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断罪される暇があるなら魔王を狩る!~国外追放される予定の悪役令嬢、レベルを上げすぎて伝説の冒険者になる~

作者: うささ29
掲載日:2026/01/12

「あら、マリアさん。そのドレス、メイドの寝間着かと思いましたわ。オーホホホホ!」


 私――セレスティーナ・フォン・アイゼンベルグは、学園のダンスパーティー会場で、平民出身の聖女マリアに最上級のマウントを取っていた。

 周囲の貴族たちがヒソヒソと囁き、第二王子を筆頭としたマリアに夢中な男どもが眉をひそめる。

 ええ、完璧な公爵令嬢ムーブですわ。


「セレスティーナ、そこまでに…」


 第二王子が騎士面して止めに入ってくる。

 はいはい、お約束ね。

 私は優雅に扇を開き――


 ――その瞬間、走馬灯のように頭の中を様々な映像が駆け抜けた。


(え、ちょっと待って)


 脳内に情報がなだれ込んでくる。

 前世の記憶。

 そして、この世界が乙女ゲーム『恋と魔法のクロニクル』の世界であるという事実。


(私、悪役令嬢じゃん!!)


 心の中で絶叫しながらも、表面上は完璧に優雅に笑みを保つ。

 これが公爵令嬢に叩き込まれた社交術の賜物よ。


「オーホホホ! では、ごきげんよう」


 その場を颯爽と去りながら、私の脳内は高速で記憶をたどっていた。


(確かこのゲーム、悪役令嬢は半年後の卒業式で断罪イベント。

 財産没収、爵位剥奪、んでもって魔物だらけの辺境に追放。

 特にその後は描かれてないけど、どう考えても魔物に食われてのバッドエンド――冗談じゃないわ!)


 控室に駆け込み、ドアを閉めた瞬間、私は優雅な仮面を投げ捨てた。


「はああああ!? ふざけんな!

 私の美貌と富と地位が!

 この完璧な公爵令嬢としてのステータスが!」


(落ち着け、落ち着けセレスティーナ。

 冷静に分析するのよ)


 深呼吸。

 そして、元廃ゲーマーとしての思考が起動する。


『恋と魔法のクロニクル』、通称『恋クル』。


 恋狂とも表記されるように、乙女ゲームとしてはかなり異色の作品だ。

 普通、乙女ゲームは、攻略対象と恋に落ちてハッピーエンドを迎えるのだが、恋狂はその上で魔王を倒し、王国を救ってハッピーエンドなのである。


 ロープレ要素強め、難易度マックスのそれは、画面の男子にキュンキュンしたいというターゲット層には不評。

 かわりに、難易度の高さからガチゲーマーがこぞってプレイした。

 私もその中の一人だった。


(断罪イベントを回避する方法は……。

 攻略対象に好かれる?無理。もう好感度マイナス999だわ。

 ヒロインに謝罪??プライドが許さない。

 じゃあ……逃げる?)


 いや、待て。


(逃げた先が魔物だらけの辺境なら、結局詰むじゃない)


 どこかの街に潜伏すれば魔物はいないが、見つかるリスクが高い。

 逃げても断罪されても辺境。

 ならば。


(魔物を――殲滅すればいいのよ!)


 そう、発想の転換だ。

 危険な土地が問題なら、危険じゃなくすればいい。

 パンが無ければお菓子を食べればいいのだ。

 魔王さえ倒せば、辺境は安全地帯になる。

 ゲームでは終盤、ヒロインと攻略対象たちが魔王を倒すイベントがあるが、悪役令嬢セレスティーナが辺境へ追放されるのは卒業式、ヒロインの出発は卒業式後。


(つまり、私が先に魔王を倒せば、追放されても快適な別荘ライフじゃない!)


 完璧な理論ね。

 我ながら天才だわ。


(今から半年。

 効率的にレベリングすれば……余裕で行ける!)


