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第三話 【突然 訪問 一番隊隊長】


「あー勉強嫌だー」


 あれから二日経って月曜の夕方、私は公立霊日(れいか)高校の下校道を憂鬱とした気分で歩いていた。


「まぁまぁそういわずにさ!ゆうっちが望むなら勉強手伝うから」


「いいですよねー勉強が出来る人はー!」


 私は隣を明るく歩いている千華をねたむように見た。なんでこの人いつも遊んでるのに学年一位か二位取れるんですか?おかしくないですか。


「そういやゆうっち、幽霊? になってから不便なことってあるの?」


「んーいや不便なことは特にないよ。例えば‥‥ほら」


 私は見せつけるように前にあった電柱を半透明になって通り抜ける。


「ほら‥‥でやっていい事ではないと思うよ。ゆうっち」


「これホントに便利なんだよね。家のふすまいちいち開ける手間が消えたから急いでるときはよく使ってるよ」


 実際両手が荷物で防がれてるときとかふすま開ける必要がないから楽なんだよね。かゆいところに手が届く感じ。それとこの透明化って案外気合でどうにかなるんだね。


「え、じゃあもしかしてトイレとかも‥‥」

「流石にトイレは‥‥うん、ちゃんと開けてる‥‥よ」

「そういう反応が一番不安だなー」


 絶対感じてないだろう冷や汗を額に感じる。


 ◇◇◇


「はい、なーは。あんぱんとおにぎり」


「ん、ありがと」


 私の家に戻って勉強を終え休憩時間の時に私は自分で握った塩おにぎりと自分で試しに作ってみたあんぱんを机に置いた。私はあんぱんではなく塩おにぎりに手を伸ばして口に運ぶ。

 若干いつもより塩気がない気がするがまぁあんぱんも同時に作ってたから塩の調整を間違えたんだろう。多分‥‥‥。


「どう‥‥かな、初めてあんぱん作ってみたんだけど」


「最高においしいよ。ゆうっちってホント料理とか得意だよね。‥‥タマとかも最近はゆうっちの料理食べてるの?」


「あぁうんそうだよ。とはいえ普通に人の姿でもおやつ感覚でキャットフードも食べてるよ。おいしいらしいよ、魚介のうまみとかが凝縮されてて」


「よく分からないねその感覚」


「そうだよねー」


 味覚とかどうなってるんだろう。

 あっ!あれか何年も生きたから味覚がちょっとおかしくなったとか‥‥‥! ‥‥‥うん、絶対違うことだけは分かる。


 ――ピンポーン


 突然玄関の方からインターホンの音が聞こえた。聞こえた瞬間すぐに玄関のある方向に首を向けたが心当たりは特になかった。

 宅配便でなんか頼んでたっけ?値段には目を瞑って勢いで頼んでたフィギュアが届くには一か月くらい早いよね。となると千華がなんか頼んでたのかな。


「なーは、なんか頼んでた?」


「何も‥‥頼んでないけど。一応行ってくれば、最悪今のゆうっちならどうとでもなるでしょ」


「分かっ‥‥た、ちょっと行ってくる。私の分のあんぱんは残しておいてね。なんだろう、こんな時間に」


「了の解」


 その言葉を聞いてから私は立ち上がり駆け足気味で玄関に向かった。千華のでもないのか。

 えっマジで何だろう、タマの?いやタマがこういうのやるかの前にスマホ持ってないよね。

 まー最悪の場合透明化してどうにかしよう。


 ◇◇◇


 玄関の門の所には長髪の黒いポニーテールに浅葱色のだんだら羽織をまとって刀?らしきものを腰に掲げている女性が周りを目新しそうに見ていた。

 あれ誰なんだろう。新選組のコスプレをしてるのかな。


「あのーすみません。うちに何かようですか?」


「あっ本当に来た。すごいですね、今の日の本というのは」


「??? えっと、どちら様ですか」


「はっ!? この沖田総司、ついつい周りに魅了されていました! 真に申し訳ありません!」


 ん? 今なんて言った。確か沖田総司って言ってた‥‥よね。???? 思考が止まるというより情報量で殴られている気がする。


「あっそのー沖田総司って名前であってますか?」


「はい、そうです。私は新選組一番隊隊長沖田総司と申します」


「ええええええ!!!!!」


 聞き間違いじゃなかったああああああ!!!! え、本当の本当にあの沖田総司なの!? 


