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04話 ラッキースケベで済まない時もある!

 ここは、何故かクラスの窓という窓に、暗幕がはられている闇の教室。

 もとい、中二病クラスの教室。

「まさか、漆黒炎のギルフォードが敗れるとは……」

「恐るべし、那由多五歌と言ったところか……」

「しかし、奴はこの中二病クラスで序列三十二位」

「所詮奴は、屑だったというわけだ……」

「ならば、次の刺客は誰がいくのだ……」

「え……」

「あの……あたたたっ、我が腹部に封印されし、黒い悪魔が暴れおるわ……これでは、無理かぁ……」

「う、うぉぉぉ。どうした、静まれ静まるのだ、我が右鼻の穴よ……。くそぅ、こうもノーズウォーターが大量に発生しては、わたしはいくことが出来ない……」

「お、おう……我も何かしらが、アレな感じでなければ今すぐ倒しに行くというのに……」

 

 何故に、こうも中二病クラスの面々は、那由多五歌との戦いを避けるのか?

 それは、真名を暴かれて、泣きじゃくりながら教室に駆け込んできた、漆黒炎のギルフォード改め、山本太一の姿を見たからである。

――どうして、カッコイイ名前をお父さんとお母さんはつけてくれなかったんだ……。

――外人に生まれたかった……。

――ラテン語が公用語のバチカンに生まれていれば……こんな事には……。


「よし、当分奴は泳がせておくことにしよう……」

「そ、そうだな。我らが出るほどのこともないな」

「う、うむ、そう言えばスポーツクラスの奴らが、那由多五歌を狙っていると聞いたことがある」

「ここは我等の手を汚す事無く、スポーツクラスを操るのが得策といえよう」

「うむ、うむ」

 こうして、那由多五歌は中二病クラスとの戦いから逃れることが出来たのだった。

――いい加減に、誰かあの黒フードを脱いで真面目に授業を聞いてくれないと、俺の腕に封印されし破壊神が、光の矢を放つぞ……。

 これは、静かにしないとチョークを投げつけるぞ! の意味である。

 いつの間にか、この担任教師も中二病クラスに染まりつつあるのであった。



 ※※※


 お昼休み、五歌を囲むように、七華と最桃の三人で教室でお弁当を広げていた。

「五歌、七宮家御用達のシェフが直々に作った豪華お弁当を召し上がるんですの」

 ドンとおかれた風呂敷に、五歌はゴクリとつばを飲んだ。

「ふふふ、ここは手作りお弁当のほうがポイントが高いんだにゃ!」

 そう言って、最桃は可愛い子猫のイラストのついたお弁当箱を机の上においた。

「まさか、最桃あなたお弁当を作ったというんですの!?」

「その、まさかにゃ……」

「よ、よく無事だったのですの……」

「いやいや、お弁当を作っていて、死にそうになるのは、なのかちんくらいにゃ!!」

 一体全体どんなお弁当を作れば死ぬことが出来るのだろう。と、疑問を持つ以前に、絶対に七華の手作りお弁当だけは口にしないと心に誓う五歌だった。


 謎空間に、突如キッチンが現れる。

「はいにゃ! ここで唐突に、伏寿最桃の手作りお弁当教室はじまるにゃ〜!」

 パチパチパチ。

 何処からとも無く登場したオーディエンスが拍手を向ける。

「みなさん、レシピのメモの用意ができたかにゃ?」

 お玉を片手に、カメラに向けて猫の手でポーズ。

「料理に大事なもの……それは愛情だにゃ! むしろ、愛情以外のものは不要と言っても過言じゃないにゃ!! 必要な材料は愛情、必要な調味料は愛情、必要な調理器具は愛情で補えるのにゃ!!」

 最桃は、お玉で空中に、愛情の文字を書いてみせた。

「つまりは、愛情さえあればなんでもいいのにゃ? という訳で、ここにコンビニのお弁当があるにゃ? これに、全力全開で愛情を注ぐんだにゃ!! うにゃーうにゃーうにゃにゃにゃァァァ!!」

