4話
「ふんっ! この程度余裕だ!!」
会合を終え村へ戻り、国へ行くため準備が整うまで滞在することになった。
あまり気が乗らなかったのだが、食べ物とか寝床の関係で仕方なくだ。
こちらまで届く馬鹿でかい声を上げながら、モブキャラ君が鉄剣を振るう。
こいつは俺に金魚の糞みたいにくっついて歩いてくる。正直うざい。
スキルは身体強化・剣術を持っていて、HPは俺の10倍ってだけのことはあるようだ。
俺はこの世界でメジャーな遠距離武器であるクロスボウ(冒険者の遺品)を使って実験を行っている。
連射こそできないが、必中の理を試すには持って来いなのだ。
「まぁ、口だけじゃなくて本当に良かった」
聞こえないようにポツリと漏らした。
撃ってみてわかったのだが、かなり速い。
向こうに届くまで1秒掛かってないんじゃないか。
正確な距離はわからないが、大体100mくらい離れていると思う。
それを時速に直してみると……新幹線。
「怖っ」
それでも容赦なく10射したところで、モブキャラ君のHPが半分程度になったので実験は終了。
明後日の方向に撃っても、モブキャラ君の方へ風に流されたように若干向かうだけ。
LV1じゃこんなもんなのかね。
「もう終わりなのか? やっぱクロスボウなんて敵じゃないね」
などと両手を腰に当て、大笑いしながら大声で叫ぶ。このモブキャラ調子に乗ってやがる。ゼロ距離でブチ込んだろか。
近くで実験を見ていたフルプレートのデカイ男。通称タイチョーがこちらにやってきた。
「これでは何時間やっても傷一つ、ダメージ一つ与えられんな。高レベルの命中強化系スキルをもっているようではあるが」
高レベルの命中強化だって。
まだLV.1なんですけどね。
「このままやってたら、あのモブキャラHPがなくなって死んじゃいますよ。それにこの矢、木製とは言え高いんでしょう?」
「ははは、死ぬわけが……いや、疲れが溜まって集中力が切れたところにブスリといくかもしれんか」
不意にタイチョーはモブキャラを睨みつけた。
「矢は確かに高い、しかしこれは訓練だ。再利用するのが常識。あいつは全て剣でぶち壊してしまったな」
このタイチョー何か勘違いしているようだ。
いや、そもそも剣で弾いていたのにダメージが通るのは可笑しいか。
今モブキャラのHPが減っているのは、当たり前ではないのかもしれない。
「武器や防具に当たった場合、ダメージが入ったりする事はあるんですか?」
「身体に傷をつけない限りは無いな。衝撃が強ければ入ったり事もあるらしいが、微々たるものだろう」
これはもしかして、理不尽な攻撃なんじゃないか。
傷はつけられなくても、対象に当たりさえすればダメージが入るんだ。
知られてしまえば対処の仕方はあるだろうが、隠しておけば相手は気づかぬうちにあっさり逝っちまう。
もうそれは突然に、心臓発作を起こしたんじゃないかって思われるくらいに。
「ククククク」
自然と笑みがこぼれる。
人間相手にしか試していないが、魔物でも同じことになる可能性は高い。
硬い鱗に弾かれたがダメージ入ってますとか、ゴーレムみたいなガッチガチの奴にもただ当ててるだけで倒しちゃうとか。
無理せず安全に怪我をせず。
ガチチート(笑)では無いが、連射式の銃とか作れたらもはや敵なしだろう。
どんだけ強くてもHPが無くなれば死んじまうんだからな。
自他共に認めるこの村一番のイケメン、それがこの俺。
村長の家に生を受けて二十数年、何かに困った事というのは数えるほどしかない。
もちろん生まれてこの方一度も女に不自由したことが無い。
女を抱かない夜なんてないくらいに。
毎日のように言い寄られ、とっかえひっかえ遊んでいる。
相手が既婚であるか、年が離れているとかなんて関係ない。
ただ最近、この村の女をババア以外コンプリートしてしまった所為で飽きてきた。
一人両手の指の数以上は抱いていると思う。
国にいって街の女にも手を出してみたいが、金もないしスキルには恵まれてもいない。村の外に出るなんて自殺行為だ。
さて今日は趣向を変えて夜這いをするつもりだ。
どうせ断られるわけなんて無いし、前もって話をしてあるわけではない。
村で一番オシャレ好きで大きな鏡を持っている娘の家にいこう。
名前何だったっけな……まぁいいか。
顔もそれなりだった気がするし、一人暮らしだから家族に泥棒と間違えられるなんてことは無いはずだ。
忍び足で家に近づいていってハッと思いついた。
玄関から入っていったらいつもと同じパターンになってしまうかもしれない。
いっそ窓から侵入して、寝込みを襲うっていうのはどうだろうか。
我ながらナイスアイディアである。
この時間村のどこにも明かりはついていない、もう皆寝ている時間なのだ。
寝室はこっちだったかな。
窓に近づくと微かに押し殺したような嬌声が聞こえてくる。
「ははーん。一人でシているのか。結構可愛い声で鳴いてるじゃないか」
俺がいるのに他の男としているわけないしな。
予定は狂ってしまったが、覗くのもまた一興か。
目の前でさせるのと、誰も見ていないと思ってシているのはまた違うだろう。
そーっと覗くとそこには見知らぬ美女が美しい肢体を晒していた。
「だ、だれだこの子」
月の光に照らし出されたその美女は、まるで宝石のように美しかった。
今までそれなりに可愛いと思っていた女達が、ゴミクズみたいに霞むくらいに。
ぷるるんと揺れ動く二つの大きな果実の頂点には桃の色のさくらんぼ。見ているだけで心奪われる。
ただただ美しかった。人という名の美の完成系がそこに居た。
夢中になって覗いていると、息子がかつてないほど苦しみ同時に元気いっぱいになっていることに気づく。
あの子は男を誑かし、理性を吹っ飛ばす艶かしさも兼ね備えているのか。
ここが誰の家かとか、あの娘が誰かなんてもう考える余裕はなく、己が欲望のままに弄び、自分色に染め上げる事しか考えられなくなっていた。
気づいた時には窓を壊し、家へと乱入していた。