第2話ーイチにも映る真っ赤な夕陽!!
《ジャ――‥》
蛇口をゆるめ、水道水をトレイに汲む。
底から3センチくらいにまで水を浸らす。
顔をあげ、猫たちを見る。
‥食ってる食ってる。
ウニャウニャ言いながら、そらもーウマそうに。
なんだか嬉しくて‥猫たちのもとへと駆け出す。
トレイをエサのそばに置く。
水をペチャペチャ舐める猫。
「‥美味いかー?」
しゃがみながら問い掛ける。
‥すると、一匹の猫。
‥コイツは、毎日こうして‥エサと水をあげた後のあたしのもとへ来る。
まるでお礼をするかのようにお辞儀して‥
《ニャアウ》
って顔をクシャッてさせて、鳴くんだ。
右目に一筋の傷があるから、“イチ”って呼んでる。
イチは、周りの猫とは雰囲気が違う。
一回り大きいし、リーダーっぽい。
他の猫をイジメたりしないし、ケンカもしない。
逆に仲裁に入る感じ。
なんか‥威厳がある。
ずっしりしてんの。
「ありがとー、イチ」
喉のあたりを撫で上げる。
気持ちよさそうな顔。
こっちまで笑顔んなるわ。
ゴミをビニール袋に入れて、自転車の鍵を差し込む。
夕陽は赤い。
真っ赤だ。
もう6時になるだろう。
「またなぁっ」
猫たちにむかって叫んだ。
帰るときは、必ず足が軽い。
あとは家に向かうだけ。
‥あ、鼻歌流れた。
あの日は風が冷たくて、無性に心地よかった。
‥信号待ち。
気になって、あの雑木林を振り返る。
イチだ。
アスファルトのど真ん中に座ってる。
危ないぞーとか思うけど、内心メチャメチャ嬉しい。
イチが、あたしに向かってニャアと鳴いた。
鳴き声は聞こえない。
けど、分かった。
手を振った。
信号が青に変わった。