中編
私たち三人の女王は、このままでは終わらせまいと必死になった。適正者を人間の中から探せばよいと考えたのである。姑息な手段ではあるが背に腹は代えられない。たとえ苦労の末に適正者を探し出したとしても、天界から格上の天使が派遣されてくれば、即座にゲームオーバーである。それでも私たちは、一筋の希望にすがる思いで適正者を探すことにした。とは言っても私は、宝玉に魔力を注ぎ込むと疲れて動けなくなってしまう。しかも、冬の適正者は私しかいないため、疲れても交替することはできない。春の適正者の探求は、専らシエラとサリエンの仕事となったのである。
冬も四ヶ月目の半ばを過ぎると、人間たちもようやくその異変に気付きだした。人間の王は、多くの兵士を動員したり、お触れを出したりして季節を春に変えさせようとした。春にできる者がいないというのに、何をどうしろというのだろうか。事情が分かっている側から見れば、何とも滑稽な話だった。私がいる通称「季節の塔」に辿り着き、中にいる私に合う程度の能力があるのであれば、事情を説明してやらないわけではない。
そもそもこの季節の塔の麓に入口は存在せず、実は宙に浮いた状態で建っている。この塔は魔法による幻覚により、常に霧や吹雪で塔の下の方を隠されているため、普通の人間には想像することすらできないだろう。また、かなりの魔力耐性が無い限り、塔に近づこうとしてもいつの間か引き返してしまうことになる。このため、異変が起きて多くの人間が押し寄せたにも関わらず、誰一人として塔に近づけた人間はいなかった。
シエラとサリエンは、世界中を飛び回り、高名な魔法使いに会って適性を見極めてきた。私たちは、魔法の能力がある者を直感的に見分けることができる。長年繊細な魔力操作を仕事としてきた賜物である。ただし、それは魔力を持っているか否かの判定であり、春の女王の適性があるとは限らない。女王の候補者であるためには、少なくとも両名が有能だと思えることが最低条件となっていた。
しかし、人間の間で有能ともてはやされる魔法使いであっても、二人がそろって太鼓判を押す者は全く見つからなかった。女王の適正者となる魔力を持つ者は、人間からも一定の確率で生まれる可能性があるが、それはとてつもなく低いものである。この星は、一度人類が滅びかけており、その際に文明も大きく衰退したため、それほど多くの人口を維持できていない現状にある。最悪の場合、全人類の適性を確認したとしても、候補者がみつからないこともあり得る。私たちは、祈るような気持ちで毎日を過ごした。
それでも、女王の候補者は見つからなかった。
「もう、人間に事情を話して全員鑑定するしかありませんわ!」
「シエラ、火事になるから羽はしまってくれるかしら」
「人間を集めている時間はないのです。そもそも、目立つことはできないのです」
焦る気持ちとは裏腹に、候補者すら見つからないまま、時間は過ぎていった。
冬が始まって六ヶ月が経とうとしていた。私の疲労もかなり蓄積してきたが、この世界はそれよりも早く限界を迎えようとしていた。一度生態系のバランスが崩れると、気候が戻っただけでは回復できないようになってしまう。この世界は、そのデッドラインを越えようとしていた。シエラは、今も候補者を探しているようだが、サリエンは一ヶ月も前に探しに行くことを諦めてしまっていた。
「もうどうしようもないのかしら」
まだ希望はあると自分を奮い立たせているが、このような言葉が勝手に出てくるとなると、私も無意識のうちに現実を受け入れているのかもしれない。次第にそんな思いが強くなっていった。
そして、とうとう七ヶ月目の冬の朝を迎えることになった。いつものように宝玉に魔力を注ぎ込むと、脱力感に襲われる。私は、ふらつきながら革張りの椅子に身を沈めた。明日はやってくるのだろうか。ここ数日はそんなことを考えるようになっていた。
目を閉じて、疲れを癒していくとコツコツと誰かが塔の階段を上ってくる音が聞こえた。飛べるのにわざわざ二本の足で階段を上ってくるのは、シエラだけである。この塔に来るということは、ついにシエラも諦めてしまったのだろうか。そんなことを考えながら、私は足音の主がこの部屋に辿り着くのを待った。
「あの」
聞きなれない声がした。私は驚いて目を開き、後ろを振り返った。そこには十歳ぐらいの女の子がいた。女の子は、光る赤と黄色の小石を首からぶら下げていた。それは、シエラとサリエンが魔法の能力があると認めた証である。女の子は、ピリンと名乗った。