「えっと、そそ、そのーとりあえず中にどうぞ」


「ありがとうございます。では失礼します」


 困惑しながらも沖田総司?を奥に案内する。


 ◇◇◇


「改めまして私は冷静沈着の剣士、沖田総司と申します。突然の訪問に出て頂きありがとうございます」


 沖田さんは綺麗な顔立ちのまま座布団に正座をして座っていた。その様子を一言で表せというなら雪の美人が現れただろうかと思うくらいに座っている姿がとても美しかった。


「女性なんですか。その‥‥沖田さんは」


「はいれっきとした女性ですよ」


「(‥‥だってさなーは‥‥どうしよう)」


 少し悩んだ末に隣に座っている千華にしか聞こえないくらいの声で話しかけた。


「(わたしに聞かないでよ、急にそんなこと言われたって分かるわけないじゃん)」


「どうしたんですか、お二人とも」


「「なんでもないです」」


 沖田さんがこそこそ話している私たちに女神かと錯覚しても問題ないくらい優しそうな笑顔で話しかけてきて私と千華の声が被った。


――バンッ!!


「!?」


「「タマッ!?」」


 突然ふすまを勢いよく開けてタマが現れた。沖田さんは横に置いてある刀を一瞬にして構えた。


「落ち着け、沖田」


「??? どなたですかあなた」


「ああそういやこの姿だと初めてか? チッ、土方の野郎教えてなかったなくそが。まぁいい、それよりふざけてるのか、お前」


 えっ、タマ今舌打ちした?怖いんですけど。タマっていろんな人格が中にあったりしないのかとそう思っちゃうほど昔の人たちへの呼び方が多彩すぎる気がするんだけど。


「??? どなたか存じ上げませんが私は一向にふざけておりませんよ。冷静沈着、それを具現化したのが私ですから」


「あ、あのあたし達を置いて行かないでくれる?」


「ボクは墨丸だ、っていえば分かるか。あとなお前の場合は傍若無人とか軽挙妄動の方が合ってるだろ」


「なぁって、聞いてるの!!」


「なーは、ここは一回静かにしておこうよ‥‥」


 私は怒っているように見える千華をなだめながらタマと沖田さんの会話を聞く。面識あるのかなタマと沖田さんは。それより墨丸って何!? 質問したいんですけど!?


「墨丸ってあの墨丸ですか? 黒猫の?」


「その墨丸だ」


「‥‥‥嘘ですよね」


「事実だ。何だったらお前が土方の野郎にいたずら返しされた回数でも‥‥」


「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!! そ、そそそそれだけは言わないでください!!!! あなたが墨丸って分かりましたからぁぁぁ!!! というかあなた猫じゃないんですか!?」


 なぜだろうかこの人が纏って雪のような美しさが一気に溶け切った気がするというより絶対溶けたと断言できる。


 ◇◇◇


「もう一度だけ、自己紹介をします。最強無敵の沖田総司さんです。沖田さんでいいですよ。‥‥はぁもうせっかくのキャラづけが‥‥‥あーだるっ」


 さっきまで凛々しかった姿はどこにいったのかと分からないほど親しみやすさを感じる姿へと変貌していてあと一つのあんぱんに手を出した。それにしても人とは不思議だなと思う、さっきまであんなに凛々しかったのにダウナー系?になるんだから。


