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レベル70『静寂たる』サンデー2

 黒人の出る古い西部劇は、地味に結構多い。

 多いのは多いのだが、人種差別がどうたらとどうしても重いテーマになりやすく、ヒュー!パンパン撃つぜえ!悪人やられたぜえ!みたいな西部劇を期待している時は少し選ぶ必要がある。

 まぁ南北戦争前の開拓時代のアメリカなんて、黒人奴隷が畑を耕していた時代だから仕方ない所はあるんだろうけど。

 とはいえ時代が進むにつれ、「黒人とか白人とか関係なくカッコいい西部劇がやりたい」という映画も出てきていた。

 奴隷だった主人公がドイツ人の医者に買われ、人としての尊厳を取り戻していく、という有名な映画なんて割とたまらない。

 説教や温かい触れ合いで解決するのではなく、解放奴隷の強い男を演じさせる事によって人としてしっかりと立っていく姿はもう胸がドキドキである。

 ラスト前の、見た人は「ここがラストだな」と絶対に思うド派手なガンアクションは西部劇アクションの最高峰ではないだろうか。

 でも、その後がちょっとな、という感じだったので星一つマイナスです。

 いや、絶対にあれは終わったと思うよ。

 ド派手なバトルの後、まだあるの!?すごーい!と期待値上げさせられて焼き直しだったからなあ……。

 と、どうでもいい事を思い出していたのには、理由がある。


「ヘイ、お嬢ちゃん。こんな町を独りでうろうろしてちゃあ危ないぜ」


 めっちゃ似てる。

 黒人の主人公と、敵役の執事にめっちゃ似てる二人に、私は絡まれていた。

 執事の人のぎょろっとしたねちっとい感じが凄い好きだったが、話しかけられると本当に怖い。

 主人公によく似た人はがっしりとした体格に、金属製の鎧を着込んでいて、私のようなエセ戦士っぽい感じとは違い、いかにも戦士らしい戦士だ。

 もう一方の、細身でいかにも陰険そうな顔付きで、魔法使いらしく黒っぽいローブとねじくれた長い木の杖を握っている。

 呪いの魔法とか得意そう。


「この町は初めてかい?どうだい、宿取ってないなら案内するぜ」


「い、いいです……」


 この町は門らしい門もなく、警備している兵士の人もおらず、普通に出入りが出来た。

 歩く人々もどこかせかせかとしていて、今まで見る事のなかった馬車や、草食恐竜のような生き物に車を牽かせた竜車が走っている。

 舗装のされていない道は、常に砂ぼこりが舞い上がり、町に入った私は西部劇っぽい、と内心うきうきしていたのだ。

 人の住む町、というより、通り過ぎていく宿場町といった様子だ。

 そんな無意味に浮かれていた罰が当たったのか、町に入った途端に二人に絡まれてしまった。


「そんなに怯えないで安心してくれよ、お嬢ちゃん。俺らは怪しいモンじゃねえんだ。見てわかるだろ?」


 冒険者崩れのギャングか何かですよね。


「おい、ジョン。てめえのきたねえツラであんまり近付いてやるなよ。可哀相に……すげえプルプル震えてるじゃねえか。それに見てわかんねえよ、おめえ」


 どっちも怖いけど、どちらかと言えば私を庇うような事を言っている魔法使いっぽい人の方が怖い。

 上手に回すぺラで、私を変な所に売り飛ばしそうな陰湿さを感じる。


「嘘だろ。どっからどう見ても、宿屋の客引きだろ、俺」


「どっからどう見ても落ちぶれた冒険者崩れのギャングか何かの間違いだろ」


「マジかよ……本業は用心棒だから安心してくれよ、お嬢ちゃん。誰も客がいないから、暇潰しにこうやって宣伝してるってだけでな」


「マジだ、相棒。お前のツラは客引きなんて可愛いげのあるもんじゃねえ。せいぜいよくてポン引きだ」


「ジョークはよせよ、ツール。……やめよう、この話は。それよりお嬢ちゃん、この先にある小鳥の止り木亭って宿屋はお勧めだ。飯は不味い、親父は愛想がねえ、部屋も小ぎたねえ」


「アピールする所が本当にないぜ」


 この人達に着いていったら、えっちなお店で泡に沈む事になるに違いない。

 童貞で三十歳になれば魔法使いになれるように、私もそろそろハーフミレニアムで精霊魔法を使えるようになっている。

 だが、だからと言ってさすがにそんな感じで、花を散らすわけにはいかない。

 ここはびしっと言って逃げよう。

 なあに、レベルも上がって、更にステータスも上がってるんだ。

 私なら出来るさ。


「こ、な……い……で」


 無理だった。

 それどころか、私の身体は精神を裏切って、勝手に目に涙を溜め始める体たらくだ。

 普段通りの私過ぎる。


「お、おい、お嬢ちゃん!俺らはマジで怪しいモンじゃないから!」


「いや、どう考えても怪しいモンだろ、これ。だから、やめようって言ったんだ」


「そこまでだ」


 そんなぐだぐだとした中、その声は颯爽としていて、とても自然だった。

 まるで何度も何度も同じ演技をした俳優のように、とても言い慣れた言葉だ。

 しかも、イケメンだ。

 童顔に乗ったわずかな加齢の気配が、男の色気を醸し出していて、何とも格好いい。

 彼がちょっと囁くだけでメロメロになる女の人が、たくさん出てきそうだ。

 私はスクリーンの中でだけ、がいいんですけど。


「げえ!サンデーの旦那!」


「またお前らか。もう客引きはよせと言っただろう」


「このままじゃ、用心棒代払ってもらえるかもわかんねえんだよ、あの宿屋!俺らが頑張るしかないじゃないか!」


「ひっ!?」


 いきなり大声出されるの、本当に怖い。

 人間怖い。

 レベルとかステータスとかスキルがあっても、本当に無理だ。

 私はきっと根本的に人間に向いてないに違いない。

 もし、不死鳥に会ったら永遠に虫にしてもらうために、気に入られないように即座に斬りかかる。


「ほら、君達のせいでこんなに怯えてるじゃないか。早く散りなさい」


「く、くそっ!小鳥の止り木亭!小鳥の止り木亭を覚えてろよ!」


「もし、何かの間違いで来る事があったとしても、本当に飯は不味いから外で食べた方がいいぜ」


 どれだけ不味いんだろう……逆に気になってきた。


「あっ」


 二人が去っていくと同時に、ぷるぷる震えていた身体が限界を迎え、腰が抜けてしまった。

 とすん、と落ちる腰の下で、ドレスに咲いていた花が潰れる。


「大丈夫かい、君。もしよければ、うちで休んでいかないかい?」


 イエスともノーとも言えない私を、彼は優しく手を引いて家まで連れていってくれた。

 それが、私と彼ーー『静寂たる』サンデーとの出会いだった。

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