおはようございます」
「クックック。イザベラさんおはよう」
「「イエ~イ」」
クックさんが屈んで、イザベラちゃんとイエ~イとか言いながらハイタッチをした。
仲良くなりすぎでしょ、この2人。
「では、イザベラさん放課後に。クックック」
「ええ。放課後に。ふふふ」
2人で怪しい笑みを浮かべている。
放課後に何かあるのかな? 聞きたいけど、巻き込まれたくないし……。
「サクヤさん。ちょっといいですか?」
「はい?」
声をかけてきたのは、14歳のクラスの教官さんだった。
知ってはいたけど、今まで話したことはない。
その教官さんが声をかけてくるって、どうしたのかな?
「朝食のあとでいいので、学園長室まで行ってください。クックさんも一緒に」
「分かりました」
返事を聞くと、教官さんは駆け足で去っていった。
伝言だけだったみたい。
「クックック。呼び出されちゃいましたねぇ。昨日の召喚のことでしょうか?」
「だと思うけど……」
そういえば、ビィスコさんには何1つ報告してなかったな。
朝食を食べたあと、急いで学園長室に向かった。
そこには、困った顔で立っているビィスコさんがいた。
「さて、昨日の騒ぎを説明してもらえる?」
ピーンと空気が張り詰める。
手のひらから凄い汗が噴き出してきた。
怒られちゃうのかな……。
「クックック。それはこのクックさんが説明しましょう」
クックさんが一歩前に出て、体で私を隠す。
庇ってくれるんだ!
クックさんの背中が今までよりも大きく見えた。
「私は召喚されただけで、何も悪くないですよ。クックック」
「えぇぇぇ!」
すごい手のひら返しだよ! 本当のことだけど!
その後、昨日の出来事を1から説明した。
「今回は不問にします。でも、これだけは守って。無理だと思ったら何もしないこと。わかったわね?」
「はい!」
と、元気よく返事してから学園長室を出た。
「クックック。怖かったですねぇ。怒られるのかと思っちゃいましたよ」
「うん! そうだね」
顔を見合わせて2人で笑った。
何故かクックさんと居ると、楽しくなってきちゃうな……。
やってることはあれだけど!
魔法の実技授業で、今まで魔法が使えなかった私に変化があった。
「ファイヤ!」
唱えると同時に、手のひらから小さなマッチくらいの火が出た。
うん。それだけ。飛んでいくわけでもなく、その場で燃え続ける。
でも、今まで何も出なかったから、これは凄い進歩だよ。
「お姉様! やりましたわね! とても勢いのある炎ですわ!」
これを炎と言ってのけるイザベラちゃんがすごいよ。
「とても良い輝きですねぇ。クックック」
うん。少しだけ周りを照らしてるかな。
ところで、これ、どうやったら消えるんだろ?
とりあえず、手をブンブン振ってみる。
そうすると、当然、風に煽られた火が、私の指に触れちゃうわけで。
「あっつ~~~!」
「お姉様!?」
「クックック。愉快ですね~」
笑ってないで助けてほしいんですけど!
その後すぐに、魔力が切れて火は消えたけどね。
魔法は危険だと分かったよ。
「サクヤ様、指を見せてください」
「うん……」
少し赤くなった指を見せると、その指にクックさんの大きい手が重ねられる。
「クックック。痛いの痛いの飛んでけ~」
「……ぷ! あははは!」
クックさんがそのおまじないを知ってるのが可笑しくて、大笑いしちゃった。
その笑いを見て、クックさんが微笑んでいた。
毎日が大騒動だけど、こんなのもいいな。
全ての授業が終わって、放課後になった。
リュックの中に教科書を詰め込んでいく。
両隣に座っていたクックさんとイザベラちゃんが、同時に席を立った。
ていうか、今日1日一緒に授業を受けていたクックさんに驚いた。
教官さんの話しに頷いたり、急にクククって笑い出して少し変だったけど。
貰い笑いしちゃいそうで、我慢するのに大変だった。
「でわ、サクヤ様。私はイザベラさんとやることがあるので、少し離れますね」
「お姉様、またのちほど」
「う……うん。またね」
揃って教室を出て行く2人。
怪しい。でも騒動に巻き込まれたくないし……。
まあ、たまには1人でのんびりするのもいいかな。
学園の休みの日。
その日は、クックさんも用事があるらしくて、別々に行動することになった。
私は街に行って、衣類専門店に入った。
棚に並べられている服、スカートと順番に見ていって、目的の売り場に着いた。
「あれ? 水色のホットパンツ売り切れてる」
元々数は少なかったけど、売り切れてることなんて、今までなかったことだった。
売り切れてるなら仕方ないかな。
他の売り場の服を手に取って、丈夫さを比べる。
そんなに大差ないけど、防具すら装備できない私には死活問題だ。
結局、服を2着買って外に出る。
「キャ!」
外に出たとき、横から来た人とぶつかっちゃった。
「なんだ、お嬢ちゃん。ぶつかっておいて、キャじゃないだろ?」
「ごめんなさい」
見ると男3人組だった。
冒険者らしく剣を腰に差している。
今まで見たことないけど、他所の街から来たのかな?
「おいおい。服が汚れちまったぜ。これじゃごめんで済まないな」
3人が囲んでくる。
どうしよう、絡まれちゃった……。
ちょっと俯いて泣きそうになっていると、後ろに居た男が横に吹き飛んで壁にぶつかった。
「クックック! 私のサクヤ様に何してくれとんじゃ!」
クックさんが助けに来てくれた! でも言葉遣いが変だよ!
泣きそうだったのに、笑いが出てきちゃった。
「な! 魔族か?」
正面にいた男が後ずさる。
クックさんを見ると、正体を隠す気もないのか、魔力のオーラが立ち昇っていた。
それで男は怯えちゃったんだね。
「クックさんだけじゃなくてよ!」
掛け声と同時に、イザベラちゃんと取り巻き3人組が店の角から飛び出してきて、クックさんを真ん中にして左右に並んだ。
「私達、お姉様親衛隊! お姉様に手を出すと許しませんわよ!」
バッと、戦隊物のようなポーズを取る……て、今なんて言ったのかな~?
「覚えてろ!」
そう言い残して、男たちは悪態をつきながら去っていった。
「お姉様! 大丈夫でしたか!」
「うん……それよりも、変な言葉が聞こえた気がしたんだけど」
「クックック。バレテしまっては仕方ありませんね~。本当はもっと人数を揃えてからお披露目したかったのですが」
クックさんがそう言うと、イザベラちゃん達が後ろに向き直り、スカートを持って捲し上げた。
そして見えた物……。
「みんな水色のホットパンツなの?」
「そうです! 私達、水色ホットパンツ同盟! お姉様親衛隊ですわ!」
「同盟の使い方とかいろいろ変だよ! ていうか恥ずかしいからやめて!」
「クックック。このプロジェクトはもう動き出してしまっています。もう止められませんよ。そして発案者はこの私です!」
両足を交差させて、両手を広げて上半身を仰け反らせながら言う。
バ~ン! って、効果音が出てきそうなポーズだよ。
「クックさんの発案で、私がスポンサーですわ。財を投げ打って、すでに水色ホットパンツを買い占めて、大量に注文いたしましたわ!」
売り切れてたのはそれが原因か~~~!
「お金の無駄遣いはやめようよ。ね?」
「学園の女子全員を頑張ってホットパンツに! クックック」
「頑張らないで~~~!」
話を聞いて~~~!
私はどうしてあの時、巻き込まれるのを恐れちゃったのか、すごく後悔することになった。