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前編

 私の名前はフィズ。人間たちは私のことを冬の女王と呼んでいるが、実は天使である。私の任務は、冬の三ヶ月間、世界の維持に必要な魔力を供給することである。


 太古の昔、この星に住んでいた人間たちは、太陽を壊して一度滅びかけたのだが、この世界を管理する幻界王の気まぐれで細々と存続されることになった。幻界王は、この星に四人の天使を配置して管理することにしたのだ。この星の人間は、四人の天使のことを「季節を司る女王」と呼んでいる。


 本物の太陽がないこの星は、熱を供給しなければマイナス200度以下の極寒の星となってしまう。私たちは、この星の維持管理に必要なエネルギーを供給しているのである。特に、冬の女王と呼ばれる私は、人間から世界を冷やしていると思われているようだがとんでもない。むしろ盛大に温めて人間が住める気温を維持しているというのに心外な話である。


 代々「女王」は交代しながらも、任務に就いた天使たちは、長い間季節は巡らせてきたのであった。


 ところが、事件は秋も深まったある日、突然起こった。春の女王イールが私を訪ねて来たのだが、彼女を見て自分自身の目を疑った。私は悪魔を見分けることが出来る破邪眼を持っているのだが、その眼はイールが悪魔だと告げたのである。


 緑がかったブロンドに翡翠のような瞳、妖精を模した四枚の透き通った羽根――イールの姿、形に何ら変化はない。破邪眼を持っていない者であれば、いつもどおり彼女に接することになっただろう。イールは私と歳も近かったため、「女王」としての付き合いも長く、友人以上の関係である。できることであれば、破邪眼の方がおかしいと信じたかった。


 天使が生み出されたのは、神が創造したこの世界から悪魔を排除するためである。今はそのほかにも様々な任務が派生しているが、第一の目的に変わりはない。悪魔は消去デリートされるもの――それはイールも例外ではないのである。


 イールの表情を見ると悲しみに満ちていた。自分が悪魔になってしまったことを理解しているようだった。


 幸か不幸か、私は悪魔を消去デリートする第一(専門)部隊に所属したことがないため、彼女を消去デリートする術を持たなかった。天使は、死んでも復活する能力があるため、単に生命機能を停止させても無意味なのである。


「あたしは、この地を離れることにしたわ。一度は天使らしく抵抗しないで消されることも考えたけど……。今日は貴女にお別れを言いに来たの。今までありがとう」


 イールは涙をこぼしながらも、私に笑って見せた。誰がこんな不幸を望んだのだろう。私は、初めて神を恨んだ。自然と私の両眼からも雫が流れ落ちたのであった。悪魔を見逃すとは、天使失格であるが、私は友人としてイールを見送ることにした。


 聞くところによると、イールは他の女王のところにも現れたらしい。二人とも彼女を消去デリートすることはしなかった。イールがどこへ向かったかは知らないが、何の所縁もない格上の天使に出会えば、問答無用で抹殺されてしまうことは明らかだ。私たちは彼女が少しでも長く存在して(生きて)くれることを願った。


 だが、問題はそれだけでは終わらなかった。イールがいなくなってしまったため、天界で春の女王の後任を選任していたところ、幻界王が待ったをかけたのである。どうやら、私たち三人の女王がイールを見逃したことが気に入らなかったらしい。


「消せよ。そんな惑星ほし


 神が作った世界は数多とあるらしいが、幻界はその中でも一際大きい世界の一つであり、その世界の王たる幻界王は、天界の王でもある大天使長よりも強い力を持っていた。気まぐれで存続が許されたこの星は、同じ気まぐれによって滅びようとしていたのである。


「気まぐれで世界を滅ぼすなんて愚行が許されるはずがありませんわ!」


 夏の女王であるシエラは、苛立った声を上げた。背中にある紅蓮の炎の翼は、シエラの感情の高ぶりに反応して、大きく燃え上がった。


「一度、愚かな民が原因で滅びかけた惑星ですから仕方ないのです。春に調節できる者が現れない限り、この世界は自動的に滅びるのです」


 秋の女王であるサリエンは、普段から表情があまり表に出ないが、今回ばかりは諦めの表情が読み取れた。


 私たち女王は、世界の維持のために季節の水晶玉と呼ばれる宝玉に魔力を注いでいるが、それには生態系を考慮した繊細な調節の技術が必要となる。つまり、逆に言えば春の条件に調節できる者、夏の条件に調節できる者……(以下略)……がそれぞれいればなんとかなるということでもある。


 実は、私は冬以外にも夏に調節する適性があるのだが、夏に調節する能力はシエラが持っているため、私は冬の女王としての役割の方を担っているのである。残念なことに、春に適した調節能力は、イールしか持ち合わせていなかった。このため、天界が後任を探さなくなった今、この世界は春を迎えることが出来なくなったということである。


 さらに不幸だったのは、この事態が判明したのが、私が担当する冬を迎えてからであったことである。宝玉は一日でも魔力の注入を怠るとその機能を失ってしまう。過去の記録によれば、これまでに何度か不幸な事故で宝玉が壊れたことがあったらしいが、天界の力ですぐに修復され大事に至ったことはこれまでにない。しかし、天界が見放した今、そんなことは全く期待できない。つまり、この世界は、春の女王の適正者が生まれない限り、永遠に冬が続く世界となってしまったのである。


 冬は、多くの生命にとって厳しい季節であり、このままでは放っておいても世界は滅びる運命にある。それがわかっていても、私は宝玉に魔力を込め続けるしかなかった。


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