”魔力抽出技術”とは何か
世界を変えた魔力抽出技術
現代の人類史観では、魔力抽出技術の発明から始まり第二次ヒトノ=エルフス戦争の終結をもって完結する、"魔術革命"とよばれる一連の魔術技術の発展を境にし、中世と近世を区別している。
一方で魔術史観においては、中世と近世の境界を、”魔術革命”という曖昧なものにはおかず、明確に”魔力抽出技術の開発”という一点に置いている。
その理由は後に解説することにしよう。今ここで言いたいのは、人類史・魔術史どちらの史観に基づくにしろ、”魔力抽出技術”というファクターが歴史に決定的な轍を残したという点である。
魔力抽出技術とは
「これなしに歴史を語ることはできない」とも言われる魔力抽出技術の概要を、まるで知らないという者はいないだろう。しかしこれだけ重要な技術の定義を明確にすることなしに、著を進めることなどできない。
そこで一度、改めて”魔力抽出技術”とは何なのかを簡潔に明示したいと思う。
あらかじめ断っておくが、この本は大学で使用するような学術書ではない。技術の概要についての説明は後々行うが、具体的な抽出方法についての説明は避けて通りたいと思う。
さて、”魔力抽出技術”というのは、物質からそれに含有されている魔力を取り出し、”魔力結晶”と呼ばれる純魔力を作り出す技術のことである。
どうしてこの技術がそれほど重要とされているのかというと、もはや言うまでもないことだが、その理由はこの”魔力結晶”にある。
”魔力結晶”というのは、人類が魔力を回復するための手段の一つである。
これ以外の方法で魔力を回復しようとすれば、しっかりと食事と睡眠をとり、時間経過による回復を待つ他無い。その際、個人差はあるが、完全に回復するまではまる一日ほどの時間を要する。
ありとあらゆる行為に魔力が必要とされているーーともいわれる現代社会は、この魔力結晶なしには成り立たないだろう。
事実上魔力が無尽蔵に扱えるようになったことを意味するこの”魔力結晶”は、日常生活の中に魔道具を普及させたという効果にばかり目を向けられがちである。
しかしながらこの技術が最も人類史に貢献した点は、魔術研究の発展にあるのである。むしろ魔道具の普及などというのは、その副次的な影響に過ぎないのだ。