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作者が気が向けば書いてるだけの毒にも薬にもならない駄菓子屋的なほのぼの女子高生コメディトークシリーズ

ポテト全サイズ150円をLサイズで買うかどうか迷う女子高生三人の風景。そのに

作者: 七村圭


 奇跡的にマックスバーガーへの入店という困難なプロジェクトを成功へと導いた女子高生三人、瓜生うりゅう沙弥香さやか射原いりはら小知火ともしび小野原おのはら雲母きらら


 だが、さやりん、ともちん、きらりんの前には、さらなる試練が待ち受けていたのだった。


 どうなる、椥辻なぎつじ学園女子高生トリオ。どうなる、マックスポテトLサイズ――!











「おいしいーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 満足感に満ち満ちたさやりんの声が店内に響き渡った。三人の前にはマックスポテトLサイズが三個。マックスバーガーにドリンクも。


「こんなにおいしいマックスポテトははじめてだよ~。五臓六腑にしみわたるねぇ」


「またおっさんくさい言葉だね」ともちんが云うものの、さやりんはどこふく風で、


「やっぱりマックスポテトしかないよ、うん。人生で一番必要なものそれはマックスポテトだよ」


「だよね~」きらりんが同意する。「マックスポテトがあれば他になにもいらないよ」


「二人とも、もう少しバーガーの方も誉めてあげたら」ともちんが云うのに、きらりんはすっかり置き去りにされたバーガーをなでた。


「よしよし。バーガーもえらいね」


「そういうことじゃなくて……バーガーも食べてあげたらって」


「ああ、ポテトおいしい……」さやりんの方は完全に悦に入っている。


「もう無いかな……ええっ!? まだこんなにある! Lサイズってすごい! もうSサイズは食べれないよね」


「私はさやりんの今後が心配よ」そう云うともちんに対し、さやりんは口をふくらます。


「いくらたべても太らないともちんに言われたくありませーん」


「はいはいー! きらりんも食べても太らないよー」きらりんが口を挟むのに、さやりんはさらに口をふくらます。


「っていうか、きらりん学校でお菓子とかすごい食べるのに、なんで体重変わらないの」


「これはね。神様からさずかった、きらりんの大事な大事な才能なの」


「体質でしょ」


「才能なの」


「体質じゃん」


「才能」


「体質だって」


「才能だって」


「どっちでもええわ」ともちんが突っ込む。さやりんときらりんが云った。


「でた、ともちんの大阪ツッコミ」


「やっぱりツッコむときだけ大阪弁だね。さすが大阪人!」


 ともちんは京都人である。


「ねえねえ、そういえばさー」きらりんが云う。「さやりんさー、昨日のみたみた?」


「うん。みたみた。みたよ」


「ともちんも、みたみた?」


「……なに、みたみたって」


「えー。ともちんみてないの?」


「いや、そもそも『みたみた』ってなに」


「ミタだよ。ミタ。いまやってるドラマだよ。みてないの?」


「――ああ、そういう意味」ともちんが苦笑する。「みたみたって、なんのことかと思ったよ」


「もう。ともちんってそういうところお茶目だよね。でも『ホームスイーパー・ミタ』先週の視聴率85%だったんだって。すごいよねー」


「そんなに? それほんと?」さやりんが訊くと、きらりんが首をかしげる。


「う~ん。もしかしたら40%くらいだったかも。でさ、ともちんもみたよね」


「みてない」


「うそー、みてないの!? なんで?」


「なんでって言われても……ねえ」


「ともちんってそういうの、絶対チェックしてると思ったのに」


「いや、別に私、そういうのじゃないから。元々ドラマってあんまり見ないほうだし」


「うそ~。昨日の放送すごいよかったよー。付き合ってる男の人に浮気された女の人が、ミタに『彼を取り戻したいの。何とかして』ってお願いしたら、ミタが『承知しました』って言ってあの手この手で――」


