第10話:待たせたな!
初クエストクリアから3日後、私は雑貨店の店員さんをしています。
転職――じゃなくて、クエスト内容が店番というものだったんです。
この雑貨屋さん、結構お客さんが多くて忙しいです。
「いらっしゃいませ~」
「あら? 今日はサクヤちゃんが店員さんしてるの?」
「はい! クエストで今日だけですけど」
「あらあら。じゃ~今日はいっぱい買ってあげないとね」
カゴにいっぱい商品を入れていくおばさん。
メモに書いている通りに会計を済ませて、お釣りを渡す。
文字が読めないから、最初はアタフタしたけど、お釣りは間違ってないはず、たぶん……。
転生する前は、バイトしようかな~って思ってたから、なんかこの店員さんの仕事が楽しい。
棚にある商品の在庫がなくなる頃、このお店の女性の主人が帰ってきた。
空になった棚を見て、目を丸くしてた。
ギルドのカウンターで報酬を受け取る。
銅貨30枚。クエスト報酬が20枚だったからちょっと多い?
「すごいね~。今日の売り上げ、いつもの3倍はあったんだって。だから特別報酬が支給されたの」
「忙しいと思ったら、そんなに売れてたんだ」
「サクヤちゃんが人気者だからね」
街の人達には、小さくて可愛い子が勇者で冒険者になったって、有名になってたみたいだけど、これまでクエストクリアした内容は、スライム撃退、おばあちゃんのお使い、犬の散歩、そしてこの店番。
最初のクエストはスライム撃退だったけど、残り3個は冒険者関係なくない?
「いよいよFランク5個目のクエストね」
テオールさんが3枚の紙を見て吟味してる。文字が読めない私に決定権は無し!
「Fランク卒業試験にはこれがいいわね! 北の森周辺で薬草採集!」
「なんか冒険者らしいクエストだ~」
「そうでしょ? 凶暴化したゴブリンが出るらしいけど、昨日、討伐してくれたばかりだから安全なはずよ。できる?」
「はい!」
ゴブリンが出ても逃げればいいかな? このときは、そんな軽い考えでした。
翌日、北の街道から脇道に逸れて、採集ポイントに着いた。
草原の先に木々が生い茂る森と、その先に小山が連なっている。
そして私は途方に暮れていた。
「どれが薬草か分かんない……」
草原という名の通り、草はいっぱい生えてる。所々に背の高い草むらがあったり、それらしい草が生えてるけど、見分けがつかない。ていうか、薬草そのものがどういう物なのかさえ分かんない。
森まで行ってみようかな……。
初心者にありがちな間違いを私はしちゃいました。
☆☆☆
「ハァッ……ハアッ――たすけ……て」
息を切らせて、全速力で逃げている。
森の中でゴブリン3匹に遭遇しちゃった。2匹が醜い顔を益々歪ませて、四つん這いで犬のような走り方で追いかけてくる。
残りの1匹はどこにいったのか分からなかった。
もう少しで街道に出る! そこまで行けば誰か人が通ってるはず!
微かな希望でしかないけど、お願い誰か居て! と、願いをこめて走る。
でも、そんな希望は街道に出る前に終わった。
右の草むらから、1本の棒がニョキッと出てくる。
先回りしてた1匹が、私の足に引っ掛けて転ばそうとしている。
絶妙なタイミングで出された棒に、あと2歩で引っかかると意識した途端、周りがスローモーションになった。
あのときの感覚……。認識や考えることはできるけど、体がついてこない。
お願い! 跳んで~! 踏み込んだ左足にグッと力を入れる。
無理に跳ぼうとして筋肉が悲鳴をあげてる。
タン! と、なんとか跳ぶことに成功。重心が傾いて、ほとんど右方向に……。
その先には当然、『してやったり』顔の、にやけたゴブリンがいた。
膝を突き出した形で上げられてる私の右足。その膝が正確にゴブリンのコメカミ目掛けて……。
そこでスローモーションが解けた。
ゴキン――!
ゴブリンの左コメカミに膝がめり込んで、盛大に吹き飛ばし、私も地面に滑り込んだ。
慌てて立ち上がって逃げようとしたとき、後ろから足首を掴まれて、引きずられる様に仰向けに倒される。
1匹のゴブリンに両足首を掴まれて固定されて、お腹の上にもう1匹のゴブリンが飛び乗ってくる。
お腹の上のゴブリンが短剣を振りかぶり、心臓目掛けて――。
私は諦めて、目を閉じた。
――ドスン!
……あれ? 痛くない? 代わりに聞こえてきたもの……。
「グルルル! ウォォォン!」
その声を聞いて、バッと上半身だけ起こして、目を開けた。
私の目の前で仁王立ちになって、守ってくれたのは……あのときの、狼さん!
短剣を持って私を刺そうとしてたゴブリンは、狼さんに体当たりで吹き飛ばされていた。足首を掴んでたゴブリンは、慌てて離れたのか、足を縺れさせながら距離を取っていた。
そのゴブリン達を、4匹の子分狼さん達が取り囲む。
ボス狼さんが仁王立ちのまま、白い歯(牙?)を輝かせながら私をチラッと見る。
「ウォン! グルッオン!」
私には、『待たせたな! 後は任せな!』そう聞こえました。
そこからは、あっという間だった。
1匹のゴブリンを2匹で囲み、周囲を円を描くように走って、アタフタするゴブリンが隙を見せたら1匹が飛び掛り、迎撃しようとしたところを、もう1匹が後ろから首筋に噛み付く。
これが狼さんの連携した狩りみたい。
あっという間に2匹を倒し……て、あれ? 私が膝で吹き飛ばしちゃったゴブリンは?
「あ!」
見回すと、草むらに隠れながら弓を構えてるゴブリンがいた。
私が気付いたのと同時に、ボス狼さんが少しだけ屈んで大地を蹴り、黒い一筋の光となって放たれた矢を簡単に弾き、ゴブリンと交差して遥か後方で横滑りしながら止まった。
ゴブリンの上半身は、胸から上が無くなってた。
危険が去って安心したのか、涙が溢れてきた。
こんなに泣き虫だったかな~と、思いながら、止まらない涙を両手で拭いてると、ボス狼さんが近寄ってきて、『もう大丈夫。泣かなくていいから』と、言うように、涙で濡れた頬をなめてくれた。
私が泣き止むまで、ボス狼さんは隣に座ってくれていた。
……。『ボス狼さん』だと呼びにくいな~。
「モフモフさん、助けてくれてありがとう」
「……。……。……ワウォ!?」
す~~~っごくビックリしたような顔で振り向いて、顎が外れるんじゃないかなって思うほど口を開けてる。
「首の周りの毛がモフモフしてるからモフモフさん♪」
「キャウ~~~~!」
今度は両手で顔を覆って、右へ左へ転がりだしちゃった。
そんなに喜んでもらえると嬉しいな~。
そんなモフモフさんを、オロオロしながら見ている4匹の子分さん達に視線を向ける。
「あなた達にも名前……」
「「「「キャイ~~~ン!」」」」
悲鳴を上げながら脱兎(脱狼?)の如く走り去っていく。
「なんなの、も~~~~! 後でこっそり名前付けといてあげる!」
そんな私の横で、溜息をつくモフモフさんが居ました……。
モフモフさん再び登場です。
これからの冒険? のメインの仲間になるかも?




