エルフス帝国
エルフス帝国
マナ教の消滅により、それまでの秩序が突然失われた世界は魔術の持つ力に翻弄されながら新たな秩序を模索することになる。中世中期の始まりだ。
そしてその新たな秩序を決定したものは、やはり魔術だった。魔術に長けた国、人ほど強者である――その新たな秩序の中で生まれた思想が「種族主義」だ。
エルフ族は高い魔力保有量を示し、ドワーフ族は土魔術に特異な親和性を示し――といった、現在では常識となっている種族ごとの魔術特性が発見されたのはこの時期だった。
エルフ族はその魔力保有量を背景とした軍事力により大陸を席巻し、やがて大陸全土に領土を広げるエルフス帝国を築き上げる。そして同時に、エルフ族を頂点とした魔術特性に因るヒエラルキーが作られた。
エルフス帝国は魔術信仰を掲げる標準派を国教にすえ、エルフ族の魔力保有量を背景とする軍事力と、極端な魔術礼賛主義により国内の統治をおこなった。エルフ族の下で、各地でばらばらに行われていた魔術は統合・体系化され、五属性分類法としてまとめ上げられた。これが魔術研究の基盤となり、現在まで形を変えつつも残っている。
魔術史上において大きな意義を持つエルフス帝国だが、エルフ族以外の魔術の使用禁止など、他種族蔑視の政策が民衆の不満を生み、すぐに崩壊することになる。
魔術一辺倒の戦術は、例えば魔力を切らした後はなすすべがないなど、非常にもろいものであった。魔術の威力の衝撃によりエルフス帝国は覇権を握ることが出来たが、それはこけおどしのようなものだった。やがて冷静な分析が行われるとエルフ族の軍事的優位はすぐに揺らいでいくことになる。
軍事面での魔術は、従来の戦術とどう組み合わせるかの段階に来た。
有名なのは持ち前の膂力と身体強化魔術を組み合わせたリザード族だ。彼らは小さな独立国家を作ると、驚くべき速さでその領土を拡大し始めた。そして各地の反乱を抑えきれず、大幅に領土を縮小していたエルフス帝国と激突した。エルフス帝国は遠距離からの魔術攻撃を徹底し、どうにか彼らの攻撃を食い止めることに成功したが、さらに領土を失うことになった。