2話
次かその次くらいでチートなんじゃないかと思うような話はしたい。
絶望し、腰を抜かして地べたにへたり込んでいると、人が何処からとも無く現れて俺を取り囲んだ。
どういうことなのかさっぱり分からないが助かった。
聞くところによると、この森では一つ目の巨人と人が共存しているらしい。
潰されて見るも無残な冒険者達は、一つ目の巨人を討伐しにきた奴らで、返り討ちになっただけだった。
冒険者達の装備を剥ぎ取った後、俺はこの先にある村で身なりを整えてもらう事になった。
村に着くと身を綺麗にするため、すぐ村の外れにある湖に連れて行ってもらう。
話を聞く限りこの村で風呂とか、暖かいお湯は期待できそうに無いみたいだ。
村を抜け、森を少し歩くとアニメや漫画でしか見たこと無いような幻想的な場所に着いた。
「すげぇ……綺麗」
思わず声を漏らしてしまうほど綺麗だ。
現実の世界みたいに虫なんかもぶんぶん飛んでいることも無く、木や草も不自然なほど綺麗に整えられている。
しかし、普段人気がない場所といってもここは覗かれ放題じゃないのか。村から近いし。
湖を囲む木々に身を潜めれば分かりはしない。
村の女の人達は気にしないのだろうか?
仕切りもなんもない。まぁ羞恥心は今のところ無いからいいけど。
目的の場所へ汚くなった服を乱暴に脱ぎながら向かう。元の世界の習慣ってやつだ。
村の中の小さな湖。女性の水浴びなどはここでするらしい。
屈んで湖を覗き込んでみると、水は透き通るほど澄んでいて、小さな魚が泳いでいる。
「おおこれは……とんでもない美人さんじゃないか」
湖を鏡代わりにして、この世界で初めて自分の姿を確認した。
髪は綺麗な夕焼けを思い出させるような茜色で、風が吹けばサラサラと流れる髪質のセミロング。
相手を射竦めるかのような真紅の瞳。透き通るように白く、しみやそばかすが一切ない、ツヤがある白玉のような肌。
どこのトップモデルかと言われそうな、完璧で引き締まった身体でキュッと腰はくびれ、すらっと足は長い。
身長は男達とさほど変わらぬくらい高い。
その身体に不釣合いな程大きな果実は、重力に反するかのように持ち上げられ、美しい形を保っている。
思わずいろんなポージングを試してみる。
「鏡と一人になれる場所があったら、今すぐ一人でナニしたい」
貸してもらった布で全身を拭き終え、全裸のまま湖で自分の姿に見蕩れていると、後ろから声が掛かった。
「こちらに着替えを用意しました」
渡されたかごの中には、特に装飾品は付いていないがこげ茶色の高そうなローブと青色のゼリーのような長方形の物体が2つ。
1つはスマートホンくらいのサイズ。もう1つはその3倍くらいはありそうだった。
「んー、これは何ですか? 下着はないのですか?」
流石にローブの下は全裸というのはきつい。何かの拍子に痴女になりかねない。
この場を立ち去ろうとした女性を呼び止めると、怪訝そうな顔をしながらも説明してくれた。
「これが下着です。えーっと1から説明したほうがいいですよね?」
「お願いします」
「まずは見てもらった方が早いので」
女性はそう言うと、手に持っていた青いゼリーのような物体の小さい方を俺の股に、大きいほうを胸に押し当てた。
するとそれが見る見るうちにパンツとブラジャーに変形した。
「うお、すげっ」
その瞬間、胸にあった重みを感じなくなり、色が濃くなり透明感がなくなる。
密着しているように見えるが、下着を着けているという窮屈感はなく、人肌でやさしく包み込まれているかのようだ。
身体を横に軽く振るっても、胸はぷるぷる動くがまるでその重さを感じさせない。
「体感してもらっている通り、どんなに激しく動いても胸が邪魔になりません。下は貞操帯の代わりにもなりますし、生理が来てもすべて勝手に処理してくれます」
「それってすごいですね。必需品じゃないですか……それで貞操帯の代わりになるってのはどういう事ですか?」
「自分以外の者が脱がそうとしても水のようになって脱がせられませんし、何か挿れようとしてきても木くらいの硬さになって進入を防ぎます。ただ万能ではないので、脱がされたり破壊されてしまう方法もあるらしいです」