 愛情なのか、ただの発情した猫の鳴き声なのか、そこら辺の所はよくわからなかった。

「これで完成なのにゃ! みんなも、大好きな人のためにレッツクッキングにゃ〜!」


 ※※※


「というわけなのにゃ」

 謎空間から戻ってきた最桃は、お弁当箱の蓋を開けた。

 すると、どうでしょう。

 お弁当の中に詰め込まれている、合成保存料たっぷりのお惣菜の数々は、コンビニ弁当の物を、ただ移し替えただけの匠の技など何処にもない素敵な料理だったのです。

「何処らへんが手作りなんだよ!!」

「愛情がこもっているにゃ? だから、なのかちんとは別れて、最桃とラブラブな関係になるにゃ?」

「な、なんて事を言うんですの!! バカバカバカバカ―っですの!!」

 七華と最桃は仲睦まじい子猫のようにじゃれあった。

 転校してから数日、五歌はこれらのやり取りには幾らか慣れてきた。

 中二病クラスの山本太一君が襲ってきて以来、何の変哲もない日常を謳歌していた。

「ところでさぁ、一つ疑問なんだが、俺以外の主人公候補って、この日常クラスにはいないのか?」

「え……」

「う、うにゃ……」

 何の気なしに尋ねた五歌の問いかけは、七華と最桃、二人の箸を止めた。

「え? 何か俺マズイことを聞いちゃったの?」

「な、なんでもありませんですの! そ、それより、この卵焼きを食べて欲しいんですの。うちのシェフが作ったご自慢の品ですの!!」

 そう言って誤魔化しながら、卵焼きを箸で掴んで五歌の口元に運ぶ。

「はい、あ〜んですの」

 それを素直に、口に入れてしまうところが、なにげに五歌の良いところと言えよう。

「美味しかったですの?」

「お、おう。それより、このクラスの主人公……」

「な、なのかちんだけ、あ〜んするのはずるいにゃ! 最桃のも、あ〜んされるべきにゃ!」

 最桃は慌てて、肉団子を箸でつかもうとして、地面へと転がしてしまった。

 慌ててそれを拾い上げると、ふーふーと息で誇りをはらい。そして、おもむろに五歌の口の中に強引に押し込んだ。

「さ、三秒ルールにゃ! 二秒だったから平気にゃっ☆」

 空気を読まない五歌ではあったが、このあからさまな二人の態度に、これは聞いてはいけないことであるのだと、察することが出来た。

 だが、察することが出来るのと、聞くのをやめるのとは全く別のことなのである。

 もぐもぐもぐと、口の中に放り込まれた、卵焼きと肉団子を井の中に押し込むと、凝りもせずに、同じ問いかけを続けたのだった。

「だから、前にいたこのクラスの主人公ポジションのやつって誰だったんだよ?」

「こ、ここまで話したくないオーラを出しているというのに、五歌は恐ろしい人ですの……」

「ほんとにゃ、主人公というより、ラスボスみたいなのにゃ」

 ヤレヤレといった感じで、二人は観念したかのように重い口を開いた。

「前にいた主人公ポジションの人は……今は停学中ですの……」

「そうにゃ……るん君は……最初はとっても真面目で良い子だったにゃ……それなのに……」

 二人は視線を落として、深い溜息をついた。

「一体……何があって停学になったんだ……?」

「せ……」

「せ?」

「セクハラにゃ……」

 壮大な音を立てながら、五歌は椅子から滑り落ちた。

「もう、思い出しただけで、顔が赤くなってしまうですの……」

「るん君。フルネームを、斗羅部とらぶるんって言うんにゃ」

「ええ、何かにつけて、トラブルを起こす人でしたの」

「そして、トラブルを起こすときは、何故か女の子を巻き込んで意図せずにエッチな事をしてしまうのにゃ」

「そう、それがるん君の能力スキル、幸運なる事故ラッキースケベだったんですの」

「はじめの頃は良かったんだにゃ」

「そうですわね……。はじめの頃は、るん君は悪気があってしていたわけではなかったんですの。偶然そうなってしまって、仕方なくと言った感じだったんですの」

「女の子たちも、その場では怒って見せていても、心の中ではるん君のことを嫌ってなんかいなかったんだにゃ。むしろ、好意を持っていたんだにゃ」

「それが……」

「あの男は、るん君は気がついてしまったんだにゃ……」

「気がついた? 何にだ?」

「それは……。あれ? 俺ってば、このまま狙ってエッチな事をしても問題ないんじゃないか? ってことにですの……」

 ラッキースケベの能力を持つ男というのは、性欲がないのか? と思うほどに、女子に対しては積極的にタッチしていかないというのが、基本的なルールとして定められていたはずである。

 それを、斗羅部るんは破ったのだ。

 それにより、クラスの女子を恐怖に陥れるセクハラ三昧の日々が幕を切って落された。

 もう、『るん君のえっち〜』で済はしなかった。

 さらに、それを踏み越えてきたのだ……。

 そして、女子にとって、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開された。

「遂には女子一同が一丸となって、セクハラで訴えたのにゃ……」

「思い出すだけでも、寒気がするんですの……」

 七華は小刻みに震えていた。少し涙ぐんでいたかもしれない。

「そうか、何だか悪いことを聞いたみたいだな……ごめんな」

「いいんですの、今はこうして素敵な主人公であり、彼氏がいてくれるんですの」

「ずるいにゃ! 最桃も彼女になりたいんだにゃ!!」

「なんですのー」

「なんですにゃー」

 こうして、平和な昼食時間が戻ってきたと思ったのも束の間。

 またしても、唐突に教室の扉が破られた。

 開いたのではなく、粉微塵に破られたのだ。

 その扉周辺に転がる、丸い物体……それは一体何か?

「これは、僕のボールさ! そう僕の愛するサッカーボールさ!!」

「あなたは!!」

「僕の名前は、大殻司おおからつかさ。ボールは友達怖くない! さらに、ボールは彼女、愛してる!」


 

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