第18話:その人は、うどんみたいなものを食べていた
いろいろあったけど、学園生活にも順調に馴染んできた。
馴染んできたっていうよりも、周りが凄い勢いで変化しちゃった、って、言ったほうがいいのかな?
その1番の変化が……。
「お姉様! 私の隣にお座りになって!」
「あ、うん」
手を引かれて、壇状になっている席の1番上に並んで座る。
「字が読めないから授業は苦手だな」
「まぁ! そうだったんですの?」
「うん。そうだよ」
「でしたら、私がお姉様に字の読み方を教えて差し上げますわ!」
「え? いいの?」
「はい! 授業が終わった後、お姉様のお部屋で朝まででもお付き合いさせていただきますわ!」
両手を正面で合わせて、すごい輝くような笑顔になってた。
でもね、1つだけ言わせてほしいの。
「寝る時間は大切だよ?」
そして数日後……。
寮の私室で、財布を見て絶望感に襲われています。
財布を開けて逆さまに振っても、何も落ちてこない。
金欠です!
私の収入源は、ギルドのクエストしかない。そのクエストが停止してるから、もちろんお金は減る一方なんだけど……。
事情を話して、草原のゴブリン討伐を受けさせてもらおうかな。
そう決めて、教室に教官さんが入ってきてすぐに言ってみた。
「先生。今日はゴブリン討伐したいから、今日はこのまま休みます」
「それはいい考えですわ! お姉様!」
え? 討伐してお金をもらうだけなんだけど……。なにがいい考えなの?
「私達も全員でお姉様のご活躍を見学させてもらいましょう!」
うっわ! とんでもないことを言い出しちゃったよ!
イザベラちゃんはすでに鞄に教科書を詰め込んでいた。そして周りの子達も……。
「あなた達! お待ちなさい! サクヤさんのお仕事を邪魔しちゃダメでしょ!」
そうだそうだ~! 頑張って先生!
「お黙りになって! お姉様がいいとおっしゃってますの! あなたに決定権はありませんの!」
「言ってない! 言ってないよ!」
教官さんに決定権はないらしく……うん。いろいろ間違ってるのはわかってるよ?
でも、この流れに私と教官さんも、どうすることも出来なくて課外授業をすることになっちゃった。
あとで教官さんにお詫びの品を買って持っていこう……。
私の後ろに、クラスの子30人がぞろぞろと付いてくる。最後尾に泣きそうな顔の教官さん……。
平和な世界じゃないから、遠足だ~! って、楽しめないよね。
で、最初の目的地、私の家に着いた。
どうして私の家かっていうと。
「モフモフさ~ん」
呼ぶとモフモフさん達が走り寄ってきた。
体長3メートルを超えるモフモフさんに怯える子達が多数いたけど。
紹介してあげることにした。
「赤いスカーフ巻いてる1番大きい子が、モフモフさん」
「ワウ!」
「で、青色がポチさん。黄色がゴンさん。緑色がタロウさん。ピンク色がペスさん」
どうしてこの5色のスカーフにしたかというと……そう! 戦隊ものをイメージした! ちょうど5匹だし、強そうでしょ? もちろん、赤色のリーダーはモフモフさん!
「あなた達がお姉様のナイトなのですね! お姉様に負けないくらいの王者の風格をお持ちになっているようですわ!」
「私そんなすごい風格もってないよ! 逆にこの子達に負けてるよ!」
「またまたお姉様ったら、ご謙遜を~~~」
イザベラちゃんの中で、私の美化がすごい勢いで進んでいくよ~!
まぁ、そんなやり取りをしながら、目的地の草原に着いて、ラグルさんからアドバイスしてもらった、私しか出来ない戦い方をしてます。
「右から回り込んでくるよ! ポチさんゴンさんカバーに入って!」
指示を聞いた2匹が、素早くゴブリンの進路を塞ぎ、2匹の連携で倒していく。
「ペスさんタロウさんは左の1匹に! モフモフさん正面の1匹! それが最後だよ!」
「ウオォォォ!」
モフモフさんが雄叫びを上げ、銀色の光となってゴブリンを貫く。
見事な指揮でしょ? これ、実はね、スローが練習である程度自由に使えるようになったから、出来ることなの。
スローで時間をゆっくり進めて、その間に周囲を見回して、モフモフさん達の位置と、ゴブリン達の動きを確認して、どうやって指示を出すか考えてからスローを解除する。後は指示を出すだけ。
私が指揮しかしてないって?
