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4.創造主天城は忘れない


「ほっ、ほっ、ほっ…………ねえご主人?」


「なんだ?」


「良い天気だね」


「そうだな」



世界で最も速い国盗り(チュートリアル)を成し遂げた俺………というか俺の配下達。まずやるべきことは、反撃の号令を取らせないことである。幸いルシフェルの民忠が警戒に値しないもので、今こうして城下町から出る際も特に恨みの目線は向けられなかったように、処理はとても楽だった。王族の血を引く人間をできる限り聞き出して片っ端から首をはねさせ、兵士達は、勿体無いが武器と防具はくれてやり、全員解雇とした。数日も経てば街の治安は最悪になることだろうが、それはとりあえず問題ではない。


続いてやるべきことがある。それこそが、今現在ランと二人で国中を回っている目的である。すなわち、土地柄の把握と治世の下準備だ。



「次はもう少し先………あ、そこだ。その林を抜けたところ」


「あいあいっ」



手元の地図を見ながら、それぞれの土地の気候や作物を見ていく。ラブ達にも頼んではいるが、これから自分で統治する国だ、一度くらい見て回っても良いだろう。アイやジャックにはそれなりに止められたが、よっぽどでなければランのボディーガードは抜けまい。


次に訪れたのは、一面背の高い緑に覆われた、少し甘い香りのする畑だ。手入れが行き届いているのか、雑草が弱いのか、ひたすら単一種がずらっと並んでいる。



「こりゃなんだ………葉っぱか?食い物じゃ無さそうだが」

(この地域は海風により非常に温暖で、領地内でも相当雨が降る。よって、大麻の生産が主に行われている)



きちんとラブが耳元で囁く。自分で自分のことが解らない上、自分の知識がどの程度あるのかも把握できていない。どうやら植物の判定はできないらしいな。



「………一面大麻だな。他には何か?」

(前国王の極端な分業政策によるものと思われる)



大きく気候なり作物なりが変わるタイミングで、ラブの報告を受けつつ、地図に諸々の事項を書き込んでいく。いくつも書きたいことはあるが、この際城からの距離は度外視して、より多く作物を収穫できる組み合わせを吟味せねばならない。



「ご主人は何をしているの?」


「この畑を潰そうと頑張ってるのさ」


「潰しちゃうの?」


「全部じゃないけどね」



いくつか見回った限りでは、この国はかなりの貿易国だったことが窺える。大陸の二割、いや三割という広大な国土を持っているわりに、その大部分を商品作物で埋め、分業させる。恐らくだが、安価でそれらを買い取り外国に流していたのだろう。農民はその収益から食糧を購入する必要があったらしい。その証拠に、国内の至るところまで道がかなり高いレベルで舗装されている。輸送が盛んだったということだな。



「まだ領地は一国分。売るためのものなんざ作ってられるか。食うものがあればそれで良い」



もちろん、規模が大きくなれば金もいる。しかし、この現状だ。ゆくゆくは他国が必ず食糧を買い付けなければならない状態に持ち込む。食糧貿易だけでも国庫は潤うだろう。特に、西の隣国セラフィムはルシフェルの何十分の一かという狭い土地しかない。

今現在、大陸の食糧は、河に挟まれた南の隣国ミカエルがかなりの量を輸出している。特にルシフェルやセラフィムの依存度は非常に高く、前王政ではやや弱い立場にあったらしい。



「ラブ。セラフィムは宗教国家。食糧生産はそのほとんどを外に頼っている、そうだな?」

(そう。酷い領地では一切の食糧生産を行っていない)

「つまり、宗教の権威が無ければ滅亡一歩手前なわけだ」



ルシフェルにも国教があるんだろうが知ったことか。俺がいる限り宗教を盾になんてことはさせない。させないが、まあ食糧で宗教がある程度味方になるならそれでいい。



「たくさん作って食べきれるの?」



ランが俺を肩に乗せたまま、息一つ乱さず問い掛ける。彼女も含め配下達には申し訳無いが、あまりこの部分を追及するとろくなことがない。仲間が増えるのさ、なんて適当なことを言って誤魔化す。

