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純文学(短編)

親父とお袋と祈り

作者: 15cc



 まだよちよち歩きだった頃に、親父とお袋は改宗した。祖母が「あの頑固者らが!」と青筋立てて教えてくれた。自分は、その教本に基づいて育てられたのだ、と。



 小学生のとき、友達をいじめた。熱血な担任が間に入り、いじめはやめて和解したものの、連絡を受けた親父とお袋は分厚い教本を広げて、書かれた文字をゆっくりとなぞり、目を吊り上げた。


「私達はこの通りにお前に教え続けて来たのに、なんてことをしているのだ」

 親父がテーブルを拳で叩く。それに大きく頷いてお袋が自分の目の前に広げた教本を掲げた。

「折角の教えを何故裏切るの」

 金切り声は、耳の奥の奥まで響いた。

 二人は、謝ることも赦さず、夜が明けるまで教本を読ませた。身に沁みるだろう、朝日が心地良いだろう、そう晴れやかに。緊張の糸が切れてフラフラとしている自分にも拘らず、ずっと玄関先から学校へ行くのを見送っていた。


 中学生になるまでは、大人しく従っていた。従っていれば普通に過ごせた。友達と遊ぶことも、テレビやゲームをすることもルールを守ってさえいれば自由だった。


 問題が起こったのは、違う学区だった奴と遊ぶようになってからだ。

 規則正しく――親の言うことを違うことない自分に対し、そいつはおかしいとかではなく、ただ不思議に思ったから聞いただけだった。だが、ガツンと殴られたような気になった。



「お前、窮屈じゃないのか?」



 そいつの家は、無宗教だった。いや、毎年面倒だけど墓参りには行くんだと言っていたが、何故いつも親の言ったことをはいはい聞くんだ――聞けるんだ、と。


「自分だったら、うるせーって言っちゃうね」


 そいつはハハハっと笑った。


 ……どうしてだろう、と自分には重くのしかかった。


 家に帰れば、手洗いをし、親父の手作りの小さな祭壇に向かい祈る。お袋が呼ぶまで部屋で勉強し、終わればタイマーをかけてテレビかゲームをする。約束の時間を過ぎても見ていることはない。お袋が必ず聞き耳を立てているからだ。友達との電話でだって、少しでも愚痴を言ったとしたら教えを持ち出される。


「お前はまだ赦されていない」


 そう言って。

 友達は、別れ際に冗談っぽく囁いた。「監視されてんなー、たぶん」笑い返すことは出来なかった。


 親父もお袋も自分も毎日が同じだ。同じことだけを自由に生きている。

 そして、親父とお袋は“何か”の従順なしもべでも作るかのように、年を追うごとにルールを課した。その度、自分の自由は狭くなっていった。


 自分は、教本で生かされている。


 親父とお袋の人生を聞いたことがない。


 あの通りにしろ、この通りにしろ、最後には私達を、教えを守る親を敬え――



 アレは、自分の親だろうか。



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