「すごかったよね~」さやりんも同調する。「最後なんか、女の人が嫉妬に狂って『彼氏の家に火をつけて』って命令したもんね」


「でも『あなたの卑しい心をスイープ致します』とかなんとかいって説得しちゃうんだよねー。でさ、ともちんもみたよね」


「みてないって」


「うそー、みてないの!? なんで?」


「……フリが白々しすぎるよ、きらりん」


「あれー、そっかぁ。ごめーん」きらりんが右手で頭をポカッとする。「それで思い出したけどさ。さやりん、最近彼氏とどうなの?」


「ん~、かれし?」オレンジジュースを飲んでから、さやりんは浮かない顔で答える。「まあ……当たらずとも遠からず、ってとこかな」


「ふーん。つまり、アツアツってことだよね?」


「きらりん、いまの私の顔と言葉で察してくれないかな……」


「え~!? じゃあ、サメサメってこと?」


「どっちかっていうとね。サメサメだね」


「うそー。ね、ね、さやりん。彼氏の家に火つけたりしないよね」


「つけないって。あ~、でもミタさんがほんとにいるなら相談したいものだよ」


「えっ。さやりん、ミタさんと知り合いなの? 紹介してっ! ねえね、紹介してっ!!」


「いや、知り合いじゃないし。ミタさん架空の人物だし」


「えっ……?」


「なに、いまの『えっ……?』って。まさかあのドラマ、実際あった話だなんて思ってないよね」


「え……あ、あはは、なにいってるの。そんなの思ってるわけないよ。ミタさん、架空の人物だったんだ。そうに決まってるよね。だいじょうぶだいじょうぶ」


「言ってることが支離滅裂なんだけど……」ともちんの言葉を、きらりんはひたすら笑ってごまかした。


 ともちんはさやりんに向き直って云った。「でも、夏休みはさすがに会ったよね、彼氏と。どんな様子だったの」


「会ってない」


「へっ?」


「会ってないよ。一回も」さやりんがテーブルにひじをついて両手を組む。そしていかにも不満だという顔をのせた。


「なーんか私より、サッカーの方に夢中っていうか、サッカーが恋人だ! っていうか? そんな感じ」


「そっか。彼氏、サッカー部のレギュラーだもんね。結構強いんだっけ?」


「夏休みは遠征、遠征。ずっと遠征ばっか。おまけに夏の大会で優勝とかしたみたい。よく知らないけど。はぁ……なんかやるせない気分だわ」


 きらりんが云った。「でも部活じゃ仕方ないんじゃないの~? 私も夏休みは演劇部忙しかったし」


「私はね、日ごろからいっしょにいてくれるような彼氏じゃないとイヤなの。たまにしか会えないとか、あり得ないし。チュウチュウランドのチケットだってさ、いっしょに行こうと思って買っておいたのに、結局使うヒマなかったし」


「え~!? もったいない~。じゃあきらりんにちょうだい」


「もう無いよ。知り合いにあげたし」


「なんだ。つまんないの」


「ってか、もしチケットがあったら、きらりんはだれといくつもりだったの。まさか、彼氏でもできたの?」


「ぜんぜんー。できません~」


「なんだ。きらりんカワイイから、その気になればそのへんの男なんかすぐ引っかかるんじゃないの」


「それが引っかからないのー」


 引っかける気はあるらしいきらりんが、眉根を寄せながら云った。


「話しかけてくれる男の子はいるんだけど、少しおしゃべりしたらすぐにどっかいっちゃうし。まったく、最近の男どもはふぬけばかりだ。ほとほと反吐が出るよ。いっそのこと、新しい者達と入れ替えた方がいい。気に入らない者は全て更新だ。そう思わないか、サヤカ」


 !?