「あっそれ私の‥‥」


「おいしいですね、これ。中に入っているのはあんこですか? それにこの生地、饅頭ではないですね。ですが、あんこの甘さを引き立たせるような工夫が施されてますね。これはなんという食べ物何ですか!」


 目を輝かせながら沖田さんはあんぱん食べている。工夫って言われてもネットで調べたレシピ通りに作ってたから分からないとは口が裂けても言えないよね。そう思いながらも私はほんの少し緊張しながら口を開く。


「あんぱんです‥‥」


「あんぱんですか! いいですね!」


 自分で食べれなかった心残りもあるがおいしそうに食べくれたからその心残りはほぼ消えている。


「さて、沖田。さっきのあのお前に合わなすぎるキャラ付けを治してもらったところで聞きたいことがある」


「ん?なんですか」


「どうしてここにいる?」


「‥‥どうしてと言われても私が聞きたいですよ。目が覚めたら知らない建物達が周りにあってとりあえずこの宝石が示す所に向かったらここにたどり着いたんですよ」


「それって魂石!?」


 沖田さんは胸から取り出した浅葱色の魂石を机に置いた。


「知ってるんですか!? この宝石について!?」


「は、はい!」


「‥‥‥なるほどな、よし千華時間もあれだし一回帰ってろ」


 タマは時計を見てからそういった。私も時計を見ると既に19時を回っていた。時間経つの早!


「え、あっ分かっ‥‥た。じゃあ、ゆうっちまた明日ね」


「うん、また明日」


 ◇◇◇


 午後十九時、千華は家に帰り私は夕食の準備をしていた。今日は沖田さんもいるので焼きジャケとかの和食の方がいいのかなと思い今は卵焼きを作っている。

 私の好みとしては塩気が強い方が好きなので塩を多めに入れている。逆に甘いのは何か苦手だ。別に食べれないわけではないんだけどご飯の進むペースが遅くなるから甘くはしない。


「うんうんいい感じ、あっけどいつもより塩気がないからもう少しだけ入れようかな」


 さっきの塩おにぎりもそうだけど最近料理の腕落ちたのかな。そう考えながら塩をもう一振りかける。


「やぁ我が君、いい香りがしたものでつい来てしまったよ。うん実においしい」


「!?」


 後ろを振り向くとそこには謎の男性がタマの分の卵焼きを指でつかみ丁寧に食べていた。


「それ、タマの分!」


「おっとそれは失礼。ただまぁこれに関しては俺という生物の生き方に従ったのみだ。それと俺のことは『謎』という言葉の頭文字からとってNとでも呼んでくれ。これは食べてしまったお詫びだ」


 謎の男性はNと名乗り胸からせんべいを数枚置いた。ってそのせんべいって近所で最も古い和菓子屋『大河屋(たいがや)』の一日50枚限定の奴じゃん! 

 それと盗み食いするのが生き方ってなんだよ!?


「えっと何しにきたんですか、Nさん」


「我が君のご飯を頂きに来たというのも目的の一つだがもう一つ我が君に進言しに来たんだよ」


 ふざけんな! と思い右拳をりんごがつぶせるだろうと思うくらいの強さで握る。殴りたくなったがなんか殴っても避けられる気がした。

 だがな! それを抑えられるほど私はおとなしくない!! そう思い怒りと勢いに任せてNの顔面目掛けてストレートをぶっ放した。


「あっはっは何をするんだい我が君」


 案の定簡単に横にずれられて避けられた。笑っているのが余計に精神を逆なでさせやがる‥‥‥!! 

