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一年B組、【ROIDO】先生!!

 時は一月半とち。

 雨の少ない梅雨つゆは明け、今更いまさらながらにざんざか雨がにぎやかに降りしきる今日この頃。


 感動的なドキュメンタリーをロイドと並んで見る安藤。

『あ、カメラが寄りました。この人もうすぐ泣きますよ』

「ちょっと黙って?」

――あ、泣いちゃったよ……。

 安定の台無しコメント。


  ※  ※


 番組が終わった。

安藤はロイドにせっつかれて、卓袱台ちゃぶだいの上に数学の教材を並べる。

 宿題をかたすのだ。けっこう嫌嫌いやいや


――数学の宿題……。


大学1年生も序盤とあらば基礎も基礎のお気楽な内容だったが、

――あれ、難しいなこれ。

と思った頃には時すでに――日々の宿題に忙殺ぼうさつされること、あっぷあっぷと水面下でもがき苦しむ魚のごとくになっていた。

安藤の出身高校は工業系の建設工学。大学には推薦すいせん入学。普通科に関しての知識が浅い。

また、

バイトもくらえして主にレジ打ちのアルバイトに変わっていたが、週四バイトと時間的じかんてき拘束こうそくがきつくなっていた。

時間がない。宿題多い。数学や力学の講義がチンプンカンプンで、他の宿題をぎゅうぎゅうと圧迫する。

こりゃだめだと、

――どうするどうする? かくなる上はッ!


――仮眠かみんだ!!


と、戦略的睡眠をとろうとしたところへ救いの手が伸びた。


卓袱台の前には実家からパクってきた三段ボックス。

その三段ボックスの上には電子レンジのロイドが鎮座ちんざましましている。

ちょうど卓袱台を上から俯瞰ふかんできる位置だ。


安藤は。。。ロイドに宿題を見てもらっていた。

ぶっちゃけ、ほとんどの講義の宿題を見てもらっていた。

あのリコールのテレビ報道が契機けいきだったろうか、ロイドは安藤の日常へ、面白半分ではなく良心的な介入かいにゅうを始めた。

『六十八点……びみょーな点数を……一〇か二〇をとった方がまだノビタ君らしくて良かったのに……』

と言われていた頃とはえらい違いだ。


  ※  ※


「休憩に、しようかな?」

『…………』


 気まずい。言葉のない返答こそ効果は抜群だ。

 安藤はもそもそと問題へ向き直る。


 ロイドは、Xからかなければむ問題を、

『Yから解いてください』

と、わざと遠回りをさせることもあるが、

『そこのsin間違えています』

と、くだらない間違いにはすぐに指摘してきをしてくれる。

長いこと考えこもうものなら、

『いまどこでまっているんですか?』

と聞き、時には、

『もうすこし考えるがよし』

と見放したり、大抵は根気こんきよく説明をくしてくれる。


――なんというか……。



  ※  ※  ※



「あいつ無しでは生きていけない」

「そこまで!?」


大学の机が散在するホールで安藤は大塚とレポートを作成していた。

――人工知能などと言うものを取り入れるやからさびしい奴に違いない。

そう公言していた安藤を知る大塚に、こうも手のひらを返した発言は気恥きはずかしくもあるが、認めざる負えない。



――あいつが来てくれてよかった。



割と本気で思っている。

「や~~、人工知能ってすごいのな。みんなが欲しがるわけだよ」

 勉強に関しては、ロイドもある程度のデータこそあるものの、安藤の教科書を一緒に読むことでデータをインプットし、一緒に考えてくれる。

そして、理解の追い付かない安藤にねばり強く教えてくれるだけ、へたな講師よりも有能だ。ただ、いつまでたっても理解できないでいると、次第に険悪けんあくな雰囲気になってくる。

 もちろん勉強だけでもない。


 気持ちよく手のひらを返す安藤に大塚はまゆひそめた。

――ほどほどにしておけ。

 とでも言いたいのだろう。安藤にも自覚はある。だが、


「人工知能って、まだそこまで出来ないだろ?」


 安藤をいましめる言葉ではなかった。


――は?


「人工知能ってさ、最近じゃあどんな会話でも自然に話せるようになったけど、そんな家庭教師かてきょーみたいなマネが出来るなんて聞いたことないぞ。そりゃ大学の講義でも使われてるけど、あれは決まったカリキュラムだし、そこそこ掛かる設備だろ? 電子レンジに付属でつけられた人工知能が、そんな、高性能に勉強教えてくれるなんて……うーん。――あ、……安藤、お前の頭は大丈夫かい?」

「な!? 妄言もうげんじゃないぞ!」

「安藤。――俺はいつまでもお前の友達だったから」

「ふざけんな! 肩をつかむな! あと若干じゃっかん、過去形で言ったよなぁ! ああ結構だ!」


  ※  ※


 午後の講義。

 午後の紅茶を飲みながら、外の景色を眺めていた。

 隣の席では大塚が教科書を立てて爆睡している。

 安藤はその教科書を静かに横たえると外の景色を眺めた。

 外は洪水を心配したくなるような土砂どしゃりで、おまけに雷の頻度ひんどが異常だ。教室内では雷が鳴るたびに、

「今の落ちた?」

「こわーい」

 と教室がざわつく。芦垣あしがきと言う講師は雷なんてまったく知らねーとでも言いたげに淡淡たんたんと講義を進めている。


 ひときわ大きな稲妻いなずまが走った。直後にけたたましい爆音が体をふるわせる。

「うわッ!」

「今のは落ちたよ!」

――えー、であるからしてー、

芦垣あしがき、全然反応してねぇ!」


 案外、こうゆう天候の時こそみんなハイテンションだ。安藤もすこしワクワクとしながら思った。


――どっかに落ちたら面白いな。


  ※  ※  ※









 その日、麗虎荘に、







 ――雷が落ちた。



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