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1.創造主天城は戦わない


朝、というのはどの世界のどの国のどの立場の人間でも憂鬱な時間だろう。

一日の始まりは清々しくあるべきだが、まあ仕事なり学校なりが始まるのだから気持ちのいい奴はいない……特に俺みたいな根本的に学校を目標にできない奴はなおさらだ。


ただ、ただだ。

今の俺はそうでもなくなった。今日は、体に走る衝撃で目を覚ました。少しずつ目を開けると、そこには丈の短いエプロンドレスを着た黒髪の少女がいる。俺の腹に馬乗りになって、何かを期待するかのように星のような目で見下ろしている。

体のほとんどは思春期相当の肉体年齢に相応だが、そこから発揮される膂力の代償か、とても重い。動きやすさを目指した結果の起伏の少ない体と短髪、それに精神年齢がやや幼めの、本当の意味で戦い守るためだけに産まれてきた少女だ。



「………おはよう、ラン」


「おはようございますっ、ご主人!」



………というより、俺が産み出してしまった種族だ。




>>>>




「………で、ランは何をしてるんだ?」


「えへへ、どっちがご主人を起こすかってアイと競争になったの!」


「………ほどほどにな」



彼女は『戦人種』のラン。

人類の近縁で、見た目は人類種と変わりない。しかし、生まれつき主を一人定め、死ぬまで忠誠を尽くすという理不尽とも言える本能と、人類を遥かに越えた物理戦闘能力を持つ戦闘種族である。

彼女の、というか戦人種は単一種族で彼女しか存在しないが、その彼女の主は当然俺。もちろんだ。

俺が、俺のために作り出したものなんだから。


どういうことか。説明すると長くなる。

『生命の樹』、というものがある。聖書か何かにある、知恵の樹とともにエデンに植えられている大木のことだ。

また、地球に存在する生命の系譜を表すのにも同じ表現を用いる場合がある。前者は神が言い出し、生命を司り、永遠の命を与える。後者は人間が言い出し、進化を表し、種族が増えるごとに成長するものだ。

そんななか、俺に突然与えられるようになった特異な能力が、まさにその二つの『生命の樹』に関するものだった。


あの日、突然この森にポツンと俺は立っていた。

自分の名前すら解らず、数分前まで何をしていたかも思い出せない。あの日確かに俺は全てを失ったと言える。

恐らくは『拠点』として用意されたこの森の中の小さめの洋館のベッドで、枕元には一通の手紙。書かれていたのは俺の名前と、能力の使い方、この世界のこと、そして一つの命令。

こんな不親切で実践的なチュートリアルもなかなか無いとキレかけたが、何とか落ち着いて受け入れることにした。実際、何となく産み出してみた『不死種』……吸血鬼が、生まれた瞬間消滅するというなんとも可哀想な目にあったからだ。それに、雑に放り出されたのはともかく、能力を与えられたのは幸運とも言えた。



それから七日。俺はとりあえず生きている。誰からかも解らない命令一つを達成する、それだけを当面の生きる目的としながら。



「ねえご主人?」


「どうした?」


「今日は何するの?」


「今日は………流石に動かないとな………」



もう一人、単一種族として作り出したのが量産したジーンズとパーカーに着替え、部屋を出る。ランも少し下がって着いてきた。彼女は俺を主と慕い、忠誠を誓うようにできている。種族としてそうやって設定されているわけだ。もちろん、人格はあるわけだからあんまり乱暴に扱うわけにはいかないが。


この七日間、俺は何もしていなかった。と言うか、何も出来なかった。

というのも、そもそも俺の能力が『召喚師』に近いというのがある。すなわち、他の種族を従えていなければ何も出来ないのだ。これに関しては、俺の知る人間よりも弱体化している。それはもう、大きめのタンスをずらすことすら出来なくなったし、逆立ちすら苦痛になった。強化無しはともかく弱体化は理不尽じゃないのか。


すると、何か行動を起こすのには種族を作り出す必要がある。しかし、作り出されるのは生物であるから、性格があり、得意不得意を設定しなければならず、エネルギー源が必要になる、



「じゃあ、そろそろお腹いっぱい食べてもいいのっ!?」


「………ああ、頑張るよ」



ということである。どうして俺は妹くらいの年齢(に見える)少女にこんなことを言わせているんだ。

とにかく、三日前に建てたフラグを回収できるギリギリが今日であり、それが成功すれば恐らくは纏まった金が手に入る。世知辛いもので、都合よく拠点に金が置いてあったりはしなかった。あっても俺には価値が伝わらないのだけど。



