第98話:部屋を抜け出しちゃった私も悪いんだけどさ……。
便利な身体に興奮が冷めないまま、ベッドで寝返りを何回も繰り返してる。
……嘘です。興奮じゃないね。
なんていうか、天蓋付きのベッドの圧迫感っていうのかな?
狭くて四方を幕に覆われて、ついでにマットが柔らかすぎるんだよ。
閉鎖的で圧迫感があって、沈み込んじゃうようなベッド……。
……1人だと怖いよ!
ということで、こっそりと部屋を抜け出して、中庭まで来ました。
中庭に来た理由は……。
中庭に出てすぐに、周りを見回す。
歩哨の兵士さんが所々に居て歩き回ってる。
アクビしてる人も居て、夜勤は大変そうだね。
そんな中、中庭の隅の一角、兵士さんが何故か寄り付かないところを見つけた。
そこに一直線に向かっていくと、ぼんやりとクックさん達の姿が浮かんできた。
迷わず駆け出して~!
『ボス。こんなところに来てどうしたん……て、うお!』
モフモフさんの地面に寝転んだ姿を見つけて、その柔らかな毛に覆われてる胸元にダイブしちゃったよ。
ちょっと驚かしちゃったけど、顔にかかる柔らかな感触が気持ちいいね!
「クックック。おこちゃまだから1人で寂しかったんでしょう」
「そうじゃないもん!」
『もん! なんて言ってる時点でおこちゃ……いえ、なんでもありません』
む~! 子供扱いは止めてほしいよ!
「それにしても、大きなモフモフさんが堂々と寝転がってるのに、皆気にしてる様子がないね」
「認識阻害と人避けの結界をはってるからね~。サクヤっちには簡単に突破されちゃったけどね」
「クックック。まぁ、我々は好きにやらせてもらいますよ」
「じゃ~私もここで寝ようかな」
『……結局、いつもの野宿と変わらないですね』
「うん。変わってるとしたら、イザベラちゃんが居ないことくらいかな」
イザベラちゃんは、カスケールさんの別宅のほうに泊まりに行ってるんだよね。
親子だし、それが普通だよね。
「クックック。結局は我々の側が1番安全で落ち着くということでしょう。さぁ、明日に備えて今日は寝ましょう」
「うん。おやすみ~」
朝。周りの騒がしさで目覚めちゃった。
太陽はまだ完全には出てなくて、時計がないから分かんないけど、まだ早朝って感じ。
お城勤めの兵士さん達が出勤してきたのかな? て思ったけど、何か様子がおかしい。
兵士さん達はいつもの軽装じゃなくて、ちゃんと鎧も着込んでて、普段は持ってない盾なんかも装備してる。
そんな兵士さん達が中庭に50人くらい集合して整列してるんだよね。
「クックック。騒がしいですね。リリー、今度からは音も消す結界をお願いしますよ」
「音か~。出来るか分かんないけどやってみる。それにしても、戦争か何か始める雰囲気だね~」
戦争……。確かに、みんな殺気立ってるし、今にも何処かに攻め込んじゃいそう。
でも、どうして急に? 昨日はまでは和やかで平和だったよね?
『ボス。この集団を指揮してるのは、イザベラ嬢のようですが?』
「へ?」
イザベラちゃんが……居たよ。
お城のバルコニーから、中庭の兵士さん達を見下ろしてる。
イザベラちゃんも、新しく買った魔導師ローブに革の胸当て、革の篭手、そして魔導師の杖まで持って完全武装だよ。
えっと……この状況、意味が分かりません。
「皆様! わたくしの呼びかけにお集まりいただき嬉しく思いますわ!」
イザベラちゃんが大元みたいだね。
「皆様も知っている通り、城内の一室でお泊りになられていたお姉様が行方不明になられましたわ!」
あ……あれ? この騒動は私が原因?
「クックック。サクヤ様。護衛の者に黙ってここに来たのですか?」
「うん……。別に部屋を出ることを言わなくてもいいかなって……」
そっか~。黙って出てきちゃったから、居るはずの私が部屋にいないから、行方不明ってことになるんだね。
そして、今は兵士さん達のすぐ後ろに居るんだけど、リリーの結界で見えてないと……。
「城内の部屋に侵入出来る者は限られていますわ! 1番疑わしいのは領主会議で集まっている諸侯の方々ですわ! 宿泊している宿をしらみつぶしに捜索!」
「「「おう!」」」
「犯人を見つけたら!」
「「「抹殺! 抹殺!」」」
「領主がお姉様を誘拐していたら!」
「「「領地を潰せ! 潰せ!」」」
「わたくし達にとってのお姉様は何!」
「「「女神! 女神!」」」
「お父様が自領の兵5000を連れてくることになっています! 恐れるものは無し!」
「「「おおう!!」」」
「捜索隊、出発!」
……て、ちょっとぉぉぉぉ!
「うわぁぁぁ! 私ここに居るから! 捜索隊の意味をもうちょっと冷静に考えようよ!」
捜索隊じゃなくて、攻撃隊だよ!
「まあ! お姉様! 無事に逃げ出してきたのですね!」
「違うよ! もともと誘拐なんてされてないからね!」
「そのような薄い服を着せられて……犯人は必ずこの世から消しますわ!」
「だからぁぁぁ! 違うんだって! このネグリジェはパジャマみたいので~、このお城の中で着たの!」
「皆様! 犯人は城内ですわ!」
きゃぁぁぁ! 3人のメイドさん達! に~げ~てぇぇぇ!
「クックック。本当にとんでもない暴走娘ですね」
「笑ってる場合じゃないよ!? リリー、なんとかして!」
「え~。関わり合いになりたくないな~。ま、仕方ないか。スリープ!」
リリーが魔法を唱えると、勢いよく城内に向けて駆け出していた兵士さん達とイザベラちゃんが一斉に前のめりに倒れこんだ。
「殺してないよね?」
「眠らせただけ~。1時間も眠れば落ち着くでしょ」
ふ~。やれやれ。
これで落ち着いてるときに説明したら一件落着かな。
……痛い子がすごく深刻化しちゃってるな……。
私も黙って部屋を抜け出しちゃったのも悪いんだけどね。
イザベラちゃん暴走事件から2週間後、カスケールさんの軍隊5000人が、王都の周りの草原を埋め尽くしました……。
なんなんだろ、この親子は……。