「急にどうしたの、きらりん」顔をひきつらせるさやりんの前で、きらりんは消えた黒目を元に戻した。


「えっ、知らないの? 『聖なる町のプリンセス』に出てくる神・メネシスの名セリフ。『気に入らない者は全て更新だ』」


「その『聖なるなんとか』がそもそもなんなのか知らないから……


「マンガだよ、マンガ。ヤングアフタヌーンで好評連載中だよ。このあいだ連載休止になっちゃったけど」


「ってか、話の途中で急に芝居に入るのやめたほうがいいよ、きらりん。彼氏できたらきっと引くし」


「だいじょうぶ~。そんな人とは付き合わないから」


 だから彼氏ができないんじゃ、とさやりんは云いかけて止めた。


「――で、ともちんはどうなの」


「なにが」さやりんが訊くのに、いままでだまっていたともちんが尋ね返す。


「なにって、彼氏に決まってるじゃん」


「いないよ」


「いる」


「いないって」


「いる」


「いないから」


「いるったらいる」


「だからいないって。しつこいな……」


「じゃあ、好きな人くらいはいるんでしょ」


「いないよ」


「でも、ちょっといいなあこの人、とかいうのはいるでしょ」


「いないね」


「うそー」きらりんが本気で心配そうな顔をしてともちんをのぞきこむ。「ともちん、だいじょうぶ?」


「どういう意味よ、それ」


「だって、興味ないの? 彼氏ほしいなー、とか、思わないの?」


「うん。まあ」


「えー!? なんで?」


「なんで、って言われても……いまは別にいいっていうか、そっちには関心がないっていうか……」


「そっちって……ああっ!! ともちん、そういうこと!?」


「なんか盛大に勘違いされてる気がするけど……どういうこと?」


「まさかともちん、女の子の方に興味があるなんて――」


「うそ? え、ほんとに?」さやりんも驚く。「ともちん、その……私たちは、大丈夫だよ、ね」


 きらりんは謝る。「ごめん、ともちん。私、普通に男の子が好きだから……」


「待って待って。二人ともいったん落ち着こう。ね」


「いいよともちん。ごまかさなくても。好きなら仕方ないもんね。女の子が女の子を好きになるって、悪いことじゃないと思うよ、うん。私だってBL好きだし。もっとともちんのこと、理解しなきゃだね」


「だから、そういう意味で言ったんじゃないんだけど……ってかきらりん、BL好きだったの」


「えっ、じゃあどういう意味だったの? ……うん。きらりん、BL大好きだよ」


「だから、いまはだれも好きじゃないし、好みの人もいないって意味で……そうなんだ、きらりんBL好きなんだ……」


「なんだ、そうだったの? びっくりするよ~。いきなり『いまはそっちのほうには関心ない』っていうからさ~」


「私はきらりんのBL大好き発言の方がびっくりしたよ……」


「でもさ~」さやりんが口を挟む。「いまは、ってことは、前は関心があった、ってことだよね」


「う」


「ほら、図星」


「いや……ず、図星なわけないやん」


「ツッコミにいつもの勢いがないね、ともちん~♪」


「ほ、ほら。この話はこれでおしまい~! 終了~! でさ、このあとどうする?」


「んんん? ごまかすなんてともちんらしくないなあ。一体どうしたのかなあ」


 きらりんも云う。「ともちん、だめだよー。血の契約を交わした私たち三人、隠し事は一切しないって約束したよね」


「そんな物騒な契約しとらんわ。……まあ、その件はまたおいおいということにしといてよ。いつか話すからさ」


「じゃあいまー」さやりんが食い下がるも、ともちんは首を振る。


「だめ。はい、この話はこれでおしまい」


「う~ん……なんか消化不良だなぁ……。でもさ、前はともかく、今そういうのに関心が無い、っていうのもあんまりじゃないかい」


「そうだよともちん」きらりんも云う。「クリスマスイヴとか、バレンタインデーとか、彼氏と一緒にいたいって思わないの」


「……あんまり」


「だめだよそれじゃ。彼氏がいないと、いろいろ大変だよ」


「大変って、なにが?」


「大事なときに助けに来てくれないとか」


「彼氏なら大事なときに助けに来てくれるの」


「もう。ともちんはわかってないよ。例えば――」


 そのとき。


 ガシャン!