 鏡に映る自便に向かって、私は高らかに宣言した。


「オーホホホ!見ていなさい、このセレスティーナ様の真の力を!」


(よし、今夜から早速レベル上げよ。

 経験値効率最優先。

 装備も最適化して……そうと決まれば急いで準備しなくっちゃ……。


 こうして、史上最も効率厨な悪役令嬢の伝説が幕を開けたのである。




 その夜。


「お嬢様、お休みになられたのですね」


 侍女が私の寝室のドアを閉める音を確認してから、私はベッドから跳ね起きた。

 今見回りに来てから再度侍女が私の部屋を覗き込むまでおよそ1時間32分ほど。


「今晩の目標はレベル八十って所かしら?」


 クローゼットの奥に隠しておいた、動きやすい黒い服に着替える。

 スカートは膝丈、下にはスパッツ着用、ブーツは革製でグリップ力重視。

 腰には「錆びた短剣」を装備した。

 この装備、錆びていると嫌煙されがちだが、実は攻撃速度プラス五十パーセントが付いており、初期装備としては最高秒間ダメージが叩き出せる通なら知っている有能装備なのだ。


(あと、この世界には魔法があるから、貴族最上位の公爵家令嬢なら私も魔法適性があるはず……)


 手のひらに意識を集中させると、淡い青白い光が灯った。


「っしゃ!魔力操作は一発オッケーね」


(さすが公爵令嬢、基礎ステータスが高そうね)


 窓を開け、普段は絶対にやらない「塀を乗り越える」という下品な行為を慣行。

 先ほど覚えた魔力操作で、難なく着地する。


(身体能力も悪くない。

 このスペックなら、初心者狩場で経験値を稼ぐのは余裕ね)


 月明りを頼りに、屋敷の裏にある森へと向かう。

 ゲームでは序盤のレベリングスポットだった「囁きの森」だ。


 森に足を踏み入れると、さっそく魔物と遭遇した。


『グルルル……』


 体長一メートルほどの、緑色の狼――ゴブリンウルフ。

 ゲームでは最弱クラスのモンスター。


「あら、お初にお目にかかりますわね、下等生物さん」


(よし、まずは魔法の実戦テストよ。

 えーっと、ゲームでは初級魔法は詠唱なしで撃てたはず……)


 手のひらを向けて、イメージする。


「――ファイアボルト!」


 ボンッという音と共に、矢のような炎が発射された。


(よし!うまくいった!)


 しかし。


『ガウッ!』


 ゴブリンウルフは軽々と横に跳んで回避し、そのまま牙を剥いて突進してくる。


「なっ――!?」


(速い!ゲームと違って、敵のAIが馬鹿じゃない!)


 咄嗟に短剣を抜いて構える。

 が、剣術の訓練なんてうけたことがない。


『ガブッ!』


「きゃあっ!」


 腕を噛まれ……なかった。反射的に腕を引き抜いた瞬間、足が絡まって後ろに転倒。

 その拍子に短剣が手から離れ、回転しながら宙を舞い――


 ズシャッ。


『ギャウッ!?』


 なぜか完璧な軌道でゴブリンウルフの額に突き刺さった。


「……は?」


 モンスターは光の粒子になって消滅。

 地面には短剣と、小さな魔石が残される。


(えっ、今の……倒した……?)


 しばし呆然としていたが、すぐに気を取り直す。


「コホン。ええ、もちろん計算通りですわ。

 このセレスティーナ様に不可能などありませんもの」


(いやいやいや!今のは完全にまぐれ!てか、リアルの戦闘、ヤバすぎでしょ!)


 だが、ここで諦めるわけにはいかない。

 断罪イベントまで残り半年。

 辺境の魔物を制圧することを見据えるなら、少しも時間は無駄にできない。

 日々、ノルマを達成していかなければ。


(落ち着け。ゲーム知識を活かすのよ。

 おばかなAIじゃないモンスターに、魔法があるとはいえ、非力な公爵令嬢…。

 最初からの戦闘は無理――罠ね!)