「ところで、ランが起こしに来たってことは、アイがどこかに………あっ」



もう一つの単一種族。正確には三種類作り出したがもう一つは置いておいて、現行活動している片割れ。『人間種』。


人間というのは社会性を持った人類種という意味であり、生物学においてはヒト、もしくは人類と言うのはご存じだろうか。もちろん、その高い知能を使って社会的行動を起こすのが人類の特徴ではあるのだが、それは生存手段であり、じゃあ群れなければ死ぬのかと言われるとそういうわけではない。

が、この『人間種』は死ぬ。前提として他人と関わるための種族であるから、三日も会話をしない状態が続けば本当に衰弱していくだろう。精神的な話ではなく、本当に肉体の衰えが始まるのだ。

そういったデメリットに加え、運動能力は俺よりも低い。文字通り箸………は流石に言い過ぎとしても、調理器具より重いものは持てない。腕相撲でもしてみれば、文字通り赤子の手を捻るように勝てる。持久力も乏しく、素早い動きを続けることはできない。


そんなポンコツ種族が今、俺の目の前で廊下に倒れ伏しているわけだ。メイド服が汚れるだろ、立て。



「………これは?」


「勝ったの!」


「………そっかー………」



誉めて誉めて、と視線で訴えられたので、ちょっと雑だが頭を撫でてあげた。ランは楽しかったんだろうが、アイはどことなく魂が抜けるほど消耗している。轢かれた蛙か。


このポンコツ種族、もちろん本当にポンコツというわけではない。むしろ逆だ。そういったひ弱さか弱さを全て補って余りあるメリットを、この種族は持つ。



「おはようございます、ご主人様。申し訳無いのですが、助け起こして頂けませんか?」


「自分で起き上がることすら億劫なのか……」



と言いつつ、抱き起こすのも一苦労だ。折れそうなほど細いが、お互い力が無さすぎる。途中からランに手伝ってもらって、やっとのことで助け起こした。



「朝食が出来ましたので伺おうと思っていたのですが……」


「競争なんてするなよ。怪我でもしたら危ないだろ」


「いえ、後ろからランに追い抜かれて、風で……」


「ええ………」



こいつ、人間種は、とてつもなく高精度の学習能力と語学力がある。語学力なんて生まれつき身に付くものでもないだろうとは俺も思う。しかし、この七日で彼女と語彙力でトラブルになったことはない。それに、俺達三人のなかでは唯一、ここの現地人と会話ができる。そう、アイが着いていなければ俺は満足に会話すらできなかった。どうも言葉が違うらしい。

手先が器用なのもあり、一日街に放ったところ家事を完璧に覚えてきた。本人の力はないが大工の真似事までできる。特化させようと思うとここまでピーキーな性能になるのだ。



「本当気を付けろよ。ランも、家のなかで走るな。ランだけじゃなく俺も死ぬ」


「はーいっ!」



こいつ、本当に解ってるのか。

戦人種はやや知能に劣る。まあ人間より少し下、幼児程度というだけだ。知能パラメータはある程度までは上げやすい。アイみたいに飛び抜けるためには色々犠牲にしなければいけないが、ランくらいならば戦闘能力との両立が一応可能だ。彼女は彼女で指示されても掃除の一つもできないが。




>>>>



「えー、今日から本格的に動こうと思いまーす」


「やったーっ!」


「わー……」



ランが二秒で仕留めた動物の肉と、死ぬほど苦労して探した食用植物を食べつつ、俺はそう宣言した。同じように食べているランが盛り上げる。アイも食料に余裕がないので食卓についているが、まるで存在意義でも否定されたかのごとく落ち込んでいて、盛り上げが雑だな。



「まずはこの後だ。この間作った機械種の活動を再開させて、そのエネルギーが切れる前に街の向こうまで行き、奴を捕まえる」



恐らく覚えていないランには、アイが似顔絵を見せている。いかにもというほどではないが、納得はできてしまう悪い顔と鋭い目付き。近年この森の最寄街を騒がせている、連続殺人犯らしい。格闘能力もさることながら、魔法の名手らしく、警備団も手を焼いているとのこと。

ということで、多額の懸賞金がかけられている。罪状と捕獲難易度、さらに国家権力である警備団すら捕まえられなかったということを加味して、割と笑えない額が掛けられている。



「こいつを捕まえることができれば当面の食料に余裕ができる。目の前の飢えさえ乗り切れれば、農耕や漁特化の種族を作って自給自足を目指せるはずだ。そうでなくても、何をするにも金と食料は必須だからな」


