第9話:懐かれちゃった
翌日、私は昨日と同じ畑でスライムと対峙している。
もっとも、スライムのほうは私を無視して野菜に覆い被さって、野菜を溶かしながら食事してるだけみたいだけど。
昨日はいきなり攻撃しちゃったけど、話し合いでなんとかなる? スライムさんって呼んでみようかな?
「スライムさん! これ以上野菜を勝手に食べないで」
スライムさんは、少しだけ体を捻って私を見たあと、また元の形に戻った。
完全に無視されてるよね。
実力行使(その実力がないけど)するしかないみたい。
昨日の間違いは犯さない。ということで、叩いてダメなら突いてみた。
「えい!」
プニって感触がしたあと、木の棒に押し出されたスライムさんが転がっていく。
やっぱりこの方法が正しいみたい!
プニ――コロコロ。プニ――コロコロ。
何回か繰り返して、柵の外に追い出すことに成功! でも解決したのかな~? また畑に戻って野菜食べちゃうよね?
スライムさんは体をプルプル震わせて、「何すんだよ! ひどいよ!」って抗議してるみたい。
その姿に、可愛い! って思っちゃったら、私の体が輝きはじめた。
この現象が何なのか分かんないけど……。そんなことより今は。
「畑は荒らしちゃったらダメなんだよ! わかった?」
そう声をかけてみたら、スライムさんの体からミュ~と腕みたいなのが伸びて、ビシっと敬礼したようになった。
話が通じた? そして分かってくれた? 野生の魔物がどういうのか私には分からないけど、1度ギルドに戻って報告してみようかな。
☆☆☆
どうしよう……。と、後ろを振り返る。
ポヨン――ポヨン――。と、スライムさんが軽快に跳ねながら付いてくる。
立ち止まってしばらく待つと、追いついたスライムさんが、体を伸ばして私の足にスリスリと擦りついてきちゃう。
――懐かれちゃいました。
とりあえず、背負っていたリュックの中に入ってもらうことにした。
遠出じゃないから、中に入ってるのは水筒と、また泥だらけになったときのための予備の衣服一式だけ。余裕で入るスペースはある。
「ここに入って」
リュックを下ろして開けると、素直に入ってくれた。
街に入ってギルドに向かう途中で、すれ違う人たちから声をかけられる。
「サクヤちゃん今日はどうだった?」
「勇者だからな。早く力をつけて平和にしてくれよ! でも無理しなくていいからな!」
こんな風にいろいろと。大半は私を心配する声だったけど。
昨日の姿を見られてるから、勇者なのに恥ずかしい!
そんなこんなで、恥ずかしく照れながらギルドに到着して、早速カウンターに行く。
カウンターにはニコニコ笑顔のテオールさんが待っていた。
「クエスト終わったかな? また魔法陣の上にカード置いてみて。成功してたらすぐ分かるから」
「はい」
カードを置くと、魔法陣とカードが輝いて、魔法陣の上に銅貨が3枚落ちてきた。
「クエストクリアね。そのお金はクエスト報酬よ。今回は討伐じゃなくて撃退だったから、追い出すだけでよかったしね! 頑張ったね!」
パチパチと笑顔で拍手してくる。
討伐でも撃退でも追い出すだけでもなく……リュックの中には……。
「テオールさん、実は……」
カウンターの上にリュックを横にして開けると、スライムさんが這い出してきて、頬ずりしてくる。
「懐かれちゃった」
「えええぇぇぇぇ!」
ギルド内にある食堂のテーブル席で、テオールさんと2人で、スライムさんをプニプニ突きながら遊んでると、クエストを終えた冒険者さん達がゾロゾロと帰ってきた。
「お、サクヤちゃん。クエストはどうだ……」
スライムさんに視線が行って固まっちゃった。
私はそれを見て、1度スライムさんを突っつく。
プニッポヨヨ~ン。
「クエストクリアしたけど、懐かれちゃった」
「「「なんじゃそりゃ~~~!」」」
やっぱりこの反応。野生の魔物は人に懐かないものらしい。
『ま~、懐いてしまったものは仕方ない』ということで、みんな納得してくれた。
そして、このスライムさんの驚きの能力が判明した。
「テオールの姐さん。ポーションないか? ゴブリンに少し不覚取っちまって」
「ごめんなさいね。魔王軍との戦いで品薄で。セシールさんも今不在だし」
セシールさんというのは、あの女神官さんのことみたい。この街の貴重なヒーラーで、出身国は聖王国ヘルブナンド。聖王国という名前からも分かる通り、聖職者さん達が多くいる国らしい。
「怪我したんですか?」
「見てみるか?」
包帯を取ると、抑えられていた血が滴り落ちてくる。
と、突然スライムさんが、体を変形させながらその傷を覆うように張り付いちゃった!
「うおっ! 何だ! ……あ、これ気持ちいいわ」
ビックリして立ち上がったと思ったら、途端にふわ~っと光悦の表情になった。
みんなが注視する中、水色の透明な体から見えてる傷が、どんどん塞がっていく。
「珍しい……ヒーラースライムか?」
「聞いたこともないが、突然変異か?」
「魔王の支配権の魔力値が高いところでなら分かるが、ここの浮遊魔力値は高くないだろ?」
なんか議論を始めちゃった。難しいことは分からないけど。
「プニプニさんってすごいんだね」
「「「ん? プニプニさん?」」」
「この子の名前。プニプニしてるからプニプニさん」
「ハハハッ! なんだそのなま……え……」
笑っていた人達が、青褪めて凍りつく。その視線の先……。
笑顔のテオールさんの足元に魔法陣が輝いて、4重、5重、6重と円が増えて大きくなっていって、前に差し出された右手にバチッバチッ! と、雷がみたいなのが纏わり付いて、いくつもの光の粒子が収束していく。
「いい名前よね! ねぇ……あなた達もそう思うわよね……? ねぇ?」
「いい名前! いい名前です!」
「上位魔法はやめて~~~!」
「ふふふ……」
うわ~~~! と、この日もギルドから男達の悲鳴が響き渡った。
最後に一悶着あったけど、プニプニさんは、貴重なヒーラースライムということで、ギルド内でみんなで世話することになった。
そして、分かったこと……。テオールさんは怒らせちゃいけない。絶対に……。
シリアスな展開にしよう……気付いたらドタバタな展開><
シリアス展開、そして冒険はいつになるのかな……。書いてる私もまだわかりません!