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キタァァァ━(゜∀゜)━!

 日曜日の休暇。

 どろにまみれたバイトと予想よそうななめ下へ転落し続ける大学ライフ。

 疲れた体は必死に休息を求めていたが、冷蔵庫が壊れたとあってはおちおち死んでもいられない。



「もらった翌日にくたばった」

「ははは、そぉっかー。古かったもんなー」



――タダより高いものはない。

 大塚 (友達 (元))の無責任 きわまる返答に断固抗議だんここうぎを繰り返したが、相手が友達 (元)とあってはクーリングオフも使えない。

 気づけば受話器を叩きつけるように携帯は閉じていた。

 冷蔵庫の内容物を思う。

(動け、動け、動いてよ! 今動かなきゃ、今冷やさなきゃ、みんな腐っちゃうんだ。もうそんなのやなんだよ。だから動いてよ!)


m(_ _)m


 つまり、これから始まる新生活に向けて買った食品の賞味期限、加速度的に迫っている。


――はあ


 安藤は重い溜め息を吐き出した。

 時刻は八時。

 今からアパートを転げでたなら電気屋には開店と同時に入店できるだろう。

「わーい、新品だー」

 腐った声音こわねでは、前向きな言葉も言わない方がマシだった。


  ※  ※


 時は西暦20XX年、夏。

 人工知能が飛躍的ひやくてきに進歩していた。今や人間と人工知能は両者の見分けがつかないほどに流暢りゅうちょうな会話が可能となっている。

 そして、ひとは何をトチ狂ったものか、無闇矢鱈むやみやたらと、

――それ人工知能搭載しました。それペットにどうぞ。それ人生のパートナーにいかがっすか。

 人工知能のたたき売り時代が幕開けした。

 そんな時代の風潮ふうちょうはどこかしこに根付ねづらした昨今さっこん。今や人工知能と関わりのない人間は珍しかった。つまり安藤は珍しかった。


 安藤は大学一年の貧乏学生。場所は名古屋。

 一昨日おとといまでは実家じっかで寝起きし、大学には2時間もかけて通学していた。

 だが、通学時間が往復4時間とあってはもったいない。

乗り物酔いしやすい安藤は電車の中で本を読んで時間をつぶすことも難しかった。たとえ電車から降りても、本を読むような人間ではなかった。

 そこで安藤は、大学生協へけ込み、お菓子を食べ、アパートを契約。転居てんきょしたのが昨日のこと。


 麗虎荘うるとらそう

 築三十七年。大家おおやさんはとら年。B○が好き。

家賃1万9千円 なり。大学まで徒歩とほ7分。(競歩きょうほの選手に歩かせたものと思われる)

 新生活への期待は縦横無尽じゅうおうむじんふくんだのは言うまでもない。

 扉をノック無しに開ける親父はいない。ベッドの下に隠したマル秘本を本棚に整頓せいとんするお袋もいない。

 自由を手に入れた。全裸で寝た。


 また、経済的に厳しい安藤は新生活へ向け、家具や家電の経費けいひおさえるべく奔走ほんそうする。

 実家のお古、友人のお古、家具屋の屋外展示場ごみおきばからき集めた。我が城と財布さいふの中身ににんまりしたのが昨日のこと。

 結局、大きな粗大そだいゴミを抱え、冷蔵庫の一刻も早い購入をせまられている。


  ※  ※


 入店から10分。

 希望の容量と、トップに安価、現品限り、ポイント無し、当日出荷可能、お目当ての冷蔵庫を購入した。

――やれやれ。

 ことがとりあえずんだことに安藤、安堵あんどのため息をく。

 店員からレシートをもらい、早々に帰ろうとする。

 入店から退店いずれも第一号だろう。わずかばかり高揚こうようする。


「お客様。本日一万円以上のご購入をされた方には、一階ロビーにて豪華賞品の当たる抽選にご参加できます。宜しかったらどうぞ」

 レシートに引き続き、抽選券をもらった。

――ほう。

 五等賞品にはコシヒカリ米 一俵いっぴょう

――ほーう。

 高揚が一段と高まる。安藤はお米が好きだ。

 一階ロビーの特設会場、抽選箱にて安藤は運命のくじを引き、


「おめでとうございまぁーす! 三等の大当たりぃー!」



  ※  ※  ※



 昼食時、安藤は体中に汗をじっとりとにじませて麗虎荘うるとらそう帰還きかんした。

 昼食は当然冷凍食品だ。お湯でるだけ、きつねうどん。

冷凍庫に入っていたはずなのに梱包こんぽう袋は水浸みずびたしだった。


 午後五時頃。

 荷解きをして、漫画を読みつつ、荷解きを思いつつ、漫画を読み、漫画を読んでいたら配達業者が到着した。

――漫画しか読んどらん……。


 冷蔵庫が設置された。

 業者が粗大ゴミの冷蔵庫にシールを貼っている。見れば、

[おつかれさま]

 との印字が。

「おつかれさま?」

「ああ、それね。今は家電製品にも人工知能が組み込まれていて、話せるってことでね。愛着あいちゃくもっちゃう人が多いの。廃棄品なんてシールを貼ったら悲しまれるから一律いちりつそのシールなんですよ」

「なーる」

 それは素晴らしい気配きくばりだ。安藤は今だ雑然ざつぜんと置かれたダンボール箱の中からマジックペンを取り出す。きゅぽんとキャップを外すと、[おつかれさま]シールの横へ、冷蔵庫へちょく

[ではない。このモノ、役立たずであったゆえ、廃棄にしょする]

 と書きえた。文句があるなら大塚に言え。


 もうひとつ届いたものがある。


――三等の大当たりぃー!


――困った。

 台所に三等の置き場がない。せまいから。元々置く予定もなかった。せまいから。

「とりあえず、居間んとこに置いてください」

「わかりました」

 業者は三等を箱から取り出すと畳の上にじか置き。薄っぺらな取扱説明書を安藤が受け取ると、さくっと帰っていった。


 安藤の住まいに三等、あらため、電子レンジが、キタァァァ━(゜∀゜)━!



  ※  ※  ※



 コンセントを差込み、


――Now Loading


 起動した電子レンジ。女性らしい言葉をはっした。その第一声が、

『初めまして。このたびはロイド社製の電子レンジをご購入頂き、誠にありがとうございます。当電子レンジこと私は、お客様のご要望に臨機応変りんきおうへんな対応をするべく、人工知能を搭載してございます』

 との挨拶から始まり、

『さっそくですが、私に名前を付けてください。特に希望がないのであればロイドとなります』

 と名付けを頼まれた。

「ドラエも――」

却下きゃっかで』

――……。

「ドラ――」

『却下』

「や、最後まで聞けよ。ドラエ――」

『ロイドですね。登録しました』

 ロイド一択いったくだった。

『次に、お客様のお名前を登録します。ニックネームでも構いませんが、修理等へ出した際には識別データになりますので、お忘れの心配がない名前がよろしいかと思います』

「俺の名前は安藤――」

『ノビタですね』

「や、違う。安藤――」

『ノビタ。登録しました』

「おーい!?」

 安藤の名前はノビタになった。

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