「その、捕まえ方については………」


「ああ、そのことだが、まあ………」



アイがおずおずと手を挙げた。相手が魔法の名手であること、近接格闘にも優れること。一見無理ゲーに見えるこの戦いにも打開策は一応ある。すなわち、



「上から銃火器で吹っ飛ばして、出てきたところをランが叩く。これだ」


「それは………どうなんでしょう。作戦というにはお粗末というか、粗が目立ちますが………」



苦笑いを受けている。まあ解る。解るが、こちらは誰も魔法が使えない(一応ランが使えないことはない)状態である以上、どうしても単純戦闘をするわけにはいかない。であれば、隠れ家ごと吹き飛ばすのが最有力になるだろう。



「あまり時間がない。最速でやる必要がある。いつまでもこんな生活続けてられるか。それにだ。相手は人類種、一対一にしてしまえばランが勝てるはずだ。だろ?」


「うんっ!任せてよご主人!」



俺に戦術眼はない。アイにもない。ランもその時々の咄嗟の判断しかできない。だから勝ち確の方法を誰より早く選ぶことが重要だ。そこは解ってもらえたようで、それ以上アイは何も言わず、笑顔で食べ終わった皿を回収していった。



「よし………行くぞ。機械種を起動させる」




>>>>




洋館は二階建てで、二階は個室しかない。しかし、一応だが屋根裏というか、二階と三階の間が存在する。そしてそこには、天窓があり、日中常に光が当たる箇所が生まれる。そこに彼女は眠っていた。

体の基本的な部分は生体パーツ、すなわち皮膚細胞として生きている。しかし、眼や臓器、それから細部はメカ、金属の機械でできている。半分人間、半分機械の種族が彼女、『機械種』のエース。目標への足掛かりとなる戦闘種族だ。全裸であるためより違いが解りやすい。



「起きろエース。チャージはどうだ」



声をかける。家電か何かに近い電子機械音が鳴り、仰向けのまま口を動かす。



『残量、98%。起動可能兵器、100%。機能全てを使用した場合、3000秒間戦闘続行です』


「結構動けるのな」



表情が変わらないまま淡々と話す、というのは存外気持ちのいいものではないが、彼女のそれには神秘的な美しさがあった。聞くのは二度目の、周囲に響き渡るような声の出し方には慣れないが。ランがびっくりして二階に落ちたぞ。



「よし。起動だ。戦いに行くぞエース」


『了解。起動中です。完了まで15秒』



肩に開いている穴から、コードプラグが生えてきて、体に巻き付くように展開して足首までを覆う。背中のユニットが器用に体を起こし、腰から伸びるコードを尻尾のように使って立ち上がった。

一挙手一投足に機械駆動音がすることを除けば、非常に滑らかな動きだ。左目だけメカという歪な目も、こうも真っ直ぐ向けられれば照れるな。



「着いてこい」


『はい』


「ラン?大丈夫か?」


「大丈夫~………痛た………」



脳天から落下したらしいランを引きずって下へ戻っていく。抱き抱えたいところだが、俺の腕力じゃ不可能なので妥協点。服が汚れるが、エースの電力は温存せにゃならん。太陽光発電って効率悪いんだな。



「準備はどうだ、アイ」


「はい。私は問題ありません」


「ラン」


「だいじょーぶですっ!」


「エース」


『命令のままに』


「よし」



もとより俺に準備はない。エースを起こし大まかな作戦を立てた時点で俺の仕事は終わりだ。

あとは二人が何とかしてくれるのを祈りつつ、アイと一緒にひたすら逃げる。これだ。まあ一応指示くらいはするけど。




>>>>




「全っ然見えねえ」


『エース目標確認。目視できます』


「アイです。何にも見えません」


「こちらランっ!見えてるよっ」



ポンコツと戦闘種族の差がよく解る会話だ。いや、普通の奴と壊れキャラの違いと言うべきか。

潜伏している連続殺人犯は、何をどう避けようとしたのか、郊外にある一軒家に住んでいる、というところまで調べがついている。住居までバレておきながら捕まっていないあたり、本当に厄介な奴なんだなと思った。



「作戦通り行くぞ。失敗したら即撤退。深追いするな」


『仰せのままに』



さて、現状確認だ。これより、俺ら四人パーティーは、連続殺人犯の討伐に向かう。ちなみに討伐の名の通り、生死は問わない。もちろんうちの陣営が殺したと解る必要があるので、エースに殺されては困るが。

その拠点へ向かうのに、俺らは三人でランに担がれている。エースの電力は十分温存出来ていることだろう。ランの体力が心配だったが、全く苦に思っていなさそうだ。俺とアイを足せば100kgは楽々越える。機械の体であるエースはさらに重い。こいつすげーな。

