夢を見るは幼き過去の思い出。
春から夏へと季節が移ろい始め、太陽の明るい日差しを浴びて瑞々しい若葉が煌めく季節。
大きな塀に囲まれた都市、城塞都市エルネオアにある一番大きな屋敷の中庭に一人の少女の姿が有った。
緩やかなウエーブの掛かった鳶色の髪を持ち、碧色の瞳を輝かせる愛らしい少女は花畑の中心に座り込み、一生懸命に小さな手で花冠を作っていた。
そんな花冠を作り上げる事に夢中になっている少女の背後に小さな足音が近づいて来る。
花冠を作ることに夢中な少女が足音に気が付き後ろを振り返れば、其処には同じ年頃の少年が立っていた。
背後に少年がいるとは思わず驚きに目を瞬かせる少女へ、飴色の髪と常緑樹のような常磐色の瞳を持った幼いながらも整った顔立ちの少年は頬を染めて無邪気な笑みを浮かべる。
その笑顔に釣られるように同じくはにかんだ笑みを浮かべた少女へ、少年は背中に隠し持っていた一輪の花を差し出す。
差し出された可愛らしい桃色の花をキョトンとした表情で見詰めた少女は、少年の顔と花へと数回視線を走らせる。
そして、おずおずと差し出された花を受け取った少女は桃色の花に負けない無垢な笑顔を、少年へと向けた。
花が綻び、咲いたような薔薇色の少女の笑顔に、少年も頬を林檎色に染め上げて照れたように益々笑顔を浮かべたのだった。
※※※※※※※※※※
「……っ?!…………ゆ、めか……。」
城塞都市エルネオアの一角に有る屋敷で、一番鶏の鳴き声が聞こえ始めた早朝に一人の少年が寝台から飛び起きる。
「……まったく……懐かしい夢を見たものだ……」
夢だったのか、と少年はため息を付き、残念そうな、懐かしそうな複雑な感情の交じった声で小さく呟き、汗で濡れた髪を掻き上げる。
そのまま少年はゆっくりと寝台より降りて、汗ばんだ身体を冷ますために窓を開け放ち、うっすらと藍色に染まり始める空を見詰め、新鮮な朝の空気を吸い込み深呼吸をした。
「…………」
サイドテーブルに置いた読みかけの本や、宛名のないインクの染みだけが目立つ便箋が開け放った窓より吹き込んだ風に飛ばされて散乱する。
しかし、そんなことは気にならないのか少年は太陽が昇り始めた空から庭へと視線を移す。
「……エルンスター嬢……」
激情に耐えるような表情を浮かべた少年が、愛しさと悲しみが入り交じったような声音で幼い頃から心を寄せる名前を呼ぶことも叶わぬ相手を想い呟き、その姿を心に思い描く。
その少年の視線の先には、夢に現れた桃色の可愛らしい花達が咲き誇っているのだった。




