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魔術とは何なのか

マグノリア古戦場跡


 魔術の神秘性の喪失。その象徴として第一に上げられるこの地を、知らぬという人はいないだろう。

 第二次ヒトノ=エルフス戦争の決戦の地となったここは、史上初の魔力消滅弾の投下地として選ばれ、また同時に"神秘の城"の墜落という決定的事件の舞台となった場所だ。

 百年の時をかけ、ようやく空間含有魔力量が基準値まで回復したというニュースを耳にし、私はこの古戦場跡へと足を運ぶことを決めた。

 魔術史を専攻している者でありながら、ここを訪れたことがないというのはなかなか奇妙なことなのかもしれない。しかし私は長年、どうもこの地を訪れることに恐怖とも言えるものを感じていた。

 古戦場跡にもっとも近い転移所はマグノリア転移所だが、教都から一足で転移してしまうのはいささか情緒に欠ける。私はアルト転移所まで転移し、そこからは車で三十分ほどかけて古戦場跡へ移動することにしていた。

 アルト転移所に降り立ってから手配した車が来るまで、近くのパブへ立ち寄ってみると、昼間から酒を飲んでいた老人に話しかけられた。「あんた、マグノリアに行くのか?」顔が髭に埋もれているようなその老人は、驚いた私の顔を見てにやりと笑い続けた。「この町に来る理由なんてそれしかねぇからな。昨日もあんたと同じことを考えるやつがここで酒を飲んでったよ」

 この町アルトは、マグノリアにもっとも近い町であるという点以外はとくに特筆することのない、エルフスに多く存在する普通の町だ。しかし私と同じようなこと、つまりここを一旦経由してマグノリアまで移動しようと思いつく者は案外多いようで、そういう観光客を相手にした送迎サービスなどもあるらしい。

「でも、土産屋をやったライクはセンスがねぇな。見ろ、店を開いて一年もしないのに潰れかけてやがる」

 老人の指差す先には、埃っぽいガラスの内側に小さなオブジェをずらり並べた店があった。「開店中」とドアにかかったプレートは雨で掠れ、何とも言えぬ寂寥感が漂っている。

「どうして土産屋はダメなんだ?」

「マグノリアに行ってみりゃ分かる。こんなところまで戻ってくる元気が出ねえのさ」

 それはいったいどういうことなのかと聞いてみたかったが、手配した車がやってくるのが見えたので、カウンターに小銭を置き私は店を出ることにした。



車に揺られて


 古戦場跡に着くためには、マグノリア平原を囲むように生い茂る"暗黒の森"を抜けなければならない。

 マグノリア会戦の後、タブーとなったマグノリア平原に近づく者などなく、放置された結果出来た森だ。現在でも人の手が入っているのは今通っている国道と、その周辺に限られている。

 薄暗い森を抜けると、一面に広がる草原が私を向かい入れた。

 それは爽やかな光景だと、表現することも可能かもしれない。しかし平原のあちらこちらに突き刺さっている巨岩の意味を理解しているものからは、「爽やか」などという言葉が出てくることは無いだろう。

 風に身を任せ揺れる草達は、私たちに何も語らない。この地に起きた悲劇も、その悲劇が起きるまでの人々と魔術の織りなした歴史の軌跡も。

 歴史を作り出すのはいつだって人類だった。無論、この人類というのは人族と、エルフ族と、そしてドワーフ族、リザード族……等々、すべての知的生命体を含む。繰り返しになるが、歴史を作るのは人類だ。

 そして人類と魔術というのは切っても切れぬ関係にある。つまり歴史と魔術は密接な関係にあるのだ。

 人類の進歩とは、魔術の進歩である。現代の共通認識となったこの歴史観からすれば、魔力消滅弾というのは人類史を否定するに等しい凶行である。

 しかし魔力消滅弾が開発される一〇〇年前は、ようやく魔力抽出技術が確立されたに過ぎなかった。魔術の規格化が行われたのは、魔力消滅弾の開発されるわずか五年前である。

 魔術技術が急速に確立されていった背景を、”戦争”の二文字を抜かして説明することなどできない。否、魔術技術は戦争のために確立されたといっても過言ではない。

 戦争のために作られた魔術技術がこのような結果を招いたのは、至極当然の結果なのである。魔術の急速な成長の結果、最強の兵器としてすべての魔術を無効化する「魔力消滅弾」という存在が登場したのは、人類史上の最大の皮肉とも言えるかもしれない。

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