3.創造主天城は躊躇わない
チュートリアルはボタン連打で終わるくらいが理想ですよね。
「えー、というわけで、だ」
「これより、ルシフェル王国を制圧し我が物とするための会議を開始致します」
わっ、と拍手が巻き起こる。エースが充電に入り、盛り上げはランが担当だ。というかランしかいない。始まりの拠点で三人で会議、これも最後にしたいな、できれば。
数時間前、全ての取引を終わらせ、俺はすぐさまランに乗り、日が上る前に帰ってきた。叩き起こされたおっさんの殺意すらこもった目は滑稽だったな。ただ、あの状態でも手続きは完遂する辺り有能ではあるのかもしれない。一方俺は思いきり迷惑行為をしただけである。
「まずはこれからの主役に登場してもらう。もう書き込んであるから………『生命の樹』」
結構眠い俺とアイ、閉じ込められている時に寝ていたので元気なラン。体力無い組は結構辛いな。
それはともかく、『生命の樹』を取り出して開く。会議の前に、新たに『兵士種』のページを追加しておいたものだ。もう念じれば生まれる段階に入っている。
「会議とは言ったが、正直ここのメンバーでやることはあんまりない。先行種と兵士種がいれば目標は達成できる。問題はその後だ。奪った後」
「はい!」
「はいラン」
「ランは難しいことは解らないから、戦わないなら寝てて良いですか!」
「いやそれは困る。仕事がないわけじゃないんだ」
ふくれ面のランを視界から外しつつ………ギャラリーは彼女だけなので外せなかった。とにかく触れないようにして、念じる。まずは一体。最初の一体とはすなわち種族のトップ。兵士種のトップ、名前はジャックだ。
「来い、兵士種ジャック」
言葉と共に、今いる拠点のダイニングルームの長辺側、すなわち俺の左側にしてランの向かい側に、どこかから飛来した光の粒が集まり始めた。『生命の樹』を出すときと同じように光が渦を巻き、少しずつ人間の形を為していく。ランが興味深そうに空を見ているが、実はアイよりランが先に作られているので、彼女がこれを見るのは三度目のはずなんだけどな。
光が強まり、粒は無くなり一つの塊となる。直立する光のシルエットが形成されると、光は弾けるようにそれから剥がれる。そして、人間の女性型、兵士種のジャックが立っていた。
「………此方に御座います、王。兵士種ジャック、参りました」
「彼女が『兵士種』。戦うための種族、その二だ。座ってくれジャック」
「はっ」
「また女性型?ラブちゃんもそうだよね?」
そりゃ仕方無いだろ。ランやアイを女性型にしちゃったんだから。
側近に近い役割のアイやランは、能力が同じならば性別はどうでもいい。ただ何となく女性型にしただけだ。俺も常に付き従うのが男ってのはそこまで気持ちの良いものじゃないしな。
一方、兵士として産み出したジャックを女性型に設定する必要は無いように見える。しかし実は一応考えてはいるのだ。
「配下のなかで男女の考えの違いやら性差の区別が起こっちゃ困る。それに、屈強な男の軍より華奢な女の軍の方が相手が油断してくれそうだ」
あと、忠誠を誓わせているとはいえ、下手に男にして野心なんて持たれても困るというのが本音だ。もちろん言葉にした部分も本気。そのためにランも見た目では細身にしてある。
しかし結構上手くいった。華奢にしようというのは割と決めていたことであり、ちゃんと思った通り、一見しただけでは戦闘種族とは思えない。デフォルトの格好がプレートアーマー装備でなければ、ランよりもアイに近い………いや、こっちの二人も別に大した違いはないか。
「ジャックには明日日が上ったタイミングで一気にルシフェルの城を直接攻め、そのまま落としてもらう。とはいえ破壊活動をしようっていうんじゃない。あくまで抵抗する軍と王族を逃がさず殺せばいい」
「敵兵力は如何程でしょうか?」
「200」
「200……200ですと?」
「ああ」
鉄面皮かと思われたジャックの精悍な顔が歪んだ。かくいう俺もラブの報告には驚いたもので、20万の兵力に対して城に付く常駐が200。当然、常備軍と傭兵の違いとか、城下町の面積もあるんだろうが、舐めているのかと。それも、常備軍の兵舎を目下から離して設置する徹底ぶり。もう攻めこんでくれと言っているようにしか見えない。
「それはそれは………随分と手薄と言いますか、慢心していると言いますか………」
「その通り。援軍も一日かかる。まあ同数いれば楽勝だろう。攻め落とすのはジャック、兵士種にすべて任せる」
「はい。全力を尽くします」