 うっ‥‥これ以上は我慢しよう。


「進言ですか?」


 我ながらよくむかついてるときに笑顔とまではいかないが冷静に真顔で返せたことに驚いている。


「そうとも、我が君。沖田総司を狙う復讐者が現れるという進言をね」


「!? どういうことですか!?」


「正確に言うと新選組に恨みを持っている者が現れるよ、我が君。その時に君がどのような選択をするのかを遠くから見届けてさせてもうよ」


「消えた‥‥」


 Nはそれだけ私の前からまた消えた。本当に何者なんだろう。そう思いながら私は再び夕食を作り始めた。


 ◇◇◇


 町はずれの山奥にポツンと空き家があった。人が住んでいた形跡はあるにはあるがたいていが既に使い物になるのか怪しいレベルに壊れたり腐ってたりしていた。


「ふふふ、落ち武者がやられましたか。まぁいいでしょう。所詮はただの負け犬から生まれた魂石ですからね」


 そんな空き家のリビングだった場所で空き家の見た目と相反するようなレベルで高級な椅子に座っているムジナが居た。


「ムジナ様‥‥‥ご報告です」


 そんなムジナの所の後ろからスーツ姿の男性が歩いてきた。


「あなたですか、流石は勤勉のサラリーマンの魂石ですね」


「おほめに預かりありがとうございます」


「それで報告とは」


「まずはこちらの英雄の魂石となります」


 そういって男性は胸から水色と赤色が混ざったような魂石を取り出してムジナに差し出した。


「なるほど、これはこれは面白い魂石ですね。それで他には」


 ムジナはそういいながら男性から魂石を取り少しだけ眺めた後に机に置いた。


「あなた様以外の妖の気配をキャッチしました。いかがしましょう」


「そうですか‥‥‥とりあえず放置で、あなたは引き続き魂石の収集と言いたいところですが‥‥‥ふふ別の仕事を与えます」


 ムジナはそういいながら机に置いた魂石を眺めて高笑いをした。


「なーにやってんの? ムージナ」


 突然、高笑いをしているムジナの後ろの机に横になりながら話しかけた20代くらいの容姿の女性が現れた。


「あ?なんだクレインですか。その机から早く降りやがれください」

「へいへーい」


 ムジナの言う通りに女性__クレインは重さがあるのか疑問視するほどふわっと机から降りる。

 ロングの黒髪とその髪と相反するような真っ白の着物が特徴的でまた赤みがうっすらかかった金色の瞳は見たものの目を吸い込むような魅力を放っている。


「ムージナ、あんたワタシに隠してるのなーいー?報連相は重要だぞー」

「はーなんでお前なんかに‥‥‥まぁいいでしょう」


 ムジナは手を少し額に当てた後に諦めたような声で話した。


「あのお方の復活を分かっているかのようにあの桜が目覚めました。以上です」

「へーワタシ生まれた時代的に会ったことないからあれだけどうーん楽しそうだね。前は平安だっけ」


「そうですね。あの安倍晴明が生まれるより少し前の時代に‥‥‥まぁ先代に比べてまだ弱いですし放っておいても問題はないですね」


「あーそっ、じゃ困ったら頼れよー」


 そうれだけ言い残しクレインは透明化して消え去った。


 ◇◇◇


「んーしょっぱくてとってもおいしいです」


「それは良かったです。それより‥‥‥その着物は?」


 リビングに座りおいしそうに卵焼きを食べている沖田さんは先程のまで羽織っていただんだら羽織を脱いでいて赤色と紫色のラインが交差している着物を着ていた。


「ああこれですかタマがくれたんですけど似合ってますか?」


「はい、とっても可愛く似合ってますよ」


「可愛い‥‥‥ですか、案外言われると恥ずかしいものですね」


 ほんの少し沖田さんは頬を赤らめていた。その顔は歴史書で言われているような鬼の新選組隊長の顔ではなく一人の女性らしい顔だった。いや、沖田総司が女性だった事が意味不明なんだけど。