エース達が視認してから数分後、ひた走るランの左肩で、やっと俺も標的が見えた。ボロ屋だ。いやボロ屋は失礼だな。あばら屋とかか。同じか?とにかく、本当に人が住んでいるのか疑問に思ってしまうような民家………民家があった。



「見えてきた………けど、本当にあれか?まだ亡霊が住んでいるって言われた方が納得できるぞ」


『魔力反応があり、生体反応も見られます。個体識別は不可ですが、霊体やそれに準ずる存在ではありません。すなわち』


「待て。俺が悪かった」


「魔法避けの結界魔法のため、小さな家の方が都合が良いのでしょう、ご主人様。思った通りですね」


「ああ」


「なになに?何の話?」


「ランにはちゃんと頑張ってもらわなきゃって話だ」


「おーっ!」


「ゆ、揺らさないでください!落ちます!落ちます!」



バランスを崩したポンコツその二だが、この作戦の最も重要な部分を予測したのは彼女だ。曰く、住み処まで割れていて捕まらないのは、ひとえに強力な結界を張っているから、らしい。

魔法避けで遠距離からの狙撃を防ぎ、人避けで一定以上警備団を近寄らせない。なるほど完璧だ。しかし弱点は当然ある。



「惜しむなよエース。全火力をもって貫け」


『了解』



それは、うちのエースが使う『火力』が、そもそも魔法ではないということ。そして、魔法避けは魔法避けであって攻撃を防ぐものではないということだ。アイによれば魔法避けならば直接転移や盗聴も防げるらしいが、銃火器には勝てまい。

この世界には銃火器がある、あるが、魔法があるのにそんなアナログが発展するだろうか。ただ速いだけの鉛玉や火薬より、強力な魔法を一発撃てばいいという話だ。範囲も威力も違う。弾切れも暴発もない。そんな劣等手段で何とかしようなんて思ってやしないだろう。俺だってそうだ。火器に近接で挑もう!なんてなるわけがない。

すなわち、最適解エースで引きずり出して、ランの戦闘力に賭ける。よし。完璧ではないが悪くもない。これで良いさ。



「ご主人様、私にも見えました」


「よし。ラン、ストップ。降ろしてくれ」



アイが見える、すなわちかなり近いところまで走ってきたところで止まる。突破口はなくとも監視はしているらしく、銀色を身に纏った兵士隊が彷徨いている。赤いローブで顔まで隠しているのは魔法警備隊だ。

ちょくちょくいる違う格好の奴らは俺達と同じ目的だろう。まあまだ気付いていないらしいけど。



「ご主人様」


「ああ。有名になるのはともかく騒ぎになるのは困る。さっさとやっちまうか。エース、GO」


『了解。兵装開放、飛行ユニット起動。第二種戦闘を開始します』



ランが乱暴に降ろしたせいで俯せに倒れるエースがまた駆動音を鳴らして、全身のコードで蜘蛛のように立ち上がりながら背中から白銀の翼を広げる。光の粒子が体を包み、腕、足、肩とあらゆる部分から銃口が飛び出てくる。

閉じた目を開き、その機械の目がボロ屋を捉える。一瞬深呼吸をするかのようにゆっくり顔を上げて、次の瞬間にはとてつもない勢いで空へ飛び出していった。

木々が揺れ、周りの人間達が何事かとこっちを見る。騒ぎ出しても俺には解らないからごめんな。苦情はアイが受け付けるけど俺には伝わらないから止めとけな。



「ランも準備」


「オッケー!」



力を溜め、両腕を垂らして前傾気味に構える。無意識に溢れ出る魔法力が渦を巻いて、ランの姿を隠す陽炎として土や落ち葉を巻き込んだ上昇気流を起こす。心なしか上気して煙すら見えてきた。

そして前髪が巻き上がり、戦人種が持つらしい最大の特徴、眉の上あたりから生える親指ほどのツノが露となった。



「ラン。奴は恐らく、出てきてすぐエースを撃ち落とそうとするはずだ。それだけは止めろ。こっちの対応が遅れると横取りされるから急げ。あとは任せる。殺すなよ」


「解った………っ!」



興奮を抑えているのか声が低い。目が充血して、明らかに俺を見ていない。『生命の樹』による種族作成では、パロメータやステータス、最低限持っていてほしい性質を指定することはできるが、それ以外に関しては勝手に決まるし、あんまり指定しすぎたり強くしすぎるとデメリットを背負って生まれてくる。