「その間に、だ。これはラブ達も調べきれなかったらしいんだが、国王軍の士気が正直言って未知数なんだな、これが」
(申し訳ない。実力不足で……)
(リーダーがサボっていた)
(サボっていない。役割分担はしたはず)
(役割がそもそも不公平だった。遠征中の兵数を一人に任せるのはどう考えてもおかしい)
(私もそう思う)
(………リーダーに逆らうならこちらにも考えがある。かかってくるといい)
(二人に敵うと思わないで。私達の能力は大して変わらない)
「悪い、耳元で言い争いをしないでくれるか」
全員がひそひそと耳元で囁くものだから、心臓に悪いというかなんというか。息遣いなんかが伝わってくすぐったい。
「たぶん大丈夫だとは思うが、一応エースに兵舎を爆撃させる」
士気の高い兵を放置して王を盗ると、場合によっては瞬時に謀反を起こされる可能性がある。もちろんそうならないようにするのは俺の腕次第ではあるが、バックに団体がいるわけでもなく、仲間が多いわけでもない俺がそれをするのは至難の技だ。
兵舎を攻め込むと個人的な恨みを買う。その代わりこちらへの対応が遅れ、傭兵に関してはそこで解散させられる。どちらをとるかは微妙なところだが、超高高度から撃たせるエースの爆撃を見抜ける奴はいないだろう。雷か何かだと思ってほしい……ところ。
若干エースの充電は心配だけど。
「では、我々は後ろを気にすることなく攻めれば良いと」
「まあ、この状況を見るに民衆が王を守りに来るとは思えないしな。そうだ」
「王の首を取った時点で勝利でよろしいでしょうか」
「ああ。すぐに移住するから俺が玉座に座るまでだ。俺も同行する」
とは言え、俺やアイにはランが付いているので護衛が必要ない。ジャック達がやるのはあくまで城攻め。役割分担は大切だ。
「ランには俺とアイの直近の護衛を頼む。相手は人類種だし、鎧を着て慢心している。ランの拳なら破れなくても撃破はできるだろうからな」
「りょーかいっ!」
「はい、良い返事」
あとやっておくことはあっただろうか……国取りの後のことまで話し合っておくべきだろうか?いや、最低限やることは決めているし、でも、相談しておいた方が良いような気も………
「王よ」
ジャックに声をかけられる。
「なんだ」
「僭越ながら………勝った後のことは勝った後にお考えください。時間が必要なら我々がいくらでも」
「………そうだな」
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大陸は晴れ。東からの風が気持ちよく吹く、収穫期前の暖かな季節だ。この晴れやかな日に、俺は一つの国を何となく滅ぼす。ルシフェルの広大な土地と、貯蔵してある資源、それに生活基盤が欲しいと言う理由で。失敗したら飢えるか配下を傭兵崩れにさせるかしかない。
それでも勝算はある。俺の右には………いや右は飛ばして、左には戦闘種族ラン。実戦経験は少ないが、額面上の強さは人類種では相手になるまい。
そして俺の後ろにはジャックが武器も持たず立っている。彼女もランには及ばないにしろ戦闘特化の種族である。そしてその強さは、これから行う作業一つで何十倍にもなる。
「みんな、良いか」
「いつでも」
「行けるよ………っ!」
「………だ、そうです」
「………そうか。エースは」
(位置についている。もう撃てるらしい)
ランが角を生やして準備、エースも大丈夫みたいだ。ならば良し。城門を臨む平野で、門番らしき兵士に手を振ってから、俺はランを目の前に連れてきてから、左手で肩を押さえ右手に『生命の樹』を発現させる。
兵士種のページには、ジャックに関する記述が書かれている。このページは念じれば複製できる。そして複製されたページを、俺は丁寧に破いていく。数ページ複製を繰り返し、数百を数えるほどの紙切れが足元に落ちた。
「来いっ!兵士種ッ!」
『生命の樹』を消す。どこかから突風が吹き、紙屑を俺の後ろへ一つ残らず運んでいった。直後、ジャックが声を張り上げる。俺はランの肩を押した。
「兵よ!我々はこれより攻撃を行う!我こそ王に名を賜りし同志、ジャック!第一、二、三小隊!私に続け!慢心した愚か者を討ち滅ぼすッ!」
「よし行け!ラン!」
俺を追い抜くように、綺麗に整列を決めた隊列が三つ、静かに真っ直ぐ走っていく。全ては紙屑が産み出した兵士種だ。産み出した直後なのにも関わらず、ジャックを先頭に一糸乱れぬ足音を響かせて動く。一つ小隊を残しているのは何かの意図があるんだろうか?