「そういえばタマってどこ行ったか分かりますか?」


「タマ‥‥‥あぁ墨丸のことですね。なんかトイレ行くって言ってましたよ」


 タマの姿が見えないと思ったらトイレ行ってたんだ。思うんだけどタマの尻尾って触ったらどうなるんだろう気になる。とても気になる。


「ところでお名前を聞いていませんでしたね。聞いてもいいですか?」


 名前、名前‥‥‥あっ!? 言うの忘れてた!? 慌てて私は食べていた箸とお茶碗を机に置いた。


「あっえっと私の名前は早見優花と言います」


「なるほど、優花殿でいいですか」


「別にいいんですけど、その‥‥‥刀とか元々来ていた服とかはどうしたんですか?」


「それはタマが案内してくれた優花殿の部屋の隣の部屋に()は置いてきました。なんか『どうせこれからここで生活するんだから好きに使え』とも言ってました」


 これから‥‥‥生活‥‥‥する‥‥‥!? 沖田さんは笑顔でそういっていた。


「住むんですか!? こんな広いだけの所に!?」


 本当にただただ広いだけで生活に最低限の物しかないですよ!? 住むんだったらまだ千華とかの方が。


「どうでしょうかというのが本音ですが恐らく他に当てもないのでここに住むと思います。‥‥‥あっ、とっても美味しかったです。ごちそうさまでした」


「えっあっどうも、お皿は台所に置いといてもらえたら洗っておくんで」


「分かりました、そうしますね」


 その言葉で沖田さんの方の食事を見ると何一つ残さず綺麗に食べ終わっていた。早くない? 私まだ三分の一くらいしか食べ終わってないんだけど。少し驚きながらも台所に歩いて行く沖田さんを目で送った。


