なーろっぱ世界の短編 婚約破棄とか聖女とかドアマットとか転生とか
華麗なるオーレ! 淑女なら身に着けておくべきですね!
わたくしは侯爵家令嬢。8歳。
なぜか牛の着ぐるみを着た家庭教師と向き合っています。
「あの……」
「さぁお嬢様! 私を本物の牛だと思って相手をするのです! 突進して来た私を、ひらり、と躱すのです!」
大好きな家庭教師の先生なのですが、これはさすがに納得できません。
「わたくし……闘牛士になりたいわけではないのですが」
「わかっております」
「なら、なぜなのでしょうか? 淑女教育に闘牛士が……」
牛の着ぐるみを着た家庭教師は真剣な顔で。
「するのです。しなければならないのです。なぜならお嬢様は侯爵令嬢なのですから!」
その口調は切迫していました。
でも顔は牛ですけど。
「わけがわかりません!」
「お父上は入り婿、そしてなぜか御当主である奥様は近頃弱っていらっしゃる……となれば必要性は高いと見て間違いはありません」
「やっぱりわけがわかりません!」
「今はわからなくてよいのです。一生わからないほうがいいのです。ですが、身に着けておいてください。役に立つ日が来るかもしれないのですから」
わたくしはこの牛……ではなく家庭教師が大好きでした。
わたくしを後継ぎとしか考えていなくて厳しいばかりで冷たいお母様。
わたくしをたまに邪魔者を見るような目で見る以外は、無関心なお父様。
彼女だけがわたくしに、教師以上の愛情を向けていてくれました。
ですから、この奇行に関しても目をつぶることにしました。
だってお母様やお父様に言ったら、彼女が首になってしまうかもしれないからです。
「……わかりました……いえ、わけはわかりませんが。先生の言う通りにします」
「大丈夫です! お嬢様は筋がよろしいですから! では行きます!」
大好きな先生がおかしくなってしまわれた、という哀しみをこらえつつ。
牛の突進を交わし続けて半年。
わたくしは、どんな時でも、どんな場面でも、華麗に闘牛する技術を身に着けてしまいました!
「オーレ!」
しかもひとこえ「オーレ!」と叫べば、どこからか大観衆が集まる能力まで!
侯爵令嬢なのに!
「すばらしいです! お嬢様は私が見込んだとおりの素晴らしい方です! もう私が教えられることはありません!」
牛が泣いてます。牛が泣きながら拍手をしてくれています。
わたくし、どういう表情をしたらいいのでしょう?
10年後。わたくしは学園生。
お昼休み。
「オーレ!」
なんでも欲しがる義妹が後ろから突進してきたのを、ひらりと躱しました。
義妹は、凄まじい悲鳴をあげて、吹き抜けの4階からダイブして、1階のフロアに墜落!
ありえない角度で手足が曲がって動かなくなっていました。
なぜか学園生達がわらわら集まっていて、誰もが、わたくしを突き飛ばそうとした義妹が自滅するのを目撃していました。
最近、義妹とベタベタいちゃいちゃしていたわたくしの婚約者だけは、「アレが突き落としたんだ!」と言い張っていたので怪しまれ、わたくしに冤罪を被せようとしていたと認定されてしまいました。
わたくしは、罪に問われることがなかっただけでなく、性悪な婚約者とも婚約解消できました!
婚約者は悪評が広まり、実家を除籍され、放逐。
しかも、義妹が無残に急死したおかげで、義妹を溺愛していた義母は発狂!
発狂していろいろ口走ってくれたおかげで、義妹はお父様と義母の真実の愛の結晶でなかったことも発覚! お父様がお母様を毒殺したことも発覚! お父様は絶望!
今更わたくしにすがってきたので、バシッと拒絶! お父様は虚脱!
急遽、仮の当主となったわたくしは、ふたりを我が家から放逐するのに成功しました!
平民になったふたりは、平民が貴族を毒殺した罪で死罪!
なにもかもうまくいきました!
「こういうことだったのですね……」
わたくしは大好きだった家庭教師の先生に10年越しで感謝しました。
たくさんの作品の中から、本作をお読みいただきありがとうございました。
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別の物語も書いておりますので、もしよろしければ、そちらも覗いてみてください。




