第17話:小説で読んだセリフを言ったら痛い子がスーパー痛い子に進化しちゃった
飛び出したのはいいけど、私も弱いから行ったところで何も出来ないんじゃないかなって、今更ながらに思っちゃう。
でも、何もしないよりはいいよね!
森まであと少しっていうくらいの草原まできた。
東の街道からはすでにかなり離れたところだ。学園を出て真っ直ぐ森に向かったのだとしたら、この辺りで間違いないと思うけど……。
神経を研ぎ澄ませて、周りを見渡したとき、前方に不自然に転がっている木の棒を発見した。
近くまで駆け寄っていくと、それはイザベラちゃんの持っていた魔法の杖だと分かった。
その杖を拾うと、そこからさらに前方で、鉄が何かを叩いてるような音が聞こえてきた。
丘を下ったところから響いてきていて、ここからじゃ見えなかった。
見下ろせるところに、ちょうどいい岩が出てて、足音を殺すようにゆっくりと岩陰に隠れる。
「やっぱりゴブリンだ……2匹かな……」
岩陰から覗き込むと、ゴブリンが青色に光っているドーム状の壁を短剣で殴りつけていた。
魔法で作られた結界……バリアかな?
そのバリアの中心で、両手で頭を覆い、怯えるようにしゃがみ込んでいる少女が見えた。
金髪で縦ロール。間違いなくイザベラちゃんだ!
イザベラちゃんの横には、召喚された聖獣がいた。リスみたいな体。でも耳はウサギみたいに長い。
その聖獣が足を踏ん張らせて、バリアを張っているようだった。
カキーン! カキーン! と、音がする度にバリアに亀裂が入っていく。
「イザベラちゃん!」
すぐに行かないと危険だと判断して、丘を駆け下っていく。
あと10歩でバリアに手が届くというところで、ゴブリンが高く跳び上がり、バリアの亀裂を目掛けて短剣を突き刺した。
バリアが、パーン! と砕け散って消滅して、同時に聖獣も消えちゃった。
バリアを消滅させたゴブリンは、砕け散ったバリアの衝撃で後ろに吹き飛ばされたみたいだけど、残りのゴブリンがイザベラちゃんに短剣を振り下ろしていた。
「たぁ!」
駆け下りた勢いのまま、イザベラちゃんに体当たりをしてそのまま転がった。
「いっつ!」
右肩に痛みが走った。
刃を避け切れなかったみたいで、肩から流れた血が白い服を赤く染めていく。
「サクヤさん……どうして……」
青褪めた顔で、恐怖で震えていた。
少し前までの私を見てるようだな……。あの時はモフモフさんが助けてくれた。今度は私が助けてみせる!
腰から木の棒を抜いて、ゴブリンに向けて構える。
「イザベラちゃん。大丈夫? 魔法は使える?」
左手に持っていた杖を渡しながら聞いてみた。
その隙をついてゴブリンが飛び掛ってきた。
スローになって、振りかぶったゴブリンの腹に木の棒を突き出した。それだけのことだけど、木の棒にゴブリンから飛び込んできて、ボコっと音がして吹き飛ばすことに成功した。
カウンターってやつかな?
「魔法は使える?」
ゴブリンが倒れてる間にもう1度聞いてみる。
「ダメです……。魔力が、もう……。それに脚と腕を切られて、痛さで集中力が……」
「そっか……。召喚は出来そう?」
「召喚は……魔力があればできますけど……私の愚かな行いのせいでサクヤ様まで……」
『さん』から『様』になってる。それほど恐怖で混乱してるのかな?