というのも、国の運営において一番金がかかるのは、まず間違いなく軍の維持だろう。しかし、俺らの軍に比較的高価な銃器の類いは必要ないし、かかるコストは兵士種の武器と馬、あとは兵士種そのものの食い物の部分による。忠誠を誓わせている能力が有効な限りは、給料に相当するものを与える必要がない。俺の号令で全力が出せれば士気も関係無い。これはアイやラン、ラブにも同じことが言える。生活できる状態にさえしておけばそれで良いわけだ。



「どんな子を作るの?強い?」


「いや、しばらく戦闘向きの種族は作らないかな………」


「ちぇっ………私、退屈だよ」


「ジャックあたりと戦ったらどうだ。夜ならラブも強いぞ」

(無茶振りはやめてほしい。戦人種なんかと戦ったら死んでしまう。こいつはおかしい)

「そ、そうか………」



おかしいってお前。

他種族と同じ者に従う都合上、不仲だと困ったものだったが、酷いなあ、と笑うランを見る限り平気そうだ。どちらかと言えばラブの神経の図太さの方が気になる。自分で格上と認める相手に暴言を吐くかよ。


ともかく、地図には書き込んだので、またランに言って走り出す。一日あれば終わるだろうか。あまり長い間城を空けると面倒が起こったとき困るし、今日中に終わらせたいところである。




>>>>>



「ご主人?そろそろ前が見えなくなっちゃうよ?」


「あー………無理か」



無理だった。日は沈みかけ、もうすぐ光が無くなるだろう。道は舗装されているが、だからといって月明かりで歩くには危険が伴う。負けはしないが、この状態でもランが俺を十全に守れるかということだ。それに、俺はともかく彼女にはそれなりに食い物を与えなければ動けなくなる。燃費は悪くないが補給は大切だ。

既にランは走る気を無くし、暗がりの中をただ歩くだけになっている。ラブの声が途切れない限りは道には迷わないが、それでも、だろうな。



「ラブ。近くの街に一日滞在しよう。最寄りはどこだ」

(そこから南南東にまっすぐ)

「よし。ラン、そこまで頑張ってくれな」


「はーい」



少しスピードが上がったが、やはり昼間ほどではない。風を切るほどだった速さは、今や人類のダッシュ程度になっている。降りても良いが、ランから降りるとランに追い付けなくなるからな。このまま頑張ってもらおう。

ところで、さっきから何故か、霧が濃くなってきたような………?



「ラブ、この先に濃霧地帯でもあるのか?」

(調べたところではない。ルシフェル領内に、著しく人類が暮らしにくい場所はない)

「ならこれは………ラン、やっぱり降りる。周りを警戒しろ」


「りょーかい」



俺の前にはラン、直視は出来ないが背後にはラブの気配を感じる。まだ夜ではないが、視界はどんどん悪くなっている。濃霧の中でもラブはそれなりに戦えるだろう。もちろん、何も起きないことが一番だが………



「おい!動くな!」



厳しそうだな。



「………」



要求通り動きを止める。霧の中から俺たちに声をかけてきたのは、軽武装の男達。身なりはそれなりに整っているが、どうも統一感がないというか、装備品の古び方が微妙に違う。四人揃ってそうであるのを見るに、恐らく追い剥ぎか新手の物乞いか。いずれにせよ、第一声が「おい!」になる奴らなんてろくなものじゃないか。

男達は、素直に従う俺らに満足でもしているのか、手に持った短剣を向けつつさらに近付いてくる。リーダー格らしい普通のが一人、デカいのが二人、一歩下がって最後尾、明らかに形だけ、やる気なんてこれっぽっちも無さそうなチビが一人。



「よーし。そのまま動くなよ?………おい」



リーダー格の顎で指され、横の二人が俺らを囲んで物色し始める。残念なことに俺らは荷物など持っていない。数枚の金貨は俺もランも持っているがそれだけだ。単純に見るだけでは無一文も同じ。少し観察すると、それが解ったのか耳打ちに戻り、何だこいつらは、と言った失望の目を向けた。