あのね、弱い私が前に出て攻撃する、あっという間に私が死んじゃう。
うん。これ確定事項ね。
「お姉様! お見事な指揮でしたわ!」
後方でバリアを張って見学してたイザベラちゃんが、勢いよく抱きついてくる。
「指揮しかしてないけどね」
「何をおっしゃいますの! どんなに強い軍隊でも、指揮官が無能だとすぐに全滅いたしますわ! 優れた指揮官が居てこそ、その軍隊は強くなれるのですわ!」
そうなのかな? でも私も出来れば攻撃してみたいな~。無理だけど!
結局、このときはゴブリン討伐数7匹で、21銅貨と、護衛というクエストクリアで、10銀貨を貰った。
いつの間にか、クラスの子全員の護衛もクエストに追加されてた。
クエストを発行してくれたのはテオールさんだ。
さすがテオールさん! これで1ヶ月は金欠にならないかな?
翌日。お財布が潤った私は、ルンルン気分で初めての召喚術の実技授業を受けていた。
今なら何でも出来そう!
「出てきて! 私の聖獣!」
地面に両手を着き、唱える!
……。
今なら何でも出来そう? ごめん。あれ嘘だったよ。
魔力が1で、召喚術を何1つ理解出来てないのに召喚陣が出てくるわけがない。
うん、知ってた。
「お姉様! 諦めないでくださいまし! イメージですわ!」
イザベラちゃんが、体全体を使って、こうですわ! と、ジェスチャーしてくる。
それでイメージしろって言われてもな~。
イメージ……イメージ……。
そして私は何故か、テオールさんの6重円の魔法陣をイメージした。
「出てきて! 私の聖獣! ――って、うわ!」
唱えた直後、足元から黒い稲妻が立ち昇って、その稲妻が地面に魔法陣を描いていく。
それは、私がイメージした6重円じゃなくて8重円だった。
「サクヤさんいったい何をしたの! 8重円の召喚なんて今まで聞いたこともありませんよ!」
「お姉様……いったい何を呼び出されたのですか……」
私にもさっぱり分かんない。
オロオロと戸惑っていると、光の粒が集まってきて……。
「キャ!」
魔法陣の中心から光が溢れて、魔法陣の外に押し出されちゃった。
やがて光が収まっていって、そこに現れたのは……。
普段よく見る食堂のテーブルと椅子。
その椅子に座っているのは、赤く鈍く光る体。皮膚は金属で出来ているみたいで、それが鎧のような形をしていて、顔はフルフェイスの兜を被っているみたいになっている。そして溢れ出した魔力が靄みたいになって見える。
……私の家に襲撃してきた暗殺者? の魔族だ!
みんな驚いて固まっていると、その魔族は周囲をゆっくり見回した。
そして私を見つけたようで、少し驚いた顔になった。
「クックック。ちょっと待っててください。すぐにこれを食べてしまいますから」
そう言って、テーブルの上にあった丼を持って、中に入っていた、うどんみたいなものを、箸を使って勢いよく吸い込んでいった。
みたいな、じゃなくて、うどんだった。
「クックック。まったく、急に呼び出すなんて……食事中だというのに……。――っ! ゴホ! ゲボファ! ゴッホ! ネギが喉に! ガホ!」
あ~、私もよくそうなったな~……。
「クックック。……あなたが急がせるから……」
「……ごめんなさい」
あれ? 思わず謝っちゃったけど、私が謝らないといけないの? て、初めてこの魔族に会ったときも謝ってたな~。
……とにかく、私はとんでもないものを呼び出しちゃったみたいです。