 そう、私は効率厨。

 正面戦闘だけが狩りの方法じゃない。


 森の中を移動しながら、材料を集める。

 ツタ、尖った枝、石。

 そして、ゲーム知識で知っている『カエンダケ』の群生地へ。


「オーホホホ!見つけましたわ!」


 このカエンダケは衝撃を与えると爆発する。

 ゲームでは序盤の初心者ホイホイとして有名だったけれども、逆に利用すればトラップにもなる。


 30分後。


 森の一角に、私特製のトラップゾーンが完成していた。

 獣道にツタの罠。

 引っかかるとカエンダケが落下する仕掛け。

 ここで仕留められなかった魔物には、さらに逃げた先には落とし穴。

 穴の底には尖った枝。


 そして、囮として魔力を込めた布切れのゴブリンウルフの血をしみこませ木に括り付ける。

 魔力と血の臭いに引き寄せられてモンスターがやってくるはず。


「さあ、いらっしゃいませ。

 セレスティーナのおもてなしを、たっぷりと味わっていただきますわ!」


(よし、安全な場所で待機しながら、経験値うまうまタイムを堪能するわよ!)


 木に登り、枝の上で待つこと10分。


『グルル……』

『ガウガウ』

『ギシャアアア』


 ゴブリンウルフが三匹、さらに巨大ムカデみたいなのが二匹、臭いにつられてやってきた。

 罠エリアに突入した途端――。


 バシュッ!ドカーン!ギャアアア!


「オーホホホ!美しい爆発ですわ!まるで花火大会のようですわね!」


 高笑いをする私にはどんどん経験値が入ってくる。

 爆発でなんとか生き延びたモンスターも、次々と落とし穴で絶命していく。


『ギャウッ!』

『グギャアアア!』


 断末魔の声が響き、光の粒子が舞う。


「素晴らしいですわ!これこそレベリングですわ!」


 魔石を回収しながら、私は満面の笑みを浮かべた。


 この日を境に、「囁きの森」では謎の連続爆発事件が頻発。

 冒険者ギルドでは「森に爆弾魔が現れた」という噂が広まることになるのだが――

 それはまた、別のお話。




 そして、運命の日。


 王立学園の大講堂は、卒業式を祝うはずの華やかな装飾で彩られていた。

 だが、その雰囲気は重苦しい。


 壇上には第一王子リオンハルト、第二王子クラウス、騎士団長の息子アレクシス、宮廷魔術師の弟子ルシウス――つまり、ゲームの攻略対象オールスターズが居並んでいる。

 そして中央には、涙を浮かべた聖女マリアが立っていた。


(うわー、フルメンバーじゃん。本気の断罪イベントね)


 私――セレスティーナは、会場の中央に召喚された。

 周囲の生徒たちがざわめく。


「セレスティーナ・フォン・アイゼンベルグ」


 第一王子リオンハルトが、厳かな声で告げる。


「お前のこれまでの悪行を、ここに糾弾する」


(はいはい、イベントテキスト長いのよね。これ。前世でプレイした時、スキップしたわ)


 だが表面上は、優雅に扇を開き、口元を隠す。


「あら、殿下。ご機嫌麗しゅう」


 リオンハルトは私の態度に眉をひそめ、羊皮紙を広げた。


「まず第一に、マリア嬢への度重なる嫌がらせ。彼女の教科書を隠し、ドレスに墨を――」


「お黙りなさい!」


 私は扇をバシッと閉じて、一喝した。


「殿方の演説を待つほど、わたくしの時間は安くありませんの」


(だってマジ忙しいんだもん。昨夜も魔王城の最深部でラスボス戦してたのよ?寝不足なの)