「大丈夫。落ち着いて。一緒に頑張ろ!」
そう言ったとき、体が光って輝いた。その光は、イザベラちゃんも優しく包み込んだ。
「サクヤ様! 傷が……魔力も回復してますわ……」
エールが発動した。けど、私の肩の傷はそのまま。対象は仲間であって、自分自身には効果がないみたい。
「召喚は?」
「召喚でしたら、10秒いただければ!」
「わかった。時間を稼ぐからお願いね!」
起き上がったゴブリンが怒りで顔を歪ませて襲ってくる。
それをスローを発動させながら避けていく。
避けきれない攻撃もあって、腕にいくつも浅い切り傷ができた。
これくらいなら10秒いけるかな? て、思ったときだった。
「キャァァ!」
後ろでイザベラちゃんの悲鳴が聞こえた。
忘れてた。ゴブリンは2匹いた……。
バリアに吹き飛ばされていたゴブリンが、イザベラちゃんに駆け寄って短剣を突き出す。
それを見た瞬間、今までにないスローが発動した。
時間が止まっちゃったんじゃないかと思うくらい、ゆっくりと時間が流れていく。
私は、スローの中の思い通りに動かない体を必死に動かして、短剣の切っ先とイザベラちゃんの間に体を滑り込ませた。
左脇腹に激痛が走った。
うつ伏せに滑り込んだ体を半身に捻って、木の棒を突き出すと、奇跡的にゴブリンの目に当たって、怯ませることに成功した。
「イザベラちゃん!」
「はい! 出でませ! ウサリス!」
なんかこのネーミング、親近感が湧くな~。なんて思ってる場合じゃなかった。
バリアが無事に張られて、ゴブリン達の攻撃を防ぐことが出来るようになった。
「サクヤ様! お腹の傷は……」
「うん。大丈夫だよ。血は流れてるけど、深くないから。たぶんだけど……」
スローがかかってなかったら、短剣の根元まで刺さってたんだろな~。死んでたかも……。
「頑張って、ウサリスちゃん」
くん、かもしれないけど、ウサリスちゃんが光に包まれて、青色だったバリアが金色に変わった。
金色に変わったバリアは、ゴブリンの攻撃を完全に寄せ付けなかった。
まだエールは使えるみたい。声もまだ出てる。エールが発動するってことは、まだ窮地に陥ってるってことなんだけど……。
イザベラちゃんは落ち着きを取り戻したようで、何か言いたそうにしてる。
「サクヤ様、1つ聞いてよろしくて?」
「うん? なに?」
ここで文句がきちゃうのか~~~!
「どうしてあのようなことが出来ますの?」
違ったみたい。
「あのようなことって?」
「私は、家の名のため……貴族の娘として、家の栄誉と国を守るためにここまで来ました。ですがサクヤ様は、今まで辛く当たった私のために、こんな傷を負ってまで……」
「う~~~ん。どう言ったらいいのかな? 私はね、家のためとか、国のためとかってよくわかんない。でも、守りたいもの、守りたい人達がそこに居るから頑張っちゃうんだよ。今、守りたいって思う人が目の前にいるよ」
「サクヤ様……」
「勇者で年上のお姉さんだしね。弱いけど! 体が勝手に動いちゃうんだよ。可笑しいよね」
「ふふふ……」
「あはは――っ! 痛い! いった~い! お腹の傷が~~~~!」
笑い死んじゃうってこのこと?
その後、私達は救助にきたラグルさん達に助けられて、無事に街へ帰還しました。
ヒールでは、お腹の傷は深すぎて治せなかった。
そんなとき、頼りになるのがヒーラースライムのプルプルさん!
プルプルさんが私のお腹に張り付いて、傷を治してくれた。
もしかして、どんな傷でも生きてれば治せるんじゃない? て、思うほどだった。
傷は完治した。でも、血を流しすぎて3日間の入院……。実は、それだけじゃなくて、エールのクールタイムが2日遅れでやってきた!
声が出ないから学園休むしかないよね……。
3日後、ギルドの中にある病院? を退院して、そのまま学園に向かった。
声も出るようになったし、体も調子いい!
3日振りの学園! 頑張っていくよ~! お~~~! て、街中で手を上げたら、周りから笑いが巻き起こった。
恥ずかしかったです!
教室の中では授業がすでに始まっていた。
どうしよう……なんか久しぶりだと(3日だけど)入りにくい。退院してからといっても、遅刻ってことだから尚更……。
明るく入っていこう。そう決めた。
「先生、教科書忘れてきちゃった!」
勢いよくドアを開けて宣言した。
シ~~~ン、と、訪れる静寂。
そしてイザベラちゃんが駆け寄ってくる。
また、たるんでますわよ! とか言って絡んでくるんでしょ……。
「お姉様! 退院なさったのですね! 心配しましたのよ!」
「はい? お……お姉様?」
お姉様って何~~~?
イザベラちゃんが抱きつきながらピョンピョン跳ねている。
「もう私、お姉様のあの言葉に心酔いたしましたわ!」
「え? え? 私なんか言った?」
「言いましたわ! 皆さんもお聞きになって!」
なんだなんだ? と、みんな固唾を呑む。
「守りたい人達がそこに居るから頑張っちゃうんだよ。今、守りたいって思う人が目の前にいるよ。それは君さイザベラ。……キャァァァ!」
「え? 最後のは言ってないよね!」
「もう~~~照れなくていいのですわ! お姉様!」
小説で読んだことあるセリフをうろ覚えで言ったんだけど、最後のは絶対言ってないよね? ね、ね? 言ってないよね?
「も~可愛いですわ! お姉様!」
3日見ない間に、痛い子が、スーパー痛い子にいろんな意味で進化してた。
なにがどうしてこうなっちゃったの?
「また授業崩壊なのね……なんなのこのクラスは……」
なんかいろいろごめんさい!




