第19・5話:クックさん
今回は19話までのクックさんのサイドストーリー的な物で短いです。
作られし魔族が、ある寝室に空間転移した。
ベッドに寝ているのは、輝く金髪の幼い少女。
少女は横を向いて寝ていた。今なら、手刀だけでこの少女の頭を潰せるだろう。
魔族は腕を振り下ろす。
「う……ん……お父さん……」
少女が寝返りをして、顔が正面を向く。
手刀は寸前で止められる。
「涙……夢でも見てるのでしょうか……」
そう魔族が囁いたとき、少女の体が優しく輝いた。
「む……これは……この光は……」
魔族の視界に靄がかかったように見えなくなる。
殺すのを躊躇っていると、頭の中に声が聞こえてくる。殺せ、殺せと。
魔族は首にかけられている鉄の首輪と、その先に出ている鎖を触る。
作られし者を従属させる首輪と鎖。
本来なら、作った者の命令には逆らえないが、魔族はそれを無視して空間転移を行い、その場を去った。
2日後、魔族は朝早く、少女の家に正面から出向いた。
確かめたいことがあった。あの少女の光だ。
狼たちが行く手を遮る。
魔物である狼たちが少女を守っている?
狼達をスリープで眠らせると、少女が家から駆け出してきた。
死んでいると思ったらしく、駆け寄って生きているのを確認すると、安堵の表情を見せる。
この少女は、魔族を見ても怖がっている様子がない。
徹夜で考えたセリフを何度も遮られ、魔族は心の中で笑った。
1撃目は本気で殺す気だった。しかし避けられた。
避けられるはずのない、光の速さに近い攻撃を、可愛い声を上げながら。
2撃目は様子を見るためにわざと外した。避けられなくても、少女に攻撃が当たることはない。
しかし、少女は反応して、こけた。
確信した。少女は攻撃が見えているのだ。
魔族は翼を広げた。
少女がそれを見て空を見上げる。その反応がいちいち可愛いと思えてしまった。
魔族の胸がズキンと痛んだ。
首輪と鎖がある限り、いつかは少女を殺さなければいけないのかと。
そして、運命の再会は突然訪れた。
食事をしているとき、見たこともない魔法陣が足元に現れて、空間ごと召喚された。
誰が召喚したのかと見回すと、あの少女がいるではないか。
ただ単純に、再び出会えて嬉しいと思ってしまう。
少女が見上げて見つめてくる。こんなに小さいのですね、と、思う。
何か言ってほしいのだが、少女は見つめてくるだけだった。
魔族も、その赤い綺麗な瞳を見つめると、変化があった。
首輪と鎖に、ピシっと音をたててヒビが入る。
せっかく再会できたのに、帰って、と言われた。
ショックで拗ねていると、名前を聞かれた。
無いと答えると、名前をつけてくれた。
その瞬間、首輪と鎖が砕け散った。
サクヤとクックさんの体がお互い輝き、サクヤから光の糸が伸びてきて、クックさんの左手の小指に巻きついた。
クックさんの体が進化していく。あの縛りつけていた声は、もう聞こえない。
今はサクヤからの優しい光が全身に注がれている。
サクヤの体から光が消えても、クックさんの中に、その優しい光は残り続けた。
そして、私は確信した。あなたは、元初の魔王様なのですね……。
私は思った。サクヤ様の笑顔を見続けたいと。
私は誓った。サクヤ様の笑顔を守り続けると。