「………やれ」

「………殺せ」



ほぼ同時に合図を飛ばす。刃を向けて大きく踏み出す二人に対し、ランが半歩だけ俺の前に出た。臨戦態勢の証すら出ないまま、突き出された刃を素手で握り込み、一滴も血を流さず粉々に砕く。そのことに驚く暇もなく、掌底が命を刈り取った。隙だらけの攻撃を好機ととったかもう一人が彼女の後ろから襲い掛かる。迷わず首元に刺し出せるあたり手練れではあるのだろうが、()()()()()()()()()()()


(不敬に、処罰を)


すとん、と足音が聞こえた。どさっ、と倒れる音がした。



「なんっ………!?」



自分には俺が来ると思っているのか、リーダー格の男は俺から目を離さない。残念ながら俺が行っても瞬殺だろう。姿の見えないラブを使うか、あまりのあっけなさにつまらなそうなランを使うか。残り二人なわけだし、一人ずつぶつけても、と思っていると、向こうが先に動いた。



「くそっ!おい、行け新入り!………ま、待て、お前……誰だ………?」



振り向いて指示を出すと同時に、男が動きを止めた。新入りと呼ばれた小柄な少年は、何も言わず何もせず、ただそこに立っている。男は何かを感じ取ったようで、こちらに後ずさる。一応ランを盾に立たせて様子を見ることにした。



「………そいつ、仲間じゃないのか?」


「ち、違う!この前入った新入りじゃねえ!て、てめえどこにやりやがった!ついさっきまでそこにいたんだッ!」


「………ラブ。一応作戦の可能性もある。こいつらの言う新人を探して―――」

「―――その新顔というのは、それは、こいつのことかの?」



少年がどこかから、枯れ木のような何かを取り出した。俺達の足元へ投げる。もはやそれが誰であったのか判別は出来ない。それは男も同じだろうが、その枯れ枝は男達と同じ装備をつけ、腰に同じ武器を差していた。



「なん………っ」



男も言葉を失う。つい今まで仲間だったらしき人間は、活気どころか水分と呼べるものをすべて失い、枯れ枝と朽ちた灰になっていた。地面のそれは少しずつ風化していき、濃霧の中に消えていく。



「そう悲観するでない。たかが悪党の同胞であろうが。どうあっても」


「てめっ………殺すッ!」



しばらくの間呆然としていた男だったが、我に返ると目にも留まらぬ勢いで剣を抜き、チビに切りかかる。リーダーらしく他の二人より少し速い。その男に、少年はさらにワンテンポ速く背を逸らし、揺り戻しに懐へ飛び込んだ。胸元ほどの少年に男は怯え、二撃を継げず獲物を取り落とす。



「どうした?よもや臆したわけではあるまいな?この私の言葉を遮ってなお、なぜ醜態を晒すことがある?」


「だ、誰だお前えええええええ!!!!!!!」



刃物はなく、乱暴に拳を振り回して少年を突き離そうとするも、彼はそれを避けつつ、決して距離を取ろうとはしない。超近距離を保ったまま不敵な笑みを浮かべ続ける。少しずつ発狂していく男を見て、愉しんでいるようにも見えた。



「こいつ………誰なんだ?」


「解らないけど……なんか強そうだよ」


「ラブ、どうだ」

(私にも解らない。敵意があるかも)

「面倒だ………!」



面倒だが、読心能力だけは作ってはならない。それはなんとなく思っていたことだ。お互いに、心を読んでろくなことはない。察するならともかく、全てを読み取るのはいけない。そんな思考をまさに読み取ったかのように、少年は俺を見て笑った。



