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後編

 私は、ピリンを上から下まで舐めるように眺めた。なるほど、流石あの二人が認めただけのことはあって、十分は魔力を持っているようである。これなら私もピリンを女王の候補者として認めることができる。だが、この少女にその覚悟はあるのだろうか。人間たちが女王の正体が天使だと知らないにしても、これまでただの人間が女王になった前例はない。果たしてこの少女は、運命と割り切って女王の役割を果たしてくれるだろうか。天界は、それを許してくれるだろうか。候補者が見つかっても、色々と不安はあった。


「春の女王がこの世界を去ったことは聞いているかしら?」


 ピリンは、黙って頷いた。


「ピリン、貴女に春の女王になって欲しいの」


 私は、ピリンの目を見て、ゆっくりと語りかけた。ピリンはその問いかけに驚いた様子であった。当然の反応と言えるだろう。


「私は、今まで小さな農村でお母さんと二人で暮らしてきただけの、魔法も使えないただの女の子です。そんな私が春の女王様になれるはずがありません」


「そうね。貴女はそう思うかもしれないわね」


 私は言葉を選びながら、優しくピリンに話しかけた。


「貴女は、シエラとサリエン、夏の女王と秋の女王に会って来たのでしょう?」


「はい。二人の女王様に会って、この光る石を貰いました。そしてよくわからないまま、夏の女王様にこの塔に案内されました」


「その石はね、彼女たちが、貴女に魔法の才能があると認めた証なの。春の女王になれるかもしれないということなのよ。だから、夏の女王はこの塔に登ることを許したのよ。私も貴女には魔法の才能があると思うわ」


「本当ですか?」


 ピリンは半信半疑といった様子だった。春の女王がいないこの世界は、もうすぐ滅ぶ運命にあると教えればピリンは間違いなく春の女王となろうとするだろう。だが、ピリンの選択肢を奪うようなことをして無理に春の女王となっても、女王としての責任を果たせないかもしれない。もし、ピリンが拒否をすればその時は強硬姿勢に出るしかないのかもしれないが、自分の意志で女王となることを選んで欲しい。私は、そう願っていた。


「貴女に春の女王となる覚悟があるのなら、この石を受け取りなさい」


 私は、ピリンに光る青い小石を差し出した。ピリンは、悩んで動くことすらしなかったが、暫くして小石を受け取った。少女が覚悟を決めた瞬間であった。


 春の女王となることを決意したピリンを前に、私は次なる問題にどう取り組むべきかを考えた。彼女に、宝玉に魔力を込める方法を教えなければならないのである。これは、一朝一夕で教えられるようなものではない。少なくとも数ヶ月はかかると思われた。実は方法が一つだけあるのだが、それは――。


 私がそんなことを考えていると、突然三つの石が宝石のように輝き出し、ピリンに光が降り注いだ。光の中から現れたのは、頭の上に光の輪を浮かべ、妖精のような透き通った羽根を持つ姿となった少女であった。私も実際に見るのは初めてであるが、人間が神に祝福されて天使となった瞬間である。


「私は、何をすべきかがわかりました」


 天使となったピリンは、何かを悟ったかのようだった。宝玉の前に足を運び、両手をかざすと魔力を注ぎ込んだ。


「大地よ、芽吹け! 花々よ咲き誇れ!」


 今まで冬に調整された魔力を受けて青白く光っていた宝玉は、ピリンの魔力に反応して、若草色に輝き始めた。宝玉が春への変更を受理したということである。この世界の様々なところで、春に向けた変化が始まったことであろう。私の頬を一筋の雫が流れ落ちた。


 この変化を察知したシエラとサリエンも季節の塔へと飛んできた。そこにいる全員、笑顔が綻んでいた。


「まさか、この子が祝福を受けることになるとは思いもしませんでしたわ!!」


「シエラ、嬉しいのは分かるけど、炎の羽はしまって頂戴。ピリンも驚いているじゃない」


「祝福を受けたということは、ピリンが春の女王となることを神が認めたということなのです。幻界王も、この世界を存続させざるを得なくなったのです」


 サリエンは表情こそ表に出さなったが、背中にある黄色い蝶のような羽を嬉しそうにピョコピョコと動かしていた。


「そうね。顔も知らないけど、幻界王にはざまあみろと言ってやりたい気分ね」


 はるか天上の存在である幻界王に対し、どさくさに紛れて飛んでもないことを口走っていた。


「あの……フィズ様」


 ピリンは、まだおどおどとした様子で、遠慮がちに切り出した。


「フィズでいいわよ。これから長い付き合いになるんだから、遠慮はなしよ」


「わたくしのことも、シエラでいいですわ!」


「自分のことも、サリエンでいいのです」


「ありがとうございます。私は、暫くの間この塔を離れることが出来なくなりました。家に病気のお母さんを残してきてしまったので、お世話をお願いしたいのです」


「お安い御用よ。病気によっては、私で直せるかもしれないし」


「そう言えば、人間の王が、春にしたら褒美出すと言っていたはずなのです」


「そうでしたわ!わたくし、人よりも沢山ふんだくる自信がありましてよ!」


 自らが春の女王となった者に、王からの褒美を受け取る権利があるのか疑問が残るところだが、私たちは王から多額の褒美を受け取ることに成功した。


 その資金を活用して、ピリンの母親はすぐに快方へと向かった。また、これまで食べる物にも困っていた村での生活の質も格段に向上した。なお、ピリンの村は、春の女王の出身地として神聖視されるようになったため、少なからずその他の村人たちもその恩恵を受けることができたようである。


 幸せな未来――それがこれからピリンに訪れることを、私は願ってやまなかった。


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