第11話:なんか、マイホーム(豪邸)手に入れちゃいました。
「さて、どうしようかな?」
草むらに隠れながら様子をみる。
今、モフモフさん達と再会して、街に戻っている途中です。
目の前には北門。そして門番さんが1人見える。
私の後ろには、モフモフさんを先頭にして、子分狼さんたちが伏せて隠れてる。モフモフさんは普通に立つと、高さが180センチ、全長が3メートルくらいあって、隠れられているのか疑問だけど……。
モフモフさん達を連れて中に入って、ギルドまで辿り着くまでの作戦を考える。
普通の犬さんだったら、すんなり通れるんだけど、モフモフさんは大きくて魔物だからな~。
少し大きい犬さんと勘違いして、普通に通してくれるかもしれない! ということで、モフモフさんの上に乗って、一列になって門へ向かう。
そうだ! 口笛を吹いて、何でもないよ~、と、アピールしよう。
「ピュ~~~ピュ~ピュ~~♪」
「…………って! ちょっとまてぇぇぇい!」
「だよね~~~!」
この後、兵士詰所に連れられて、事情聴取という説教を受けました(泣)。
保護者ということで、テオールさんが詰所まで迎えにきてくれた。
モフモフさん達はさすがに街に入れなくて、でもそのまま帰すこともできなくて、詰所で預かってもらっている。兵士さん達は少し怖がってたけど……。
ギルドに着いて、事情を説明する。
「そっか~。危なかったのね」
「うん……。クエストも失敗しちゃったし……」
「でも、討伐記録にゴブリン3匹が記録されてるね。その……モフモフさん? たちが倒した分もカウントされるみたいね」
「すご~い! やった~!」
ゴブリン3匹で9銅貨を貰っちゃった。
「で、どうする? まだ日が沈むまで、時間あるけど」
「明日にはラグルさんが帰ってくるから……」
「Eランクに上がった姿見てもらいたいものね!」
「うん……」
なんだろ、この気持ち。ラグルさんが喜んでる姿を見たい。その想いが強くなってくる。
「でも、薬草がどういう物なのか分かんない……」
「う~ん……。誰かサクヤちゃんに付いて行ってあげて」
「「「おう!」」」
なんだろ、この光景は。
私の後ろに、大柄で、人相はとても良いとはいえない男達20人が、ゾロゾロと付いて来る。
手には斧や剣、盾を装備している。
ギルドを出た瞬間、周りの人達がそんな光景を見てざわついている。
「あ・な・た・たち~~~。どこへ襲撃に行くつもりですか!」
テオールさんが全身に雷を身に纏い、飛び出してきた!
轟く男達の悲鳴。
いつもの日常風景です。
☆☆☆
翌日、ラグルさんを出迎えるため、南門で待っている。
予定では、ヴェリラさんを送っていって帰ってくるのが今日なのだ。
「なぁ、待つって言ってもまだ昼前だぞ。いくらなんでも早すぎじゃね?」
声をかけてきたのは若い門番のお兄さん。王国に所属している一般兵という職業で、王国からここに配属されているらしい。
「うん……。でも、いつ来るか分かんないし、すれ違いになってもイヤだし」
スマホで「もうすぐ着くよ」とか、連絡取れればいいんだけど、もちろんこの世界にはそんなものはなかった。
「ま~、俺はサクヤちゃんと一緒に居られて幸せだけど」
「……?」
「聞かなかったことにしてくれ」
そんな、『実は気付かない間に軽くフッちゃいました』的な事をやっていると、ラグルさんの姿が見えてきた。
ギルドに向かう途中で、この1週間にあったことを話した。
ラグルさんは、顎に手を添えて何か考えて、一呼吸おいてから言葉を発した。
「それは、ファミリーっていうスキルかもしれないな」
「ファミリー?」
「あ~、そうか。サクヤちゃんは字が読めなかったな。サクヤちゃんには2つの固有スキルがある。それがファミリーと、エールというものだ」
「でも、私スキル使ったような覚えがないですけど」
あの体が光り輝くのがファミリーだとしたら、自動で発動? その条件はなんだろ?
「ま~、これから様子見て検証だな」
「はい!」
そして、ギルドにもうすぐ着くというところで、私を目掛けて真っ直ぐ歩いてくる片腕の男の人が見えた。
私は避けようと……。右に避ける! 同じ方向へ男が進路を変える。左に! 同じ方向へ男が進路を変える。
狙われてる! 私、狙われちゃってるよね?
助けて! と、ラグルさんを見ると、何故か私と距離をとっている。
ナゼデスカ?
男が私とぶつかる寸前に、手に持っていたコップを『あからさまに』傾けた。
飛び出してくる液体!
それを辛うじて避けたけど、袖がちょっとだけ濡れちゃった。
液体はただの水だった。すぐに乾きそう。
「あ~~~、ごめんよ。おじさん余所見してたよ(棒読み)」
しっかりと見てたよね! 狙ってたよね!
「ギルド支部長のレオドナドさんじゃないですか。何やってるんですか(棒読み)」
やけに説明的なのね!
「あ~、服を汚したしまったね。お詫びに家をプレゼントしよう(棒読み)」
「いえ、すぐに乾き……」
「それはいい。そうしてもらえ(棒読み)」
「え? え?」
服を汚され……てないけど、どうして家? プレゼント? そしてどうして2人はセリフが棒読みなの?
話を聞いてくれない2人にどうすることも出来ないまま、連れてこられた所。
そこは、西門から出て少し歩いた、子供の遊び場になっている丘の上。
目の前には、家というよりも、豪邸? があった。
3階建て、正面の玄関から左右に窓が6個並んでる。玄関の上はテラスになっているみたい。
「あの、これは……」
「すごいだろ! 1週間前から使ってなかった屋敷を掃除させて準備してたのだよ!」
計画的犯行だった!
2人の説明では、この屋敷は元々領主のもので、5年前の対魔王軍で出陣して行方不明になってから、使用人も王都にいってしまい、持ち主不在だったらしい。今はギルドで管理していて、支部長のレオドナドさんが権限を持ってるんだって。
「こんなすごい家に私が住んでもいいのかな~?」
「いいともいいとも。ここに住んでいてくれたほうが、なにかと監視……うおっほん! いや……ほら、ここなら狼たちも一緒に住めるぞ」
一緒に住めるぞ。住めるぞ……住める……。
「私、ここに住みます!」
おもわず、笑顔でレオドナドさんに抱きついちゃった。
「そうかそうか! 何か困ったことがあったらいつでも俺に言うんだぞ。何でも買ってやるからな!」
レオドナドさんは、デレ~~~っとした顔で、頭を撫でてくる。
「レオ……笑顔に堕ちたか……」
私はこの日、本当に予想もしてなかったマイホーム、しかも豪邸を冒険者になってから1週間で手に入れちゃいました。
最後のラグルさんが呟いた、堕ちたっていう意味がわかんなかったけど……。