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その者、音に聞く益荒男の如き乙女なり。  作者: ぶるどっく
第四章 城塞都市と交錯する数多の想い。

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再会を果たすは黄金の少女 後編。


 寝台に横になっている一人の黄金の髪の少女を見詰める二人の人影がある。


 その二人は既に退室した初老の医師の“頭部を含む、身体上に問題は無い”という言葉を聴き、困惑した表情を浮かべていた。


「……医師の言葉で有る以上、身体的な側面に異常は無いと言うことになる。

 だが……それではこの言動に説明が付くまい……身体的ではないと言うことは、何かに取り憑かれているのではあるまいか……?」


「おそらく、若くして命を落とした深層の令嬢のような霊が取り憑いているのかもしれませぬ。

 そうであれば、突然変異のように言動が一変したことにも説明が付きます。

 早速、腕の良い祈祷師(きとうし)か、神父の手配を……」


 心底困ったように相談する二人の目の前で横になっていた黄金の髪の少女の瞳が勢いよくカッと見開き、布団を跳ね飛ばす勢いで身体を飛び起こす。 


「愚かだった私の不徳の致す所とは言え……その言い方はあんまりではありませんか、お父様っっ!

 わたしはっ、私は悪霊になど断じて取り憑かれてはおりませんっっ!!」


 二人の会話を遮り、ふるふると身体を震わせ、涙眼になった黄金の髪の少女、ノエルの年頃の令嬢らしからぬ叫び声が屋敷に木霊するのだった。



※※※※※※※※※※



 城塞都市エルネオアの中心部にある一際目を引く貴族の屋敷の一室。


 己の父親の命で、護衛の騎士に強制的に寝台へと運ばれ、布団の中へと詰め込まれてしまったノエルの叫びに、多少は動揺した様子で二人は視線を泳がせてしまう。


「い、いや……しかし、いつもの頭のネジを一、二本何処かに落としたとしか思えないノエルが、真っ当なことを言っているなど有り得ぬではないか……。

 ……そなたもそう思わぬか、レイよ。」


「……御意。」


 ノエルの父であり、領主であるオスニエル・グラン・エルンスターは動揺と困惑が入り交じった表情を浮かべて己の護衛へと声を掛ける。 


 主の命に従い医師の手配をした後に、何処も怪我などしていない、と主張するノエルを抱え上げて寝台へと運んだオスニエルの護衛、レイフォード・シュバルツも動揺を押し殺して無表情に諾と答えた。


「……実の父親にまでこのように言われてしまうなんて……本当に私って……あうぅぅ……」


 父親にまで真っ当なことを言っていることを心配されてしまう過去の自分自身の言動に、ノエルはがっくりと項垂れてしまう。


「……エッケルハルトにレイの息子が成長して帰って来たとは聞いていたが、ノエルも成長して帰って来てくれたのだな。」


 今までのノエルとは違い、感情に任せて自身が正しいのだと主張するのではなく、過去を省みた上で反省しようとする姿勢を見せたことにオスニエルは眼を細める。


「今までのノエルならば、自分は悪くないのだと、正しいことをしようとして失敗しただけなのだと、まずは言い訳を並べ立てていたからな。」


「はうあっ?!」


 しみじみと呟かれた父親であるオスニエルの言葉に、ノエルは衝撃を受けたようにビクリと身体を震わせた。


「……過去の所行を思い返せば、思い返すほどにすでに(あき)れられているとは思いますし、今更何を言っているのだと思われるやもしれません……。

 まだ全てのことをちゃんと振り返って、悪かった部分を理解出来ているとは思ってはおりません。

 ですが、お父様や家庭教師の皆様が私を正しい方向へと導こうとして下さっていたのに、その手を振り払うような真似をしてきたことを、やっと思い知ることが出来ました。」


 寝台の上で姿勢を正し、ぎゅうっと強く両手を握り締めてノエルは真っ直ぐにオスニエルを見詰めながら言葉を発する。


「私は沢山の方々に身勝手な振る舞いをして迷惑を掛けてしまいました。

 ……その上に、今回の件です。 私自身に命の危険が及ぶのは自業自得とは言え、オスカーを巻き込み、お父様が止めて下さらなかったら、元は護るべき民であった兵達すらも巻き込んでいたかもしれません。」


 己の愚かさに唇を噛みしめ、込み上げてきそうになる涙を泣く資格など無いのだと耐えながら、ノエルは言葉を紡ぎ続けた。


「謝った程度のことで許して頂けるとは思っておりません。

 今までのことを含めて、己のしてしまったことを父親としてではなく、領主であるオスニエル様にきちんと裁いて頂く所存です。

 ……本当に申し訳ありませんでした。」


 真剣な眼差しで、涙を流すことすら卑怯だと言わんばかりの表情で、反省の意を示す(ノエル)の姿にオスニエルの胸に熱いものが込み上げてくる。


「……長かった……本当に、長かったな。

 だが、もう少しで良い……もう少し早く、せめてそなたが街を飛び出す前に気が付いていてくれたならば……。」


 涙が流れぬように天上へと顔を向けたオスニエルは、それでも流れ落ちようとする涙を見せないためにノエルへと背を向けた。


「ノエル・リア・エルンスター、そなたには謹慎を命じる。

 今後のそなたの身の振り方に関しては、後日改めて沙汰を申し渡す。」


「はい、オスニエル様。」


 己へと背を向け、目元へと手を当てる父親の背中へとノエルは深々と頭を下げる。


「……今はゆっくりと休みなさい、ノエル。」


「…………。」


 頬に流れる熱い雫を見られたくはないのか、オスニエルは頭を下げるノエルへと振り返ることはなく部屋より退室し、その背中に護衛であるレイフォードも続くのだった。


「……お父様……ごめんなさい……」


 オスニエルとレイフォードが退室し、部屋の扉が閉まった音が聞こえてから頭を上げたノエルは、耐えていた涙を流し小さな謝罪の言葉を口にする。


「……ひっく……ふ、うぅっ……もっ……と、もっと早くに出会っていれば……よかっ……あ……!」


 顔を両手で覆いながら涙を流し、小さく謝罪の言葉を繰り返していたノエル。


 しかし、その言葉の途中で忘れてはいけない人物達のことを思い出したノエルは顔から血の気が引いていく。


「ひゅみゅあっっ?!

 はわわわ……ど、どうしましょうっ?! お父様にお伝えするのを忘れてましたっ!

 い、今すぐ追いかければお父様に追いつけるで……あにゃっ?!

 わ、私……謹慎の身に……き、謹慎とは部屋から出ても良いものなのでしょうか……?」


 動揺して変な悲鳴を上げるノエルは謹慎というものは部屋を出て良いかすら分からず、挙動不審な様子で動き回り始める。


「あうぅぅっっ! ご、ごめんなさいっ!! アンジェさぁぁぁぁんっっ!!!」


 暫くしてから爺やがノエルの様子を確認するために部屋へと訪れるまでの間、ノエルはどうすれば良いのか分からず部屋の中をグルグルと動き回り続けていたのだった。




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