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その者、音に聞く益荒男の如き乙女なり。  作者: ぶるどっく
第四章 城塞都市と交錯する数多の想い。

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地下に響くは数多の悲鳴。


 ぴちょん、ぴちょん……と、水滴の垂れる音が何処からともなく聞こえてくる地下牢。


 幾つかの鉄格子で遮られた牢屋が、じめじめとした空気が充満する空間に並んでいる。


 その複数有る牢屋の中には大小様々な罪を犯した罪人達が収容されており、一目で無頼の者と分かる出で立ちの者や、そんな輩に怯えて身体を小さくしている者がいた。


 牢屋の中という小さな世界の中でも侮られまいと、己の地位を確立しようと啀み合うことも度々ある輩達の目の前に一筋の光が差し込んでくる。


「ひょっひょっひょっ! 取り敢えず、ここでオスニエル様の沙汰が下るまで待っていて貰おうかのう。」


 それは、年に似合わぬ重厚な鎧甲を身に纏った老騎士、エッケルハルト・アクス・カーレルスマイアーが率いる何でも屋部隊こと“カーレルスマイアー部隊”が外の世界に通じる扉を開けた時に差し込んだ太陽の光だった。


「……新参者か。」


「ふん! なら、ここでの礼儀って奴を叩き込んでやらなきゃなんねーな。」


「ひひっ! タコ殴りにしてやろうぜ!!」


 牢屋に収容されていた罪人達にざわめきが走る。


 新たにやって来た囚人に対して、この地下牢という小さな世界での上下関係を最初の内に叩き込もうという魂胆であった。


「……おい、エッケルハルトのじーさん。 此処は、地下牢だと思うんだが?」


 エッケルハルトの後に続いて現れた黒髪の青年、オスカーは頬を引き攣らせる。


「そうじゃの、地下牢じゃ!」


 頬を引き攣らせて周囲を見渡し、項垂れるオスカーに対してエッケルハルトはエッヘン、と胸を張って答えた。


「胸を張って答える内容じゃないだろう! あくまで保護する目的で有って……」


「五月蠅いわっ、小童(こわっぱ)っっ!! 儂がまるで何も考えていないとでも思っとるのかっっ!!!」


 ちゃんと考えておるわっっ!!!、と嗄れた声で唾を飛ばしながら叫ぶエッケルハルト。


「まったく! 最近の若いのは失礼じゃわいっ!! 儂には何時だってちゃーんと考えがあるんじゃっ!! 儂が若い頃は、人生の先輩とも言える方々にはちゃーんと敬意を払い、礼節を持って対応していたというに!!」


「あんたの場合、大概が行き当たりばったりだろうっっ!!

 うちのクソ爺から、あんたは“一番槍は貰ったっ!”と叫んで敵軍へ突っ込む猪武者で、曲がった根性の上官を殴り飛ばすような奴で大変だったって聞いてるぞ!!!」


 大声でやれやれといった様子で愚痴るエッケルハルトに対して、額に青筋を浮かべたオスカーがビシリと指さしながら反論する。


「うぐっっ?!……ふ、ふんっ! 昔のことを持ちだしおってからにっ!」


 ケツの青い小童の分際でっ!、といきり立つエッケルハルトと、瞳に剣呑な光を宿し始めたオスカーの間で火花が散り、そんな二人をどうやって止めればいいのか分からない何でも屋部隊と呼ばれる者達は右往左往してしまう。