 リオンハルトの顔が怒りで紅潮する。


「セレスティーナ!この場の重大性が――」


「それより」


 リオンハルトの言葉を遮り、私は優雅にほほ笑み背後の従者に合図する。

 従者が血まみれの大きな袋を、ドサッと壇上に放り投げた。


 鈍い音。

 袋から、黒い瘴気が漏れだす。


「なっ……!?」


「これ、魔王の首ですわ。正確には、首だと生々しいので、魔王が持っていた王冠と核ですわね。オーホホホホ!」


 会場が、凍り付いた。


「ま、まおう……?」


 マリアが震える声で呟く。


(そうよ魔王。あなたたちが倒す予定だった、あの魔王)


 放り投げられた袋から、私は漆黒の王冠を取り出す。

 王冠には今も禍々しい魔力が渦巻いている。だって昨晩とりたてなのだから。


「半年前から、わたくし夜な夜な森で魔物退治をしておりましてよ。

 最初はゴブリンウルフなどの雑魚――もとい、下級魔物ですわね。

 それが次第にレベルアップいたしまして……」


 私はふふふと優雅にほほ笑む。


「オーガ、ドラゴン、デーモン……と、順調に狩猟範囲を広げましたの。

 そして先週、ついに魔王城に到達いたしました」


 そう、レベル上げが楽しすぎて、辺境の魔物を減らすどころか、気が付いたら魔王城に突入していた。

 騎士団長の息子、アレクシスが青ざめている。


「ま、待て。

 魔王城は辺境の最奥部。

 歴戦の冒険者でも辿り着くのが困難な……」


「あら、簡単でしたわよ?」


(転移魔法陣を見つけて、ショートカットしたからね。効率厨を舐めるなよ?)


「道中の四天王も、すべて討伐させていただきましたわ。

 氷の四天王フロストロード、炎の四天王インフェルノ、雷の四天王ストームブリンガー、闇の四天王シャドウデスパイア……全員成仏させて差し上げました」


「そして魔王様には、昨晩永遠の眠りについていただきましたの。オーホホホ!」


 宮廷魔術師の弟子、ルシウスがガタガタと震えている。


「そ、そんな……魔王討伐には、聖女の浄化魔法と、我々の連携魔法が不可欠なはず……一人で倒せるわけが……」


「あら、意外と簡単でしたわよ?」


(パターン覚えたらゴリ押しよ。

 カエンダケを大量に投げ込んで、罠を張りまくって、魔力ポーション飲みながら魔法連射。

 物理で殴って、毒も盛って。あらゆる手段を使ったわ)


 私は優雅に髪をかき上げる。


「ちなみに、証拠が必要でしたら冒険者ギルドにご確認を。『夜の淑女ミッドナイト・レディ』名義で、魔王討伐のクエスト報酬を申請済みですわ」


「よ、夜の淑女……まさか、あの最近話題になっている凄腕冒険者!?」


 会場がどよめく。


(そうよ。半年間、覆面で冒険者ギルドに通い詰めた結果、いつの間にかランクSになってて、ギルドマスターには「あんた人間か?」って言われたけど)


 マリアが、顔を真っ青にして口を開く。


「そんな……わ、私たち、これから魔王討伐のたびに出る準備を……」


 そう、ゲームのシナリオでは、卒業式の後、聖女マリアと攻略対象たちが魔王討伐の旅に出るはずだった。

 彼女の後ろには、旅支度を整えた荷物が積まれている。


「あら、マリアさん。その冒険者用のバッグ、とてもお似合いですわ。

 ですが残念、魔王はもう存在しませんの」


 マリアは状況がうまく呑み込めないのか呆然としている。


「辺境の魔物も、九割方駆除済みですわ。

 今では安全な観光地として開発が進んでおりますの。オーホホホ!」


「え……?」


(実際、魔物狩りすぎて、辺境がめっちゃ平和になった。

 地元の人たちから「森の守護者様」って呼ばれるようになっちゃったし)


 マリアの顔から、血の気が引いていく。

 旅装束用に準備していた杖が、カラン、と床に落ちる。


「そんな……私の、聖女としての使命が……冒険が……」


(あー、そっか。ヒロインの存在意義、丸ごと奪っちゃったわ)


 第二王子クラウスが、震える声で言った。


「セレスティーナ……お前は、一体……」


「ですから申し上げておりますでしょう?