だから……まあ、忠誠を誓う性質上平気だとは思うが、ランがこのまま暴走する可能性は否定できない。



「アイ。周りに向けて釘を刺してくれるか。死にたくなければ近付くな、と」


「はい」



俺には解らない言葉でアイが叫ぶ。同時に恐らくブーイング的な意味合いであろう抗議の声が上がってきた。二人してそれらは徹底的に無視。そんなもんに構ってられるか。従うかは半々か。まあ良いや。忠告したという事実が大切なんだ。



「位置についたかエース」


『はい。いつでも』


「ランは………大丈夫そうだな」



呟くだけで、エースは聞き取って返事を帰してくる。使っている言葉が俺達陣営にしか解らないというのは今思えば結構便利だな。これからもこうしよう。空中のカラクリも隣のじゃじゃ馬も準備はできている。不本意だが俺とアイも逃げる準備はできている。万端だ。俺は右手を挙げた。



「エース………攻撃、始めッ!」


『兵装起動。撃ちます』



俺の振り降ろしと同時に、空中のエースがマズルフラッシュに包まれる。目視できるほどの圧倒的物量で弾丸が撃ち込まれ始めた。なるほど、よく見ると家の少し上で火花が散っているように見える。あれが結界か。一応多少は弾かれているようだ。が、焼け石に何とやら、何もかもをかき消す銃声と、家屋が破壊される木の音。これは死んだか………?

撃ち始めて数秒。エースは一瞬止まる。と同時に、弾けるようにボロ屋の扉が開き、一人の男が転がり出てきた。こちらの魔法警備隊と同じような、顔まで隠すローブ。怯んではいるようだったが、全く諦めず、上空のエースを発見して右手をかざした。



『魔法感知。撤退します』


「お疲れエース!ラン、ここだ!」


「うんっ!」



右手から何を出そうとしていたのか、それが解る前に、ランが横から飛び出して蹴りを入れた。建物に吹き飛ばされ、爆風で辛うじて残っていたボロ屋はほぼ破壊されてしまった。もはや建物ではない。中が見える。追いかけたランが頭を掴んで床だった場所に叩きつけていた。



「あはっ」



男も抵抗している。解放されると同時に正確にランの顔面を狙った打撃を繰り出すが、ことごとく避けられ、カウンターだけが一方的に男を捉える。きっと闇雲では無いのだろう。俺なら一撃目で倒れていた自信がある。しかし、彼女はいたって当然のことのように捌く。



「なんっ………だこいつ!」



男の焦りが増える。攻撃にも炎が混ざり始めた。俺の周りのやつらが驚いている。なるほど、魔法と格闘を同時に行うのは凄いことなのか。よく解らないし、相変わらずランには効いていないので解る必要も無いんだろうけど。



「やっぱり強いな、ランは」


「ええ……戦人種とはかような種族ですか。恐ろしいです」


「一応言っとくと仲間だからな」


「存じております」



彼女が敵に回る想像もしたくない。まあ空中でふわふわと待機しているエースにも同じことが言えるが、知らんうちに撃ち抜かれるのとタコ殴りにされるとでは天と地の差がある。ランの場合はさらに惨い。強いことは強いが、打撃は軽めで、一度の接触で素早く大量に攻撃を加えるのだ。

なんて話している間に、決着が近い。俺は指示しかしていないオート戦闘では、男の攻撃の手が完全に止まり、防戦一方というか、あれはまともな防戦ですらない。ただ本能で頭をガードしているだけ、そんな状況だ。

ランはそんなことを気にせず攻撃を続ける。産み出してから数日、戦うための種族に戦わせなかったからだろうか、あえて手加減して長引かせているようにも見えた。しかしそういうのはいらないし、無駄に疲れてほしくないので呼び掛ける。



「ラーン」


「………っっっ!!!な、にっ!?」



声を聞いて、攻撃が止まる。別に寸止めまですることはなかったんだけど。ともかくこちらを睨むような目線が怖いので、早いとこ指示を出して、って、あいつ俺の方に走ってきてない?



「クソがっ!」


「待て待て待て待て待て!ラン!気絶させろ!落とせ!」


「ご主人に手を出すなぁっ!!」



ランを余計に止めてしまったばっかりに、男が俺を指揮官と認識してこちらへ走り出した。控えめに言っても酷いミスだ。もし生き残れたら次は気を付けよう。生き残れたら、だが。

そして顔面に衝撃が走る。最後に見たのは、ギリギリで男の肩に手をかけたランと、この世の終わりのような目をしているアイだった。

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