「……おいおい……ご老公さんも、オスカーもそんくらいにしとけ。 二人とも、頭から湯気が出ちまうぜ。」


 薄暗く湿った地下牢に男性にしては高めの、しかし女性にしては低めの声が木霊する。


「「小童が(エッケルハルトのじーさん)が悪いんじゃ(だ)っっ!!!」」


『?!』


 その声の持ち主へと一斉に視線が向き、エッケルハルトとオスカーの声が重なり、何でも屋部隊の面々が肩をビクリと震わせた。


 未だにその声の持ち主の姿が見えていない囚人達は、何でも屋部隊のビクビクとした姿に首を傾げてしまう。


「……わかったから、あんまり叫ぶんじゃねえよ。」


『っっ?!』


 頭に響いて五月蠅いから静かにしろと、囚人達の視界にも映る位置までゆっくりと姿を現した声の持ち主。


 その姿を目にした囚人達が息を呑み、背筋に冷たい物が走り凍り付いていく。


「俺も牢屋に入るなんてごめんだからよ、落ち着いて話し合おうぜ。」


 太陽の光が中々届かない薄暗い地下牢にある揺らめく松明の炎が、その何処からどう見ても凶悪な魔王とも言えないことはないアンジェの顔面を下側から照らし出す。


「「「いっぎゃあぁぁぁあぁぁっっ!!!!」」」


「「「ひぎっ?! くっ、喰われるぅぅぅぅっっ!!!」」」


 揺らめく炎の明かりにより、普段以上に陰影の濃くなったその顔面。


 虚勢を張るだけの小物だけでなく、それなりに肝の据わっているはずの無頼の輩達の心胆すらも怯えさてしまった、その顔面。


 叫ぶと同時に鼻水や涙などありとあらゆる液体で顔面を汚し、必死な形相で我先にと狭い檻の中で逃げ惑う囚人達。


 なかには救いを求めるように神へと必死に祈りを捧げる者や、少しでも安全な場所を求めて他者を蹴落とそうとする者、他人の背中に隠れようとする者、心の中の優しく両手を広げる母親に助けを求める者……。


『……………』


 あまりな囚人達の惨状にアンジェ以外の者達の生温い、そして何処か憐れみの籠もった視線がアンジェへと降り注ぐ。


「……俺が何をした…………終いにゃ泣くぞ……」


 相変わらずとも言えなくはない他者の反応に、アンジェは一人力なく項垂れてしまうのだった。



※※※※※※※※※※



 脳裏に思い出していたノエルの姿と、己が牢屋へと入れられることになった経緯を、色鮮やかに思い出せたアンジェは精神的に疲れた様子で座り込む。


「……ひでえ話しだよなあ……俺が落ち込んでいる間に、牢屋に閉じ込めやがったんだからよ……。」


 あまりの囚人達の怯えっぷりに、囚人達が入っている手前の牢屋から一番遠い奥まった位置にある牢屋へと落ち込んでいる間に収監されてしまったアンジェ。


「……力不足ですまん……だが、すぐに誤解が解けて……いや、解けると良いよな?」


「牢屋にぶち込まれてる本人に聞いてどうするんだよ。」


 視線を泳がせ、歯切れの悪いオスカーの言葉にジトッとした眼差しを送ってしまったアンジェは大きなため息を付く。


「アンジェさん、元気を出して下さいっすよ。 ほら、僕も一緒っすからアンジェさんは一人じゃ有りやせんよ。」


「……ありがとーよ、ランス……」


 うるうると心配そうに上目遣いで見詰めてくるランスの言葉に、アンジェは力のこもっていない笑みを返す。


「先に言っておくがの、別に儂は意地悪や面白さを求めてお前さんを牢屋に入れた訳じゃないからの。

 ……人というのは身勝手な者じゃ。 力の強そうな、恐ろしい相手を見ると勝手に危害を加えられると身構えてしまう者は少なくは無い。 それにお前さんなら、逃げようと思えばこんな牢屋から簡単に逃げ出せるじゃろ。」


 アンジェとランスの会話を横目に見ていた、何でも屋部隊の面々を下がらせたエッケルハルトが自慢の髭を撫でながら呟く。


「特に面倒なのが権力や財力を持ったアホどもじゃ。 そいつらほど面倒極まりない生き物はおらん!

 勝手に被害妄想を膨らませて、こっちを敵視するのじゃからな。 じゃが、そういうアホは取り敢えず牢屋に入れているとでも言っておけば、多少は安心して黙るからのう。……まったく、お気楽な頭の持ち主共め!」


 顔を顰めて、ハンっと鼻を鳴らすエッケルハルトへとアンジェ達の視線が向かう。


「エッケルハルトのじーさん……ちゃんと考えていたんだな!」


「僕も取り敢えず牢屋にでも入れとけば良いや、的な感じだと思ってたっす!」


 エッケルハルトへと目を瞬かせて意外そうな表情を浮かべたオスカーとランスが率直な意見を述べる。


「五月蠅いわっ、小童とちびっ子っっ!!」


 ぎゃいぎゃい、と再び叫び始めたエッケルハルトやオスカー、ランス達を横目に見ながら、アンジェは一人遠い目をしてため息を再び付くのだった。




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