 ◇◇◇


「お前、刀だけ透明化って器用すぎるだろ‥‥‥」

「ふふっ意識すれば全然簡単ですね」


 屋敷の廊下でばったりと会った沖田とタマが会話をしていた。沖田の腰を見ると刀をしっかりと構えていた。


「それに嘘はついてないですしね。服は部屋に置いてあるので」

「いやな、せめて食事中くらい刀おいて来いよ」

「無理です。私はどうやったて、ゴホッ!ゴホッ‥‥‥!」

「!? 大丈夫か!?」


 話している最中突然沖田は口を押えて床に膝を落とす。タマはすまんと言わんばかりに表情が曇りながらも沖田に寄りかかる。

 一度咳が収まり沖田が手を見ると手のひらには血がついていた。


「ははっ‥‥‥これは治らなかったですか‥‥‥」


 乾いた笑いを沖田はついた。


「沖田、お前の‥‥‥」

「いえタマが曇るようなことではないですよ。‥‥‥あのーやっぱタマっていうのなんかめんどくさいから墨丸って呼んでもいいですか」


「あっ?あぁ別に構わないが」

「ふふっ、あーだるかったー。ところで厠ってどこですか?」

「ここをまっすぐ行って右だ」

「ありがとうございます!」


 そういって沖田はトイレに走っていった。その背中をタマはゆっくりと顔を上げながら見ていた。


「お前の望みはどうすれば」


 それだけ言い残して。


 ◇◇◇沖田side


「ふーしかし今の日の本の厠は面白いですね」


 沖田さんは今廊下を歩いています。

 いやーしかしたった数百年でここまでこの国が成長しているとは驚きですね。それに優花殿の料理もおいしいし生前に頑張ってよかったですね。

 あわよくば近藤さんや土方さんにも今の世で会いたいんですけど。まぁそれは流石に‥‥‥


「欲張りですね」


 あーだるい、蘇ってから思うんですがこの家の中はいいんですけど外の空気が悪いですね。

 不思議です。

 屋根なんてないはずなのに空気が外とまったく違う、それこそここだけ時間が昔から一切進んでいないような。


「あの桜‥‥‥」


 綺麗なほど怪しいです。この屋敷の中央に綺麗なまでに満開に咲き上がっている桜。

 ですが今季節でいえば秋のはずです。なのに満開に咲いてる。怪しすぎます。

 まぁ今の私には関係ないからいいですが。あとそれとは別件ですが‥‥‥。


「‥‥‥ん」


 突然、矢が飛んできたので手で止めました。

 腰に構えている(こいつ)で斬ってもよかったのですがなんか紙がついていたので止めました。


「さて何でしょうか」


 矢から紙を取ってみると『果たし状』と書かれており中には‥‥‥。


「なるほど、受けて立ちましょうこの沖田総司の名に懸けて」


 果たし状を握りつぶす。正直言ってだるいが一刻も早く部屋に帰って羽織を羽織って指定の場所に行こう。


 ◇◇◇


 数時間後、私は町はずれにガレージに足を運びました。やはり空気が若干悪い、我慢すればいいだけなのですが嗅覚が鈍るので正直最悪ですね。

 そう思いながら足を進めていくと屋根が開いたのか月明かりがガレージ全体に届きます。

 屋根のあれはガラスという物なのでしょうね。


「よう、総司」


 月明かりが入ってきたことで目の前の椅子に堂々と座っていた人が見えました。

 屈強な身体に浅葱色のだんだら羽織を羽織っている私たちが一度闇討ちした男__芹沢鴨が居ました。

 はぁ、ため息が出ました。なんででしょう、相手が相手だから?いや、それならまだあの人斬り彦斎の方が理解できます。


「なるほど、あなたでしたか‥‥‥芹沢さん。だるいんでさっさと斬りますよ」

「ははっよく言うようになったな、あんときの小娘がよ。なぁ総司」


 尊敬はしています。子供にも私には確実に劣るとしても山南さんや土方さんよりは人気がありましたし、めんどくさい仕事もちょろと引き受けてくれたし‥‥‥ですが、まぁ蘇って最初に出会う知り合いが芹沢さんですかーと残念に思う程度の関係性でもあります。

 タマはノーカン?という物です。


「‥‥‥」


 刀を無言で抜きました。月明かりが刀の刃をうっすらと照らす。


「まぁまてや少し話をしようぜ」

「話‥‥‥ですか? あいにくですがあなたと話すことはないですしそれに‥‥‥あなたへの興味はもうあの夜に消えましたから」

「へぇおっかないな。俺を複数人で闇討ちしておいてかよ」


「‥‥‥」


「都合が悪くなったらすぐ無言かよ。変わってねぇなぁ!!」


 刀と刀がぶつかり火花が綺麗なまでに散った。そして、その場で力が拮抗する‥‥‥はずでした。


「は!?」


 後ろに私の軽い身体が吹き飛びました。いくら何でもありえない。 なのにどうして‥‥‥!


「どうした天才さんよ。あの夜の時みたいに俺を殺してみろよ」

「一体‥‥‥何が」


 上手く受け身を取ってから再び立ち上がりました。痛い、久々に痛みを感じた。病床に倒れきりになってから久々に。


「簡単な話だ。復讐心が俺を強くしてくれてんだよ。お前らでいう気合ってやつだ。なぁどうした、もっと頑張れよ。出来損ないのヒーローさんよぉ」


「はっ、ヒーローですか、ふざけてるんですか?」


 トーントーン、その場で息を整えながらリズムよくジャンプする。


「何か違うところでもあるのかよ」


「えぇ、私は所詮人斬りですから‥‥‥」


 一で風を斬り、二で音を超え、三で絶命へ。絶技‥‥‥


「三段突き!」


 三度目の突きを一度目より早く相手に届かせる、天才の私だからたどりついた剣術。

 常識? 世界の法則? ルール? そんなものこの剣術が出来た瞬間に置いてきました。


「‥‥‥はぁ!!」


「ぐっ」


 完全に決まりましたとは言えないですがそれでも横腹に二回の突きが決まりました。すぐに後ろに下がり腹を抑えている芹沢さんの様子を静かに伺います。


「流石だな、腕は落ちてないようだな、狂犬」

「横腹にその傷でまだ余裕があるんですか」


「どうだがな、だがなお前の弱点そろそろだぜ」


「? ゴホッゴホッ!」


「ほらな‥‥‥!!」

「なっ‥‥‥」


 しまった‥‥‥。反応がほんの少し遅れてせいで襲いかかる刃を防ぎきれず肩に切り傷を負いました。

 もう一度後ろに下がり息を整えると共に肩を抑えます。

 