とんでもないな。この村の様子からも、異世界だから生活水準は大分下に見ていたんだが、変なところでこっちの水準を上回ってる。
「魔道具って奴ですかね~」
「確かそうらしいですが、元は魔物だったとか」
「え? 魔物?」
「スライムって言う名前の、今は絶滅した最弱の魔物を改造したとかなんとか」
「へぇー」
スライムが最弱の魔物とか某ゲームかよ。って事は一つ目の巨人はサイクロプスで、あの気持ち悪い緑色の人型の生き物はゴブリンで合ってるかもな。
「それじゃ戻ります。村長の家で待ってもらうことになると思います」
俺はローブを羽織り、遠くの物陰を睨みつける。
すると茂みが不自然に揺れる。……分からんでもないがまったく男って奴は。
「村長! 俺は反対です! この村の存在を知ってしまった以上、信頼できる人かどうか確信を得られるまで、この村に残すべきです!」
若くて腕に自信のありそうなモブキャラが、唾を撒き散らしながら捲くし立てる。
先ほどからずっとこちらをチラチラ伺っていて、その視線には疑念が多大に含まれているが、巧妙に隠された下心を俺は感じ取っている。
「わしも同意見ではあるが、キュクロプス殿の意向とあっては仕方あるまい」
キュクロプスというのはサイクロプスの突然変異らしく、魔物にあるはずのない高度な知性を宿し、ウーノ森の魔物全てを統率しているらしい。
何処の馬の骨とも知らぬ俺がこうして高待遇を受けているのも、そのキュクロプスが俺に話があるらしいからだ。
ちなみに俺を襲ったゴブリン達は命令聞かずで、はぐれ者の糞野郎だったんだと。
「ぐぐ、しかしっ!」
「壁の外に居る我等はただの弱者じゃ。キュクロプス殿と共存とは謳っているものの、こちらは生かされるも殺されるも相手次第。上下関係はハッキリしておるのじゃ」
「ですがっ!」
先ほどから何度も繰り返される茶番に嫌気がさす。
モブキャラの視線はムカつくが、やる事もないので意識を逸らして窓の外を見る。
この村には色々種類の人が居る。耳が尖ったエルフっぽい奴とか、尻尾が生えてる獣人みたいな奴とか。
村長は、税ばかり貪り払わぬ民は人じゃないとして追放する国を見限って、この村を興したとか誰かが言ってたような気がする。
大きな木の内部をくり貫いて作った家や、木材のみを組み合わせて作ったコテージのような家。
森の木々に囲まれたこの村は、想像していたエルフの里っていうやつに近いかもしれない。
「準備が整いました」
ひょっこり現れたムキムキで図体のデカイ男。プレートメイルを装備して、腰には年季の入ってそうな剣を携えている。
「では、キュクロプス殿のところまで護衛を頼んだぞ」
「はいっ!」
俺はこの村人達に、記憶喪失で名前しか分からないとか、常識に疎いとか自分自身の事を全く話していない。
なんと説明すれば言いか悩んでいたと言うのもあるが、高圧的な態度や横暴な振る舞いに悪い印象を持ってしまった。
キュクロプスに言われて仕方なく、嫌々やってますという感じも伝わってくるのだ。
言動から推察するに俺をすぐ連れてきてくれと頼まれているらしかったが、護衛という名の監視の準備が整うまで待たされていた。
「付いて来てください」
ムキムキ男を先導に、兵隊みたいな奴らが俺を取り囲むように歩く。
正直俺のステータスを見た限りでは力になれそうも無いんだが、怪しいスキルはあると言えばある。
ゴブリンにすら勝てない俺に何を期待しているのだろう。
俺は自身のステータス画面を見つめながら、ため息をつく。
もうちょっと分かりやすいチートスキルが欲しかったな。
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名前:佐々木 實
性別:女
種族:普人
HP:33/33
MP:12/12
身体強化 LV.1
必中の理 LV.1
回復速度上昇 LV.1
上位存在
満月の夜に魅せられて
装備効果:体温管理 物理軽減LV.1 魔術軽減LV.2
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