第104話:悪いことしちゃうぞ!
王都を出発する予定の2日前まで魔物討伐を頑張った。
もちろん、生活費を稼ぐためじゃなくて、割っちゃったお皿とグラスの弁償代を稼ぐため。
割っちゃった数は覚えてないけど、金貨2枚で足りるのかな?
そもそも、金貨2枚なんて貯まってないけど。
ということで、今まで稼いだお金をとりあえず返しにきた。
突然に押しかけちゃったんだけど、ビスケールさんは快く会ってくれた。
椅子に座ってるビスケールさんは、凄く息切れして急いで来てくれたみたいだけど、どうしてだろ?
「あの、これ壊しちゃった代金です」
銀貨5枚だけど、とりあえず、側に控えていた使用人さんに渡しておいた。
使用人さんはお金が入った袋の中身を確認してから、そっとビスケールさんの前に置いた。
「先日のあれかの? 既に修理は終わってるおるが、ありがたく頂戴しておこうかの」
修理? 花瓶を分解してお皿とグラスに戻したのかな? この国の技術って凄いね!
「残りはまた少し貯まったら持ってくるね」
「いやいや。このお金でもお釣りが出るくらいじゃよ。同じ予備が倉庫にいっぱいあるしの」
そういえば、食器棚の中にはまだお皿とグラスがあったしね。ビスケールさんって、お皿とグラスのコレクターなのかな?
「今度からは強化魔法で頑丈にするつもりじゃ」
「あ! それなら落としても大丈夫だね」
「……ん?」
「え?」
……会話の行き違いってよくあることだよね。
「会話のキャッチボールって難しいね」
「サクヤ様が一方的に大暴投しているだけでは? クックック」
……まあ、問題は全て解決したから良しとしようかな。
そして、ギュレールへの出発まであと2日。
それまでの間に、私は考えてた作戦を実行することにした。
それは……。
魔王レベルを上げちゃおう作戦!
具体的なことは何も考えて無いけど、魔王なんだから、悪いことをしたら上がるのかな?
てことで、雑貨屋さんで絵の具を買ってきた!
私の手の平にすっぽり入るくらいの小瓶に入った油絵の具。1個で銀貨1枚……。
凄く高い!
それを黒、白、青、赤、黄色の5色買ったよ!
その小瓶を開けて、中身をじっと見て、次にバケツに入れた水を見詰めて、色をイメージする。
「クリエイト!」
バケツの中に入った水が輝いて、大量の絵の具が出来上がった!
……絵の具買う必要なかったじゃん。あ、でも、クリエイトにイメージは欠かせないからね。
無駄じゃなかったよ。うん。
バケツを運んで、城壁の前の植木の中に隠して。
何をするのかって?
目の前に城壁の大きな壁。そして絵の具といったら、答えは1つ……壁に落書きだよ!
門番の兵士さんがチラチラ見てるけど、私は魔王! 悪いことを堂々としちゃうもんね~!
まずは赤と黄色を少し混ぜて、オレンジ色を作って。
絵の具の入ったバケツの取っ手を左手で持って、右手には一緒に買ったハケ。
そして~! マントを翼に変えて、いざ、城壁の高いところへ!
パタパタパタ!
リンクしてないから、絵の具の入ったバケツが凄く重くて、しかも魔力が1だから飛行が不安定!
でも、頑張って大きな太陽を書き終わったよ!
1回降りて、今度は下から緑色で草原を書いて、今度は太陽の光を書くために黄色を持って、再び上昇!
パタパタパタ。翼を一生懸命に羽ばたかせる。
やっと上まで来たとき、横殴りに強風がふいてきてバランスを崩して落下! 手に待ってたバケツも上に放り投げちゃった!
ずっと下で見てた兵士さんが、受け止めようと駆け寄ってくるのが見えた。
私はそれを見ながら、地面に激突する寸前に羽ばたいちゃって。
ペシンペシン!
いい音が2回鳴った。そして、左の翼の先端に軽い衝撃。直後に落下の勢いを殺すことに成功して無事着地。
衝撃のあった左を見てみると、両頬を赤く腫らした兵士さんが……。
翼で往復ビンタしちゃった!
謝ろうとしたとき、空から降ってきたバケツが兵士さんの頭にヒット!
兵士さんは全身が黄色に染まったよ。
「きょ……今日のラッキーカラーは黄色だよ!」
私はその場から走って逃げた。
……謝ろうとはしたよ? 兵士さんが黄色に染まるまでは……。
落書き作戦はとりあえず休止。
今度は大通りに来た!
大通りの道に沿うようにして存在感をアピールしてる花壇。その中に生えてる花の芽を抜いちゃうもんね!
プチ……プチ……。
ふっふっふ。私は今、凄い悪い子だよ。
「あらあら、サクヤ様。雑草を抜いて花壇のお手入れをしてくれてるの?」
「え? あ、はい」
人目が多すぎた! 大通りなんだから当たり前だけど。
ていうか、雑草だったんだ。
声をかけてきた少し幅広なおばさんも、一緒になって雑草を抜き始めちゃった。
「この大通りの花壇を世話してくれていたお婆さんが病気で寝込んじゃってね。お手入れが止まっちゃってたのよ」
「え? お婆さんは大丈夫なんですか?」
「ええ。もう少しで治療院を退院できるわ」
「よかった~! じゃ~この花壇を花で一杯にして、お婆さんをもっと元気付けちゃおう!」
「そうね。雑草を抜いたら、一緒にお花屋さんに行きましょう」
「うん!」
その後、どんどん人が増えて、気付けば50人くらいの大集団に。
そのおかげで、あっという間に花壇の雑草は無くなって、みんなで開花前の蕾をつけた花を植えたよ。
お婆さんが退院するころに合わせて花を咲かせるんだって。
お花が一杯咲いてる花壇を見たら喜ぶだろな~。
……違うの。いいことしようとしてるんじゃないんだよ?
花を植えた後、城壁に戻ってくると、何故かお城の騎士さんや兵士さんが総出で壁の上まで届く足場を組み立ててた。
しかも、城壁をぐるりと囲む範囲で。
その作業の指揮をしてるのはギャレンさんだった。
「いいか! サクヤ様の背の小ささを考えろ! 10歳の女の子だぞ!」
15歳です!
「お! サクヤ様!」
見つかった!
ギャレンさんが笑顔で駆け寄ってくる。
「サクヤ様が落ちたと報告があり、急いで足場を設置してますよ」
「あ、ありがとう?」
「しかし、どうして城壁に絵を描こうとしたのですか?」
ギャレンさんの笑顔の前で、魔王レベルを上げるために悪いことをしてたなんて言えない!
「ほ……ほら、城門の前って、殺風景でいつも門番の人が睨むように立ってるから、市民の人が寄り付かないでしょ? ビスケールさんは優しいのに、ここが原因で怖がられてるのがちょっと嫌だったから」
「それで、絵を描いて明るくしようとしてたのですね! しかもビスケール王の優しさを分かって下さっているとは、王に忠誠を誓う我ら、感謝し、嬉しく思います!」
落書きを感謝されちゃったよ。
「でも、足場を作ってもらっても、こんなに広いと描ききれないよ?」
「う~ん……。では、街の子供達に描いてもらいましょう!」
「あ! そうだね! 子供達が描いた絵なら、大人の人達も親しみをもってくれるかも! ゆっくり絵を見れるように、門前の広場にベンチも設置しちゃったり!」
「おお! さっそく公園設置を王に相談してまいります!」
「うん! 頑張っていい街を作ってね!」
……あ、あれ? どうしてこうなったの?