 わたくしは、セレスティーナ・フォン・アイゼンベルグ。

 この国の公爵令嬢ですわ」


 私は壇上に居並ぶ攻略対象たちを見渡す。


「さて、わたくしを断罪なさるとのことでしたが――魔王を討伐した功績は、国家に対する貢献として認められますわよね?」


「それは……」


「ついでに申し上げますと、魔王城で接収した財宝と魔道具の数々、その八割を国庫に寄付する書類を、昨日提出済みですの」


(残り二割で一生遊べるからね。断罪回避、自由な生活のために念には念を入れないと)


 リオンハルトが、頭を抱える。


「セレスティーナ……お前という人間は……」


「オーホホホ!ですから、わたくしの断罪とやら、取り下げていただけますわね?」


 私は優雅に一礼する。


「それでは、ごきげんよう。

 わたくし、これから辺境の別荘でのんびり暮らしますので。

 あ、マリアさん?もしお暇でしたら、お茶会にでもいらして?

 今は魔物もいませんから、安全ですわよ?オーホホホホホ!」


(よし!完璧!これで断罪回避、自由な生活ゲット!)


 こうして、史上最も効率的に悪役令嬢断罪ルートを回避した私の、新しい人生が始まるのであった。


 ……のはずだった。


「お待ちください、セレスティーナ様!」


 リオンハルトが叫ぶ。


「その実力と功績、このまま放置するわけにはいきません!

 貴女には、王立騎士団特別顧問に就任していただきます!」


「は?」


(えっ、ちょっと待って。私、のんびりスローライフする予定なんだけど!?)


「さらに、魔王討伐の功績をたたえ、新たに『辺境伯』の称号を授けます!」


「ちょ、ちょっと!」


(爵位なんていらないし!仕事増えるじゃん!)


 マリアも、荷物を放り出して駆け寄ってくる。


「セレスティーナ様!私も、貴女の下で修行させてください!

 冒険者のいろはを教えてください!」


「お断りですわ!」


 かくして、断罪を回避したはずの私は――


 逆に、国の英雄として祭り上げられる羽目になったのである。


「誰か……誰か助けてくださいまし……」


 優雅な仮面が、音を立てて崩れ落ちた。





 それから一か月。


 王城の謁見の間は、連日押し寄せる来客で溢れかえっていた。


「セレスティーナ様!我が商会に、辺境開発の独占権を!」

「セレスティーナ辺境伯!娘を弟子にしてくださいませ!」

「救国の英雄様!サインをください!」


(うるさい、うるさい、うるさーい!)


 私は優雅な笑みを浮かべながら、内心では絶叫していた。


「皆様、ありがたいお言葉ですわ。ですが、わたくしは多忙ゆえ――」


「セレスティーナ」


 玉座から、リオンハルト王子が声をかける。


「本日の議題だが、君には新設される『魔物対策特別部隊』の隊長に就任してもらいたい」


「お断りですわ」


 即答。会場がざわめく。


「セレスティーナ……国のため――」


「殿下」


 私は扇を開き、優雅に微笑む。


「わたくしは、殿下との婚約も解消させていただきましたわよね?」


 そう。一週間前、私は王子との婚約を破棄した。

 向こうからは「婚約継続を」と申し出があったのを、丁重にお断りした。


「魔王より弱い殿方に、興味はありませんの。オーホホホ!」


(本音は、ただ、王妃とか政治とか面倒くさいだけなんだけど)