そしてそのさらに先を、鎧も身に付けず最速で、戦人種が走っていく。目標は門番。突如として出現した中隊に驚く彼らに、彼女は躊躇なく打撃を食らわせる。鎧は切断を防いでも打撃は防がない。蹴りの勢いのまま壁に叩きつけ、その金属の塊を相棒に投げ付ける。城門の上の兵士も関係無い。城壁に数ミリの隙間さえあれば、彼女はそこに指を突き刺し何十メートルでも掛け上がる。
高揚した体の勢いだけで、弓を持った兵士を二人、続けて引きずり下ろした。哀れ弓兵。照準に迷ったがために、一度も弓引くことなく倒れた。
「ラン、あるか!?」
「あるよ!」
「よし、門をぶっ壊したらそれを下に落とせ!」
「うん!」
身長の何倍もあろうかという城壁を一思いに飛び降りると、ランは閂を片手で引き抜いた。裏にもあるだろうものは無視して、門ごと破壊するかのように力で押す。後ろからは兵士種が走り込んでいる。手こずったのも数秒、門が開いたようだ。すぐさま上に戻り、今回唯一の武器を下に放り投げ、軍が見事に受け止めてみせた。
「行くぞアイ」
「はい。ご武運を」
「戦うのは俺じゃないさ………っと」
出来るだけ速く、二種族を追い掛けて走る。追い抜くことはもちろん出来ないが、追随して壊れた門から入り込む。一応俺も一つくらい拾っておこう。
「それにしても」
「うん?」
「よくもまあ都合よく投石用の石なんてあったものですね?」
「まあ、ラッキーってのもあるな」
街の中では既に一部交戦が始まっていた。とは言っても、向こうに統率はなく、はぐれて街でよろしくないことでもやっていた雑兵がこちらの軍に飲み込まれているにすぎない一方的なものだ。一部では早速役に立っている俺ら陣営唯一の武器とは、拳大の投石である。
今回は市街から城内ということで、近距離戦闘が基本となる。しかし、俺達には物資がなく近接武器は装備できない。とはいえ素手は少し不安だ。武器を奪っても良いが、鎧相手にわざわざ剣を選ぶこともない。顔面に石を投げ付けるのが一番簡単というわけだ。無ければ素手になっていたところなので、ルシフェルが持っていてくれて助かった。本当に都合よく進んでくれる国だなここは。
(エースが爆撃を開始した。混乱している)
「了解。別に目標は殲滅じゃないからな。適当にやったら帰ってこい」
(解った)
(リーダー、まるで自分の手柄のように言わないでほしい)
(その通り。実際確認したのは私)
(隊の戦果はリーダーの戦果、違う?)