「心配するな。いかに私でも親には従う」


「は………?」


「たとえそれが」



男の首が、体が、ただ左手一本で持ち上がる。少年は地面から浮き上がり、彼を吊ってなお顔色ひとつ変えないまま口元に手をやった。



「自分の眷属を過失に因り瀕死に追い込んでしまう、少し間抜けな親でもな」



まさに魔性と言うべきか、その仕草だけで胸が鳴った。猛烈な支配欲と、どうすれば可能かが本気で頭をよぎる独占欲。頭がクラっとなった。一歩下がったとき、恐らくラブであろう衝撃を貰って正気は保ったものの……こいつは男……いや男かどうかはまだ断定できないが、少なくとも男に見えるやつにこの感情は良くない。


さらに、どうやらこの感情は二人には無いらしい。男の首が折れる音を合図に、ランが少年に殴りかかる。不意打ち気味というか完全に不意打ちだ。綺麗に顔面に拳が叩き込まれ、話を聞けないまま死ぬのかと思った次の瞬間、ぴったり同じ攻撃でランが吹き飛ばされてきた。



「ぎゃん!?」


「うわっ」



勢いのままに俺ごと倒れ込む。ランだけがすぐに立ち上がり睨むが、すでに少年は目の前に迫ってきている。一つ思い当たったことがあった。再び拳を振り上げる構えを見て、咄嗟にランとの位置を入れ換えた。



「ご主人危……」

「…………やめろ」



俺の行動には逆らう力が入らないのか、いとも簡単に俺が前に出られた。少年を見たまま冷静を装って声を上げる。案の定、彼は、いや彼女は、俺に攻撃を当てることなく固まった。確信を得た。こいつはあのアレだ。俺がここで目覚めてから、初めて作り出し、致命的な失敗を犯して死なせてしまったと思っていた、あいつ。



「…………不死種だな、お前」


「………思い出したか、(キング)



不死種。特徴としては伝承上の吸血鬼のような存在だ。俺の持つ知識の範囲では、強大な力の引き換えに致命的な弱点を多く持つという、『生命の樹』に最適な実験台だった。その彼女を作ろうとしたのにも関わらず、屋外の昼間で、生まれた瞬間灰になって消えてしまったあわれな種族である。

戦闘力はランよりありそうだ。あとは、設定したものでは生命力も強かったはず。



「ああ、いや、悪かった。本当に気がつかなかったんだ。今も、あの日も」


「くっくっ。なに、怒ってなどおらん。私は貴様の眷属だ。なれば、私をどう扱おうと気に病むことはない。必要なら殺しても構わないのだぞ」


「………そんなわけないだろ」



一度産み出した種族にはそれなりに責任を感じている。生きていたのならきちんと食わせていかなければ………不死種って何を食べるんだよ。血か?いや、性質が似ているだけで吸血種ってわけでは………



「そら、もう光が無くなってしまうぞ。ここで考えている時間は無いのではないか?」


「あ、そうか。ラブ、案内してくれ。不死種、お前も来るか?」


「………やはり、お詫びはしてもらおうかの」



少し不機嫌にしてしまった。絶対服従があるとは言え良い関係は築いていきたかったのだけれど。どうやら何かを要求されて……



「不死種は私だけのはず。ならば、名を付けてもらおうか」



………そんなことかよ。残念だがそんなの詫びにはならない。なんせこいつは、俺が一番に作った種なんだから、そりゃあ名前だって最初から決めていたさ。



「クイーン。最初からそういう名前にしようと思ってた。一応、あるから」


「そうかい」



彼女は目を細めて、また不思議な笑みを浮かべる。二度見ても何も変わらない衝動に襲われたが、直後に彼女が背を向けたため何とか膝を付かずに済んだ。こいつ後で何とかしておかないと不味いな。比較的速やかに『生命の樹』に追記しておこう。



「………行くぞラブ」

(やはり名を付けられるのは名誉………私が先行種で最も優れているのは明らか)

(自惚れない方がいい。マスターはあなたも私も区別していない)

(その通り。私がラブである可能性も否定はできない)

(馬鹿な……流石にそんなポンコツであるはずが)

(夢を見過ぎ)

「………聞こえてるぞ馬鹿種族」



先行種の揉め事も何とかした方が良いんだろうか………ちゃんと指示を出せば、それには従ってくれるんだけどな。

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