M-002
ンギャ~ァ ンギャ~
城内に響く泣き声。
この国の誰もが望んだ産声だった。
この日は珍しく月の姿が無い日だった。
明かりを確保する為に目一杯火をくべた暖炉に、油を乗せた皿に紐を漬けその先にも火が灯る。
今日はそれでも明かりが足らないと魔法の得意な女性が集まった。
魔法で〔光〕を使い部屋を明るくして迎えたこの場所でこれでもかと大きな声がさらに反響して建物中に響く。
それに反して小さな安堵のため息が多数あった。
諌められてもどうしても我慢できずに居た存在が1人。
部屋のすぐ外の廊下でうろついていた。
自身の部屋で待つように言われていたはずの彼は報告の為に飛び出してきた侍女に驚かれながら報告を受ける。
「王様、元気な女の子です。
顔を見るにはもう少々お待ちください」
「おぉ」
何度受けても言葉にならない。
彼にとって4度目の子供が生まれた報告だが感激してこれ以上は無理だった。
そう聞いた直後に新たに別の侍女が飛び出してきた。
彼女もすぐそこに居た彼に驚きながらもそれどころではないと慌てて報告をする。
「王様、御后様が・・・」
その場に居た一同が慌てて部屋に入る。
「なんと言う事だ・・・」
そうそう起きる事の無いレベル0。
魔力をすべて子供に渡してしまったが為に起こる現象だった。
単に魔力を消費した場合は問題が無い。
しかし、この場合は魔力の器ごと渡してしまった事となる。
この世界でそれは死を意味した。
残っている体力が尽きた時点でこの世を去る。
魔力による器がなくなった事で〔治癒〕の魔法も受け付けない。
出産により落ちている体力では長く持たない。
王による、いや王族による泣き声が重なり再び城中に木霊する。
さらに、部屋に居た主治医、助産婦、侍女たちも合わさりその声が轟いた。
生まれたばかりの赤ん坊も感じているのか、更なる大きな声で泣き続けた。