 視界が揺らぐ、鼻の中にかすかに血の匂いが襲ってくる。


「はぁ、はぁまだ‥‥まだ‥‥‥」


 声がかすれていく。呼吸をするたびに荒くなっていく。まずい、どうする。もう一度三段突きを‥‥‥いやこの状態でやって外したら余計に悪化する。


「ははは! もう少しいたぶってやんよぉ!!」

「そんなこと、ゴホッゴホッ、ガハッ」

「ははは!!」


 舐められているのか知りませんが再び咳をして身体がよろけた私の腹に芹沢さんは大岩がぶつかったのではと錯覚してしまうほど硬くて重い蹴りをぶつけて私は後ろに転びこんだ。


「無様だなぁ、天才剣士がよぉ」


「そこまでです、芹沢さん。ムジナ様の命令にいたぶるのは入っておりません」


 突然声がしました、声がした方に振り向くと昼間見かけたサラリーマンという人たちと同じ服装をした男性が魂石を握って立っていました。

 味方ではないと私の本能が告げます。


「ちっ、まぁいい。てめぇに従うの癪だがムジナとは約束があるしな」


「なっ何を‥‥‥」


 別に聞いても聞かなくても結果はそこまで変わらないでしょう。


 けどもしかしたら少しだけ時間を稼げば‥‥‥バカですか私。

 立て私、立ち上がれ私。新選組で何を知った、あきらめるな。一人だとしても最後まで抗え、最期まで刃として生きろ。

 最期まで戦えなかったんだろう、だから今ここで‥‥‥!


「ま、まだ‥‥」


「くそがまだ立つのかよ。めんどくさいなぁ、てめぇらの『誠』っていうのはよぉ!!」

「ガハッ」


 起き上がった体に再び蹴りが入り地面に倒れる。


「芹沢さん、それ以上命令外のことをするなら‥‥・」


「わぁてるよ。ちっ短気野郎が」


「うっ‥‥‥」


 起き上がれ起き上がれ起き上がれ起き上がれ‥‥‥。力を込めてももうこれ以上身体はピクリとも動かない。

 

「まぁいい、もらうぞ、その力」


「ここまで‥‥‥か」


 芹沢さんはなにやら黒い魂石をこちらに向けてきました。あははここまで‥‥‥ですね。


春道(サクラ) 一閃!!》


 壁の方から音がした。そっちに首を動かした。すると。


「はぁっ!!」

「何っ!?」


 壁を壊しながら大鎌を構えた優花殿が現れました。何故、それ以外の言葉が出なくて口が閉じませんでした。


「だ、大丈夫ですか沖田さん」

「えっ、あっあぁ優花殿どうしてここが‥‥‥」


 誰にも伝えずにここに来たはず紙だって燃やして捨てたはず、なのになんで。


「えっと、そういうの話すと少し長くなるんでまた後で。とりあえず、ここは任せてください」


 それだけ言って優花殿は私の方に背中を向けながら立ち上がりました。


「お前、邪魔すんじゃねぇよ」

「いや・です!! だから邪魔します、どなたか知りませんが私は沖田さんを守ります!」


 その背中と言葉を聞いて温かくもなりましたが何かぽっかりと空白が生まれた気がしました。

次回予告!!


「どうして私を‥‥‥」


 理を超えた刃は何を思い


「あなたなんかに分かるわけがないでしょう!?」


「その‥‥‥仲間になってくれませんか‥‥‥?」


 何を願ったのか――


「ふざけんじゃねぇ!!」


「総司を頼んだ」


「我が君より預かりし刀を今お返しします」


「「さぁ『誠』に咲き誇れ!!」」


第四話 【京と 新選組の 狂犬】

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