 という音とともに、三人のいた店の窓ガラスが突然割られた。


「えっ」


「なに?」


「きゃっ――」


 ここは二階――。


 投げ込まれたのは、催涙ガスだった。


 ぷしゅーっ! と、筒状の物体から白い煙が一気にふき出す。


 一瞬にしてもやにつつまれる、マックスバーガーの店内。


「ちょっ、なに?」さやりんが立つが、すぐにガスを吸い込んでしまう。


「うっ……げほっ、げほっ……」


「なにこれー……涙がとまらなくて……前がみえない……」すでにガスを吸ったらしいきらりんは、しきりに目をこすっている。


「催涙ガスよ。なんでこんなのが……」


 ともちんは必死にガスを吸わないよう息をとめ、目の前を腕でかざす。だがそれも気休めで、すぐに目と鼻の粘膜がガスに刺激され、涙とせきが出始めた。


 そこへ、階段をのぼってくる数人の足音。


「動くな! 動くと撃つぞ!!」


 他の客も逃げようとしてパニック状態になっていた店内を制したのは、防毒マスクをかぶった迷彩服の侵入者だった。手にはマシンガンのようなものをもっている。


 それでも無理やり逃げようとする男性客。だが、侵入者が銃口を向け、躊躇ちゅうちょなくトリガーをひく。


 激しい発砲音。


「うわっ」さやりんが恐怖で席から転げ落ちる。きらりんは涙とせきでもう声も出せない。ともちんだけが、その光景を把握していた。


 男性客が、赤く染まった胸を押さえて倒れる。あきらかに絶命。


「――うそ」


 涙で埋まりそうな目を見開き、ともちんは絶句する。


 目の前で、人が――。


「動くな! 動くと、お前らもこうなるぞ!!」


 侵入者が脅すように倒れた男性客を蹴りつける。上がる悲鳴。


「この店は完全に制圧された。まもなく日本は、我がメヘラポムキン信教国に占領されるだろう。それまでおとなしくひざまづいておくのだな。ははははは!!」


 なにをわけのわからないことを、とともちんが思っていると、侵入者のうちの一人が彼女のところへ近づいてきた。


「射原小知火。貴様を連行する」


「えっ――」


 ともちんはなんとか視界に映る相手をみた。


「どうして、私だけ――」


「お前に言う必要は無い。これでもくらえ」


 重いボディブロー。ともちんはその場で気絶した。











「――あれ」


 気がつくと、ともちんは牢屋の中にいた。


 鉄格子のはまった部屋のすみに、ともちんは転がされていた。


「私……どうして……」


 起き上がり、辺りを確かめる。どこかの地下だろうか。薄暗くて、周りにはひとけが無い。牢屋はどうやらここひとつだけのようだ。


「出して! だれか、ここから出して!」


 ともちんが叫ぶ。だが、だれも来そうにない。


 ともちんはいまの状況を理解しようとした。だが、あまりにとっぴなことが多すぎて、なにをどう整理していいのか頭の中で全く判断がつかない。


 私たちは、マックスバーガーにいた。そこに、催涙ガスが投げ込まれて、よく分からないやつらが入ってきて、私たちに銃を向けて――


 私だけ、連れ去られた。


「一体、なにがなんだか……」


 ともちんはとりあえず、いまどうすべきか考えることにした。


「とにかく、助けを呼ばないと。携帯、携帯――あった」


 ともちんはポケットに入れていた携帯電話を取り出すと、すぐに着信履歴からさやりんを選択し、電話をかけた。


〔おかけになった電話番号は、電波の届かない場所にあるか、電源が入っておらず、かかりません――〕


 続けてきらりんにかける。


〔やっほー。きらりんだよ~♪ いまちょっと電話に出られないところにいるから、またあとでかけなおしてね~♪〕


 二人とも、つながらない。


(さやりん、きらりん、大丈夫かな……。あいつら銃もってたし、もしかして――いや、そんなことない! ……でも)


 きらりんの着信音声の明るさが、逆にともちんの胸をしめつけた。


 二人とも、無事でいて――。


 ともちんはアドレス帳に載っていた他の連絡先に手当たりしだい電話をかけるが、一人としてつながらない。


(電話局もあいつらに抑えられたのかも……)


