7話
話したのは、常識知らずで可笑しな事を言うかもしれないので、指摘して欲しいという事。
ステータスが見れるという事だけだ。
ステータスという概念を説明するのは面倒だったが、理解したシャムはすごいニャンと目を輝かせていた。
別に全て話さなくてもいいのだ。奴隷だろうと全て話す気にはなれないし、理解出来ない部分も多いだろう。
この二つだけ知っていてもらえれば、何かあっても今後無駄な説明をしなくて済むと思う。
「これから宿に行こうと思う、二人でいくらくらいするもんなんだ?」
「二人、ニャ? ご主人様と誰ニャ?」
「シャムに決まってるだろ」
「それは無理だと思うニャン。奴隷獣人専用のプレハブに入れられるニャン」
ラノベでは感じられないリアルな差別を感じる。
獣人というだけで、犯そうが殺そうが問題にならないのだ。
人として扱われてない。差別として扱うのも生ぬるいかもしれない。
プレハブか、綺麗な場所ではないんだろうな。
そうなるとシャムに折角買ったマントや綺麗にした身体が汚くなる。少し金を握らせて反応を伺ってみるか。
「聞くだけ聞いてみるさ」
「ウチの所為でご主人様が貶められるのは嫌ニャン」
「命令だ。護衛もなしに静かに寝れん」
「にゃ~~」
抗議の声をあげつつも嬉しそうなシャムに案内され、大通りで一番大きな宿屋に入る。
見渡す限り、楕円形や四角のテーブルと椅子が並べられている。
一階は食事をするスペースなのだろうか。
入り口すぐ横のカウンターで、店番していると思しきだるそうなおばちゃんに声を掛ける。
「一泊したい」
「はいよ。身分証みせな、二人で鉄貨二枚ね……いやそっちは獣人か。鉄貨1枚と銅貨1枚ね」
「相談がある」
俺は身分証と鉄貨二枚をおばちゃんの手に渡す。
「獣人を一緒に泊めて欲しい」
「はん、馬鹿言ってんじゃないよ。獣人なんて馬鹿だし臭いし毛も多いし」
「コイツは見ての通りローブを身につけてりゃ見分けにくい、他のやつにバレないようにこのまま寝させる」
「はぁ、あんた一体何なのさ」
おばちゃんが俺の身分証に目を落とすと、眉を歪める。
そこで俺はもう一枚鉄貨を握らせる。
「普人が一人泊まりに来た。アンタは何も知らなかったんだ」
言葉を強くして、詰め寄る。
おばちゃんは少し悩んだような顔を見せてから、鉄貨と俺を交互に見る。
「……あ、ああそうだね、あんた一人か。今日はあまり混んでいないから、2階でも3階でも、どこでも好きなところで寝るといい」
「悪いな」
交渉成立だ。目を丸くしているシャムにフードを被せ、上の階へ移動する。
「喋らないように気をつけろ」
「かしこまりま」
全て言い終わらないうちに、シャムの口元を塞いで俺は顔を横に振る。
理解したのかコクコクと頷いた。
二階に上がるとすぐにドアが一つと、廊下の向こうに階段があるだけだった。
流石に個室なんて訳無いよな。
現代日本人の感覚からすれば、宿屋といえば個室は当たり前だが、当然そんなわけが無い。
持ち物も完全自己管理、自己責任。
宿屋で貴重品を預かってくれたり、保管庫を貸し出すなんてサービスは、そもそも成立しない。
ドアを開け中を確認すると、薄暗くてだだっ広い部屋に、ベッドがこれでもかというくらいずらりと並べられていた。
数人がこちらに何者かと視線を向けたようだったが、すぐ興味をなくしたように霧散する。
おばちゃんが言っていたように、あまりベッドが埋まっていない。
部屋の隅に二つ続けてベッドが空いている場所を見つけたので、そこで並んで寝る事にした。
ウーノ森の村のベッドより質が悪い。気を使われていたのか、村が潤っていたのか定かではない。
野宿よりましだが、背中が痛くなるかもしれないな。
ローブを脱ぐ予定だったが俺もこのまま寝た方がよさそうだ。
「朝一で出るぞ」
シャムが頷くのを横目で確認し、すぐに夢の中へと誘われた。
太陽が水平線からほんの少し顔を覗かせた早朝。
ユラユラと心地よい揺れで目を覚ます。可愛らしいシャムの顔が目に入る。
「おはよう」
挨拶をしながら、頭を撫でてやると嬉しそうに目を細めた。
夜確認した時より一人か二人少なくなっているようだが、起きている人は居ない。
ずれたフードを深く被り直し一階へ降りる。食事をしている人は居ない。
奥の厨房から、昨夜と同じおばちゃんがひょっこり顔を出し寄ってきた。
「早いね、朝食はまだ準備中。人目もあるし、流石に同じものをソレに食べさせれないよ」
「朝食は遠慮する。適当に何か買って食べる」
「そうかい。あんたに耳寄りな情報があるんだけどね」
そう言っておばちゃんは手を差し出してくる。金をよこせと言う意味だろう。
銅貨を一枚くれてやる。
「これっぽっちかい?」
「どうせこの宿に来る事ももう無い、嫌なら別に返してくれても構わない」
「はぁ~仕方ないね」
おばちゃん曰く、この街には獣人を差別しない宿屋があるのだという。
人目を忍んで経営していて、なんと表の顔は奴隷商で名前はスクラー。
第3地区の北区に店を構えているらしい。
一体どうやって知ったのか分からないが、このおばちゃん中々凄い。
「情報屋なのか?」
「なんだいそれは? あたしゃエーニって言うんだい覚えときな」
「そうか、悪かったな。また何か聞きにくるかもしれない。その時は頼む」
鉄貨を一枚握らせると、エーニは笑顔になった。
「任せときなよ」
大分お金を使ってしまったような気がするが、先行投資だと思う事にする。
●========================================================●
名前:佐々木 實
性別:女
種族:普人
HP:33/33
MP:12/12
身体強化 LV.2
必中の理 LV.1
回復速度上昇 LV.2
上位存在
満月の夜に魅せられて
装備効果:体温管理 物理軽減LV.8 魔術軽減LV.5
奴隷:シャム
お金:銀貨3枚 鉄貨1枚 鉛貨2枚
●========================================================●
名前:シャム
性別:女
種族:獣人
HP:311/311
MP:2/2
装備効果:物理軽減LV.1 魔術軽減LV.3
●========================================================●