(………やはりあなたはリーダーに相応しくない)
(かかってくるといい。私は名を貰った。負けるはずがない)
(私が勝って私がラブになる……絶対に)
(調子に乗らないでほしい)
なんだこの種族は。
「それにしても平和ですね」
「そうだな……おっ、おかえり、ラン」
「うん………疲れたぁ………」
「お疲れ」
諸々仕事をさせてしまったランが帰ってきた。いまだにこちらの軍勢はそれなりの速さで兵士だけを蹴散らしながら行軍中だ。歩きながら、口だけで見た目疲れていないランの頭を撫でつつ、逃げ惑う住人を見る。
予想通り、誰一人として抵抗しようとはしない。と言うのも、士気と統率が非常に高い兵士種は略奪や破壊行為を極力行わないのだ。それを見抜いたらしく、城に続く大通りから少し避けて、物陰からこちらを見ているだけ。反撃もしない。
彼らも別に君主がどうこう思っていないのかもしれない。あんまり不満があるならこちらに加勢してもおかしくないとは思っていたが、そこまでではなかったか。
「これからはただ歩いて向かえば良い。ラン、何かあったら頼むぞ」
「はーい」
舗装だけは一丁前にできている道をただ歩いていく。戦闘しながら進んでいる我が軍はそれよりも速く城へ向かっている。雑魚しか相手にしていないから当然だが、見た感じ犠牲者もいないみたいだ。結構結構。
その時。
「ご主人危ない!」
「うぇっ!?」
思い切り横から突き飛ばされた。兵士が壊していない街を俺が壊してしまう。この露店の主人はどこにいるんだ?謝った方がいいかな?いや良いか。身体のあちこちが痛むなか立ち上がると、ランが肩を振り切って、何かを投げたということだけ解った。
「……なんだよ?」
「ご主人に矢を射ったのがいたの!」
「……それで?」
「受け止めて、石と一緒に投げ返しました!」
受け止めたなら俺を突き飛ばす必要は無かったんじゃないだろうか。
そんなことは思ったがどうでも良い。ランはランで、ちゃんと言い付け通り俺を守ったわけだし。瓦礫をかき分けて二人のもとに戻り、再び歩き出す。もう中程まで来ていた。ちょくちょくいる倒れた兵士は武器を持っていない。持っていかれたんだろう。指揮を執るジャックが持っているんだろうか?ゆくゆくは飾りや象徴として一振り渡すのも良いかもしれない。
そういえば、兵士種も先行種も年功序列というか、生まれた順に上下関係を構築しているな。指揮系統がしっかりするのは構わないんだけど、先行種の会話を聞くと、どうやら俺が名前をつけたかつけていないかでも変わっているように感じる。これからは作った種族の最初の一人だけ名前をつける、みたいなことをした方が良いんだろうか。
「王!」
遥か先、城の方から一人の兵士種が走り込んできた。腰に剣を携えているが、それなりの立ち位置にいるのだろうか?彼女は俺たちの前に膝をつくと、顔だけ上げた。
「お味方が城内に突入致しました。王につきましては、私が案内と護衛を致します」
「いや、護衛は……」
「ご主人は私にその仕事をくれたの!邪魔しないでよ!」
「そうはいきません。戦人種の戦闘力は解らないでもないですが、あくまで単独戦闘力。護衛としての適性は私の方が優れているかと」
「むぐぐ………今ここでどっちが強いか試しても良いよ!」
「くっ………そ、そうやって力に訴えるのは卑怯なのでは!?」
戦人種は戦闘力の代償に、難しいことを考えられない、子供のような頭をしている。対して、兵士種は連携をとる必要性から、ある程度の精神は成熟しているんだけれども、やはり強いので、言い争いをしているのを聞くと同レベルに感じる。我関せずとそっぽを向くアイが、この中では一番頭が良いことになるな。
「揉めるな。ランがいれば護衛はいらない。弓の狙撃を受け止める奴だぞ。単独の兵士種じゃ敵わないさ」
「し、しかし………」
「案内は頼む。兵士種の強みは俺も知ってるつもりだ。最も戦闘から離れたコースを選んで安全に連れていけ。これは王の命令だ」
「は、命令とあらば………」
兵士種に言うことを聞かせるためとはいえ、自分で王と言うのはえらく恥ずかしい。今の俺は王でもなんでもないわけで、なんなら住所すら割と不定に近い無職である。
とは言えこの数分後、本当に何をすることもなく、ランも活躍の場がなく、何も危なくなることなく俺は王となっていた。玉座に座り兵士とメイドを侍らせる姿を見ながら死んでいったルシフェルの王は、一体何を考えていたのか。不思議と、それを考える気すら起きなかった。