 ともちんはためしにネットにつないでみた。


(あっ、つながる――)


 Yahaa! JAPANのトップページが、ともちんの携帯の画面に表示された。その日のトップニュースが並んでいる。






■■ニュース■■


★日本、滅びる

◆メヘラポムキン信教国 2時間で日本を制圧、立国を宣言

◆教祖・メヘラポムキン十七世「メヘメヘにしてあげる」

●警察、自衛隊、なすすべなし 諸外国へ救援要請

▲弟子丸翔太、熱愛発覚?






「日本滅びてるし……」


 ともちんは絶望的な気分におちいった。


 Yahaa! ニュースで報じているということは、本当なのだろう。信じられないことだが、現実なのだ。


 現実に、日本は、滅びた。日本は無くなって、メヘラなんとかという国に――


「いったい、なにがどうなってるのよ――!」


 ともちんはしゃがみこみ、頭を抱える。


 そこへ、牢屋に近づく足音が。


 さきほどみたのと似た服装を身にまとった人が、牢屋の前に立った。防毒マスクをつけているので、顔はわからない。


「気分はどうだ」


 男の声だ。


 ともちんは精一杯逆らった。「ええ、最悪よ。あなたたちはなんなの? 日本を滅ぼしたとかって――それより、さやりんときらりんは無事なんでしょうね」


「さやりん、きら……? ああ、お前といっしょにいた二人か。彼らはすでにメヘメヘの洗礼を受け、メヘラポムキンの信徒になったよ」


「えっ。それ、どういうこと……?」


「貴様には関係ないことだ。どうせこれから処刑されるのだからな」


「処刑――」


「貴様をこれから公開処刑に処する。ここから出ろ」


 そして牢屋の扉が開くと、どこかからか現れた信徒数人にともちんはすぐさま両腕をつかまれた。その中には、彼女が探していた二人の友人の姿もあった。


「――さやりん! きらりん!?」


「ごめんねともちん。私たち、さっきメヘラポムキン信教国の信徒になったから」


「信徒って思ってたよりいいよ~。神さまのお告げにしたがってれば、なにも悩まずにすむし~」


「二人とも、目を覚まして!」


「何に目を覚ますっていうの、ともちん」


「そうだよー。ともちんこそ、目を覚まそうよー」


 二人の目には黒目が無い。うつろな色をしている。


「さやりん! きらりん!」


 ともちんはもがく。だが、二人の尋常でない力にそのままひきずられていく。


 行き先は、高い塀に囲まれた、小さな広場。


「ここでともちんの処刑を行う。準備はいいか」


 オッケーでーす、という間の抜けた声が響く。ともちんはコンクリートの壁にはりつけられていた。


「どうして……どうして、私だけ処刑されるの」


「それは貴様が、メヘラポムキン様にとって仇をなす『ポペ』をもつ存在であると確認されたからだ」


「どういう意味よ!」


「言葉のままの意味だ」


「その言葉が意味不明だって言ってるの!」


「だから『ポペ』だと言っているだろう。もういい。さっさと処刑してしまえ」


 五人の兵士に銃口を向けられるともちん。恐怖で涙が出る。


「いや……なんでこんな……こんな……。さやりん、ともちん、助けて!」


「あきらめが悪いよ、ともちん。ここなら彼氏も助けに来ないだろうし、天国へのお祈りでもささげた方がいいんじゃないの」


「そうだよー。こんなに武装した人たちがいるんだから、きっと彼氏も無理だって判断したんだよー。だからだれも助けにこないよ」


 二人の目は相変わらずうつろのまま。ともちんは絶望した。


「だれか――だれか助けて!!」


「待て!!」


 ――と。


 その場になじまない、若い男の声が、彼らの頭上から聞こえた。


「だれだ!?」


 ともちんも見上げる。そこには、愛しの彼氏が立っていた。


「うそ――」


「遅くなってすまん、小知火。待たせたな」


「だれだ、貴様は!?」メヘラポムキン兵の隊長が声をあげる。男は答えた。