 リオンハルトの顔が引きつる。


「あれは……訓練不足だっただけで……」


「あら、昨日の模擬戦でも、わたくしの勝利でしたわよね?」


 昨日、リオンハルトは三秒で沈んだ、レベル差がありすぎるのだ。

 会場のあちこちから、クスクスと笑い声が漏れる。


 その時、扉が開いた。


「セレスティーナ様ー!お茶会のお誘いに――」


 マリアだ。

 すっかり私に懐いてしまった彼女は、毎日のように王城に通ってくる。


(めんどくさい……)


「マリアさん、わたくし今から出かけますの」


「えっ、どちらへ?」


 私は優雅に髪をかき上げ、窓の外を見る。


「隣国ですわ」


「え?」


「最近、隣国で『古代魔獣』が復活したという噂を耳にしましてよ。

 ゲーム知識――もとい、古文書の知識によれば、それは魔王をも凌ぐ力を持つ裏ボスですわ」


(ゲームでクリア後のやり込み要素だったやつ。経験値とレアドロップがめちゃくちゃ美味しいのよね)


 私は扇を閉じ、周囲を見回す。


「ですから、狩りにいってきますわ。オーホホホ!」


「ま、待て!国際問題に――」


「ご心配なく。冒険者ギルド経由で、正式なクエストとして受注済みですわ。『夜の淑女』名義で」


 この国の貴族が出しゃばっていくのは問題だが、冒険者がクエストで行くのには何の問題もない。

 私はドレスを翻し、謁見の間を後にする。


「セレスティーナ様、お待ちください!」


 マリアが追いかけてくるが、私は振り向かない。


「マリアさん、貴女は殿下たちとイチャイチャしていればよろしいのよ。

 わたくしには、もっと崇高で心躍る目標がありますの」


(次のターゲットは古代魔獣。その次は伝説の竜。そして次は深淵の悪魔。やることリストが山積みなのよ!)


 城門を出ると、既に準備していた馬車が待っている。

 いや、馬車ではない。

 魔王城から回収した『浮遊魔導車』――空を飛べる超高速移動手段だ。


「さぁ、参りましょうか!」


(移動時間も短縮、効率厨には必須のアイテムだったから、手元に残しておいたのよね)


 魔導車が浮上する。

 後方では、マリアと王子たちが何か叫んでいるが、もう聞こえない。


「オーホホホホホ!見ていなさい、この世界の全てのボスモンスターどもよ!

 このセレスティーナ様が、効率的に狩りつくして差し上げますわ!」


 魔導車は、夕日に向かって飛翔する。

 元悪役令嬢は、もはや誰にも止められない。

 彼女の冒険は――まだまだ、続く。






「……行ってしまったな」


 リオンハルトが、空を見上げて呟く。


「あの人、もはや人間の領域を超えてますわ……」


 マリアが、ため息をつく。


「だが、おかげで世界は平和だ。魔物の脅威は激減し、人々は安心して暮らせる」


「それって、私の聖女としての役割が……」


「マリア嬢」


 クラウス王子が、優しく微笑む。


「魔物の脅威を退けるだけが聖女の役割ではない、君は君の道を歩めばいい。

 セレスティーナは……もう、誰の手にも負えない」


 その日の夜。

 隣国の古代遺跡で、謎の大爆発が観測された。


 翌日、冒険者ギルドには『古代魔獣討伐完了』の報告書が、魔獣の首と共に届いたという。

 差出人は、もちろん――『夜の淑女』。


 セレスティーナの伝説は、今日も更新され続ける。



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― 新着の感想 ―
セレスティーナが断罪を回避するために魔王を倒すという逆転の発想が面白かったですが、効率を追い求める廃ゲーマーとしての知識を公爵令嬢のプライドで包み隠し高笑いしながら爆弾を仕掛ける姿には爽快感がありまし…
2026/01/13 17:08 退会済み
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