「俺か? 俺は、そこにいる小知火の彼氏、弟子丸翔太だ!!」


 さっそうと飛び降りる翔太。隊長はすぐさま云った。


「かまうな! 邪魔者は撃て撃て!!」


 マシンガンが炸裂する。ともちんは思わず目を伏せた。


 だが――


「俺には通用しないぜ」


 なぜか放った弾丸は一発も当たらず、逆にすばやい動きで間合いをつめた翔太が隊員に迫った。そのまま次々とハイキックで隊員たちをのしていく。


「貴様! よくも我が隊員を――ぐはっ」


 隊長もまとめて倒された。


「ともちんは渡さない――ぐはっ」


「ともちんは私の方が――ぐはっ」


 さやりんときらりんもまとめて倒された。


「大丈夫か。ケガしてないか」


 翔太が呼びかける。壁にくくりつけられたともちんは、壁からほどかられると、力なく彼の前に倒れこんだ。


「翔太――」


「しっかりしろ、小知火!」


「私、もうだめかと思った……」


「ごめん。俺が来るのがもう少し早ければ、小知火にそんな心配をさせずにすんだのに」


「でも、Yahaa! のトップニュースに、翔太の熱愛発覚? の記事があったから、私捨てられたんだと思ってた」


「なに言ってんだ。熱愛発覚って、相手はお前だよ。小知火」


「えっ――そうだったの」


「あいかわらずおっちょこちょいだな。記事は最後まで読めよ」


「……ごめん」


「いや、俺のほうこそ、いろいろごめんな」


「なにいってるの。感謝するのはこっちでしょ。――ありがと」


 ともちんが抱きつく。翔太は彼女の体を優しく抱きしめた。




 日本は、メヘラポムキンの支配下に置かれた。


 だが二人の愛は、永遠に尽きることはない。たとえ国が亡びようとも。


 これからも、ずっと――。











「――ってな具合になるよ。彼氏ができたら」


 きらりんの妄想物語を延々聞かされ、ともちんはうんざりしていた。


「……そうね。そんな夢みたい、というか夢そのものの話みたいになればいいね」


「ひとごとじゃないよー。ともちんのことだよー」


「はいはい。おいしくいただきました。ごちそうさまでした」


「ごちそうさまでしたーーーーーーーーーーーーーーー!!」そのタイミングでさやりんがLサイズのマックスポテトを食べ終えた。


「次からは迷わず希望に進もう。うん。それが一番健康的だよね」


「太らなければね」


 ざくっと、ともちんの言葉がさやりんに突き刺さった。


「……きらりん。私が太ったら、カテキン緑茶、お願いね――」



 お読みいただきありがとうございました。


 亡国日本を舞台にした感動巨編とみせかけて、三人がマックスバーガーでただしゃべっているだけというお話。いかがでしたでしょうか。

 僕も思わず書きながらウルウルときてしまいました。翔太が助けにきてくれたところとか、特に。


 ……鼻で笑ってやってください。


 さやりん、ともちん、きらりんの三人によるトークでしたが、三人の会話を書き続けるというのはけっこう大変だなと感じました。二人なら簡単なんですけど。

 それぞれの口調で違いをもたせようとしたら、なんだかさやりんが「ちび○子ちゃん」みたいな話し方になってしまったり……いろいろ難しいです。


 三人のシリーズは、また書く……かな?

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― 新着の感想 ―
[良い点] 店に入るまでで相当長い件があったので、今度はレジの前で何かあるかなあ、とか思って読み始めたら既にポテト買った後だったので、展開早くて良かったです(^^) 後は会話の内容が青春っぽくて女子高…
[良い点] 話に時事ネタを自然に入れたり、女子高生が言いそうだなー!!と思うことを書いていて凄いな…と感動します。 この3人の会話のぶっ飛び具合がツボにハマってしまいます。 友達にいたら毎日楽しい…
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